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貴族ごっこの成れの果て

毎日3回、7:00、11:00、16:00に更新します。アルファポリスさま、カクヨムさまにも投稿中。アルファポリスさまでは、数話分先行して更新しています。

まったく、あの娘ときたら!


自室に戻ったサンドラは、鼻息も荒くソファに腰をおろした。せっかく手に入れた貴族の地位と暮らしなのに、手放すわけがないではないか。


サンドラが貴族に執着するわけは、その生い立ちにあった。


平民ながら裕福な商家に生まれたサンドラは、両親に溺愛されて贅沢ざんまいに育つ。3つ上の兄は後継ぎとして厳しく教育されたが、サンドラは女の子だからと甘やかされほうだいだったのだ。欲しいものは何でも与えられたし、金で片が付く願いは何でも叶えられた。サンドラは平民でありながら貴族のように使用人にかしずかれ、年頃になれば家庭教師に学んで貴族と同等の教養を身につけた。


高価なドレスを着て気取って歩くサンドラを、金目当ての取り巻きたちが「貴族のようだ」と誉めそやす。サンドラの父に借金をしにきた貴族も、その愛娘にご機嫌とりのおべっかを使った。


「いやあ、うちの娘よりもよほど気品があって美しいですな!マナーも完璧だ!」


サンドラはそういった誉め言葉を真に受けて得意になった。家に借金のある貴族令嬢たちと友人のように付き合い、時には茶会にも呼ばれる。そんななかで、しだいに自分は貴族となんら変わらないと思うようになっていったのだった。


しかし、そんなサンドラに対して敵意をもつ貴族もいた。茶会では、そんな令嬢たちによく嫌味を言われたのだ。


「まあ、あんなにジャラジャラとアクセサリーをつけて、少し品に欠けるのではなくて?」


「仕方ないわよ、あの方は平民ですもの」


「ほらご覧になって、あのフォークの持ち方」


聞こえるように囁かれる嫌味やクスクス笑いが、サンドラのプライドを傷つける。しかし身分の違いがあるので、さすがに表立って言い返すわけにもいかなかった。こうして貴族とつきあえばつきあうほど、貴族のようにふるまえばふるまうほど、自分が平民であることを思い知らされるようになっていったのである。


私は貴族よりも貴族らしいのに。あんな令嬢たちの誰よりも美しくて上品なのに。なんでバカにされなきゃならないの!?


サンドラは自分が平民であることに違和感さえもち始めたのだった。そして、貴族と結婚して本物の貴族になることを望み始める。


「貴族と結婚したいわ」


縁談が舞い込むようになった17歳のとき、サンドラは父親にそう願った。金に困った下位貴族が裕福な平民と結婚するのは、この国ではそう珍しいことではない。


可愛がっていた娘のこの願いに、これまで甘々だった父親は良い顔をしなかった。実はこの頃、父親の商売は以前ほどうまくは行かなくなっていたのだ。だから娘はつき合いのある商人と結婚させて、結びつきを強めたいと考えていた。


なんの苦労もなく蝶よ花よと育てられたサンドラは、そういった事情も知らされなかったのである。そして願いが叶わなかった悔しさは、彼女の胸に大きなしこりとなって残る。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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