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バーサ、ちょびっと呪ってみる

毎日3回、7:00、11:00、16:00に更新します。アルファポリスさま、カクヨムさまにも投稿中。アルファポリスさまでは、数話分先行して更新しています。

シンデレラを送り出したあと、馬車に籠城したバーサはベティを膝にのせてクッキーをほおばっていた。待っているあいだは退屈だろうと、気をきかせたケイトが持たせてくれたのだ。本当は呪いの本で暇つぶしをしたかったのだが、「王宮に持っていって良い本じゃない」と全員に止められてしまったのだ。


でも、勇気を出して良かったわ。


ここにたどり着くまでは心臓が爆発しそうなくらいドキドキしていたが、何ごともなく無事に役目を果たした今は、少しだけ自信のようなものを感じていた。


やっぱり王宮の舞踏会ともなると賑やかねぇ。


馬車のなかにいても、会場の優雅な音楽がかすかに聞こえてくる。その華やかさを少しは感じてみたいと思って、バーサは馬車の扉を静かに開けた。ほかの御者はみんな使用人用の控室にいるらしく、今ここにいるのはバーサとベティだけのようだ。


バーサは周囲を確認してそっと馬車の外に出る。見上げれば、暗い庭の先に煌々とあかりの灯った大きな宮殿が見えた。


お姉さまもシンデレラも、今頃はあの場所でダンスをしているのかしら・・・。


王子さまには会えただろうか?ふたりとも美人だから、もしかしたら王子さまにダンスを申し込まれているのかもしれない。お母さまはどうしているのだろう?今日は一応アデラの付き添いだけど、あの人がおとなしくしているところは想像できない。


「大丈夫かなぁ、シンデレラ」


バーサは声に出してつぶやく。お母さまに見つかって、イヤな目にあわされてはいないだろうか?アデラには止められたけど、やっぱりお母さまには呪いをかけておけばよかった。


そうよ、今からでも遅くないわ!


バーサはその場で目をつぶり、母親にある呪いをかけた。そして、しばらくのあいだ考え込んでいたが、やがて心を決めたようにうなずく。


やっぱりシンデレラが心配だし、ちょっとだけ様子を見に行ってみよう。


帽子をかぶりなおしてベティをしっかりと胸に抱くと、バーサは暗い庭へと足を踏み入れた。


******


「ご令嬢、私と踊っていただけませんか?」


いきなり知らない男性に呼び止められ、シンデレラは驚いて立ち止まった。すると、後ろから別の男性の声がかかる。


「おい、そのご令嬢は私と踊るんだ!私は先ほどから彼女を追いかけていたのだからな」


背後から現れた若い男性はシンデレラの横に立つと、最初に声をかけた男性に食ってかかった。シンデレラは心底驚いて、飛びのくようにしてその男性から距離をとる。どうやら清楚で儚げなシンデレラの美貌は、知らず知らずのうちに周囲の注目を集めてしまっていたらしい。


「それはそれは、王宮の舞踏会にストーカーがいるとは」


もう一方の男性は落ち着いていて、鼻で笑いながらそう返した。


「なんだと!?」


若い男性は血の気が多いようで、顔を真っ赤にして怒りはじめる。


まあ、どうしましょう!?


険悪な雰囲気にシンデレラは慌てる。ケンカに巻き込まれたくないし、何より目立ちたくない。だが場慣れしていないので、こんなときのスマートな断り方が分からなかった。


「いえ、あの、私は少し休ませていただきたいので」


そんなことをモゴモゴ言って困っていると、どこかで聞き覚えのある声が割って入ってきた。


「では、私が休憩所までご案内しましょう」


振り返れば、ひとりの青年がすぐそばに立っている。彼はシンデレラに微笑みかけると男性たちに向き直り、白い手袋をはめた手でくぃっとメガネをあげた。


「嫌がるご令嬢を無理に誘うのはいけませんね」


「何だよ、おまえは!?」


若い男性は文句を言うが、近くにいた人に何やら耳打ちされて黙り込んだ。かばってくれた男性はそれなりに地位のある人らしいと察して、シンデレラは青ざめる。さっきの仕草で、彼がドレスをくれた「謎の商人」だと気づいたのだ。


「シンデレラ嬢、休憩できるところまでご案内します」


差し出された手を、シンデレラは恐る恐るとる。人ごみをかき分けつつ「この人はいったい何者なのだろうか?」と考えていると、やがて誰もいないバルコニーへと行きついた。隅に休憩用の椅子が置かれた広いバルコニーで、庭へ降りていける階段がついている。


「誰も入れないように衛兵に言っておきますので、ここでゆっくり休んでください」


シンデレラを椅子に座らせて立ち去ろうとする青年を、シンデレラはあわてて呼び止めた。


「あ、あの!あなたは先日ドレスや宝飾品をくださった方ですよね?」


「私はある方に頼まれてお届けしただけですよ。その方をいま呼んできますね」


青年はそう言い残して出て行ってしまった。

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