わたひがぎょひゃになるひゃ!-2
毎日3回、7:00、11:00、16:00に更新します。アルファポリスさま、カクヨムさまにも投稿中。アルファポリスさまでは、数話分先行して更新しています。
どうしよう、なにか私にできることはないかな?
壁際にひっそりと立っていたバーサは、前髪のスダレ越しにセバスとケイトのやり取りを聞いていた。セバスの仕事が分かるなら、自分が代わりにやってもいい。だが、あいにく執務の手伝いをしているのはアデラだ。商家の娘として帳簿の知識は多少あるが、その程度では執事の代わりは務まらないだろう。
アデラお姉さまだったら、役にたてたかもしれないのに。
社交も執務もできない自分は、なんと役立たずなのだろう。バーサは自分の不甲斐なさにうつむく。
でも、御者なら、私にもできるわ・・・。
相棒のベティを抱えていた腕に、キュッと力がこもった。
母の実家に身を寄せていた時は、店の手伝いで配達の仕事をしたことがあるので、馬車を操るのはけっこう得意だ。王都の道ならそれなりに知っているし、行ったことはないが王宮の場所はだいたい分かっている。きっとセバスの代わりを務めることができるだろう。
だけど貴族がたくさん集まる場所は怖い。
もう長い間バーサは家にこもっているので、外に出るのには少し勇気がいる。さらに伯爵家の茶会の一件がトラウマになっていて、貴族が集まる舞踏会に行くと考えるだけで恐ろしかった。しかし一方では、シンデレラには絶対に舞踏会に行ってもらいたいと思う。ドレスだって、皆で一生懸命に飾りつけたのだ。
どうしよう・・・どうしよう・・・。
唇をかんで逡巡していたそのとき、シンデレラのため息混じりの声が聞こえた。
「仕方ないですわ、こんなに素敵なドレスまで用意してもらって残念ですけど、舞踏会に行くのはあきらめ・・・」
シンデレラの残念そうなその言葉を聞いた瞬間、バーサは思わず前に出て叫んだ。
「わっ、わたひが、ぎょひゃになるひゃ!」
「私が御者になるわ」と言うつもりが緊張のあまり噛んでしまい、呪文のようになってしまった。けれど意味は通じたらしい。3人とも目を見開いてこちらを見ている。シンデレラが「あきらめる」と言いかけるのを聞いて、とっさに前に出てしまったのだ。体が自然に動いてしまったと言っていい。
「バーサお義姉さま、御者ができますの?」
シンデレラはバーサの前にくると、ベティを抱いていない方の手をとって両手でにぎりしめた。バーサはコクコクとうなずく。
「う、うん、馬車をあやつるのは得意だから、任せて!」
言いながらバーサは覚悟を決めた。ここで自分が頑張らなければ、皆でシンデレラのためにしてきたことが無駄になってしまう。不器用で情けないヘタレだけれど、それでも自分はシンデレラの姉なのだ。
そうよ、やればできる、できるわ!!
しばらくのあいだバーサの顔を見つめていたシンデレラは、やがて義姉の思いを理解したように微笑んだ。バーサの手を握る手に力を込め、にっこりと笑いかける。
「分かりました。よろしくお願いいたしますね、バーサお義姉さま」
そんなふたりの様子を見ていたケイトは、うなずくとテキパキと動き始める。
「では、急いでお支度をしましょう!」
シンデレラをドレッサーの前へ座らせ、夫のセバスに指示を出す。
「バーサお嬢さまに合う御者服を見繕ってください」
「あ、ああ、分かった」
不安そうに顔を曇らせていたセバスだが、妻の声にハッと我にかえる。アデラもバーサもシンデレラも、それぞれが家族を思いやって頑張っているのだ。その令嬢たちを支えるのが自分の仕事だと、いつもの執事の顔に戻る。
「では、まずは制服を探しにまいりましょう」
セバスはバーサに頭を下げると部屋を後にした。
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