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りっち?それって美味しいの?-1

アルファポリスさま、カクヨムさまにも投稿中。

シンデレラの部屋の前までくると、サンドラはノックもせずにいきなりドアを開けた。ドレッサーの前に座っていたシンデレラが驚いて振り向く。


「シンデレラ、何をしているの?」


ひとりで鏡の前にいる彼女に近づきながら、不機嫌にたずねる。ようやくサンドラに追いついたセバスが、頭をさげて申し訳なさそうに入室した。


「ごきげんよう、男爵さま」


シンデレラは立ち上がって義母に挨拶する。以前はお義母さまと呼んでいたが、サンドラが爵位をついでからは男爵さまと呼ぶように命じられていた。「おまえは私の娘じゃないのだから」と。


「髪の結び方を工夫していましたの」


そう言って、クセのない金髪を手櫛で整える。


その髪も、紫の瞳も、どこか儚さをただよわせる美しい容姿も、すべて実母から受け継いだものだ。シンデレラの母は聖女の血を受け継ぐとされる伯爵家の令嬢で、「スットコランドのすみれ」と賞賛された愛らしい容貌の持ち主だった。しかしその母の面影をシンデレラはあまり覚えてはいない。母は彼女が3歳のときに病気で亡くなってしまったのだ。


「はあ?そんなものは侍女にやらせなさいよ。貴族の令嬢がみっともない」


サンドラはさげすむように彼女を見て、きれいに結い上げた自分の髪に手をやる。もちろん茶会に出るために侍女頭のケイトに整えさせたものだ。


「申し訳ございません」


シンデレラは何か言いたげなようすではあったが、素直に謝った。サンドラと言い合っても消耗するだけだと経験で知っているのだ。それに「今回に限れば」サンドラは間違ったことは言っていない。外出の予定がなくても、貴族なら使用人に髪を整えさせるのが常識である。


「ふん!まあいいわ。それよりおまえの衣裳部屋を見せなさい」


腕を組んで衣裳部屋のほうを顎でしゃくる。


「衣裳部屋でございますか?」


意外な要求にシンデレラは目を見開く。驚いたのは、義母が自分の身の回りに関心をもったことなどないからだ。それは実の娘たちに対しても同じで、サンドラは基本自分のことにしか興味がないように見えた。


「そうよ、我が家の財政はひっ迫しているらしいから、不用品を売り払ってお金にするのよ」


ニヤリと意地の悪い顔で笑うサンドラ。もちろん不用品といわず、シンデレラのドレスやアクセサリーはすべて取り上げて売り払うつもりだ。


「おまえ、お父さまが亡くなってからは茶会にも出ていないのだから、ドレスなんか必要ないんじゃない?」


もともと社交の場にあまり出たがらない娘だったのが、父親が亡くなったあとはいっさい出かけなくなっている。そんな娘にはドレスもアクセサリーも不用品だ。衣裳部屋には、父親が生前に買い与えた高価な品がそろっているはずだし、母親が伯爵家からもってきたお宝だってあるかもしれない。それらはきっと良い値で売れるだろう。


ふふふ、新しいドレスを何枚か新調できそうね。


サンドラはさっそく胸算用をはじめていた。リッチ・ダモンネの新作だって、作れるかもしれない。


「でも男爵さま、売れるようなものは私の衣裳部屋にはないと思いますけど・・・」


シンデレラは小首をかしげる。いかにも愛らしく見えるその仕草にイラっときて、サンドラは鋭い目で継子をにらみつけた。


「そういうぶりっ子みたいなのはいいから、早く見せなさいって言ってるの!」


この娘はおつむが弱いのかなんなのか、思ったような反応が帰ってこないことが多い。サンドラはもっと、「お父さまが贈ってくださったものです」とか、「お母さまの形見は売らないで」とか言って泣いてすがるところが見たいのに。華奢で小柄な見た目は頼りなげで、いかにも苛めがいがありそうなのに、何を言ってもまるで堪えてないようだ。


「もういい、勝手にやるわ」


イラついたサンドラは衣裳部屋に突進した。「おやめください」とセバスが止めに入るが、無視して扉を開く。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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