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アデラの決心

毎日3回、7:00、11:00、16:00に更新します。アルファポリスさま、カクヨムさまにも投稿中。アルファポリスさまでは、数話分先行して更新しています。

アスター男爵家では、舞踏会に向けて各自が自分の役割をこなしていた。しかも間違ってもサンドラにバレてはいけないので、コッソリと進めなくてはならない。


そしてバーサは今、セバス夫妻の部屋でツルツルの絹地と格闘している。シンデレラのドレスを飾る花の飾りをつくっているのだが、絹はすべるので思いのほか難しい。


「痛っ!」


バーサは小さな悲鳴をあげる。また針で指を刺してしまったのだ。バーサの指にはすでにいくつもの絆創膏が張られていた。


「バーサ、大丈夫?」


針を動かしながらアデラが声をかける。


「平気よ、これくらい」


ドレスを豪華に見せるにはたくさんの花飾りが必要だ。今のところお母さまの意地悪から呪いで守ってあげることもできないし、自分がシンデレラにしてあげられることはこれくらいしかないと、バーサは頑張っていた。


「バーサお嬢さま、そんなにおひとりで頑張らないでも大丈夫ですから」


バーサの指に何枚目かの絆創膏を巻いてやりながら、ケイトが優しく声をかける。


「だってケイトは普段のお仕事もあるもん、一番暇な私が頑張らなきゃ」


「いえ、この頃はお掃除もよくしていただいてますし、心苦しいですが助かっております」


ケイトが少し申し訳なさそうに言った。アデラも最近では掃除だけではなく、シンデレラの執務を手伝って帳簿つけなどしているのだ。そのうえ針仕事まで手伝わせている。本当なら3人とも使用人にかしずかれて暮らせる身分なのに、こんな苦労をさせてと彼女は胸を痛めていた。それもこれもサンドラのせいだと腹が立ったが、目の前の令嬢たちにとってはあれでも母親なのだと思うと、そうそう悪くも言えない。


「そう言えばお姉さま、馬車の件は大丈夫なの?」


再び針を動かし始めたバーサが、アデラに聞く。馬車が手配できなかったら、一生懸命ドレスを仕上げてもどうにもならない。


「もちろん。ある方にエスコートをお願いして、早めに馬車で迎えに来てくれるように段取りしてあるわ」


自分と母親はそれで出かけ、シンデレラは家の馬車で王宮へ向かえばいい。


「もしかして、アルバートさま?」


バーサは当然のごとく、姉が一番仲良くしている人の名前をあげた。


「そうじゃなくて、先日の夜会で会った方にお願いしたの。ハブリー・イイデンナ伯爵とおっしゃって、とても素敵で頼れる紳士なのよ」


言いながらアデラは、伯爵のキンキラキンの姿を思い浮かべる。ファッションセンスがちょっとアレだが、先日会いに行ったときも態度は紳士的だった。それに、エスコート役も迎えに来てという要求も、二つ返事で引き受けてくれたのだ。迎えに行く時間が早すぎないかとは言われたが、用意していた言い訳を話すとすぐに納得してくれた。


「王宮に行けることなんて滅多にないですから、早めに行っていろいろ見学したいんですの」


ダメかしら、と上目づかいで伯爵を見れば、彼は笑いながらこう言った。


「はっはっは!可愛いらしいですな。王宮にはバラの美しい庭園などもありますから、私が案内してあげましょう」


「まあ嬉しい!ありがとうございます」


アデラは心から彼に感謝して別れたのである。屋敷に帰ってからサンドラに告げると、伯爵家の馬車に乗って行けることに喜んだ。早めに行って王宮を案内してもらうという案にも、上機嫌で賛成したのだ。


母親を伯爵に会わせるのは少々不安だったが仕方がない。サンドラを舞踏会に連れて行かないとシンデレラが家を出られないのだ。王宮でもシンデレラと鉢合わせしないように気を付けなければならない。


私に舞踏会を楽しむ暇はないのよ。


アデラは自分にそう言い聞かせた。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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