女当主の怒り-3
アルファポリスさま、カクヨムさまにも投稿中。
夫だったアスター男爵は、2度目の結婚記念日を過ぎたばかりの寒い冬の日、雨に濡れて帰ったことがきっかけで肺炎にかかってしまう。まだ40代だし、療養すれば回復すると思っていたのに、10日ばかり寝込んだのちにあっけなく亡くなってしまったのだ。
まったくアテが外れてしまったと、サンドラはティーテーブルのうえで拳をにぎる。
夫の死後、サンドラはいくらかの心細さは感じていたが、それほど悲しんではいなかった。彼とは地位とお金が目当てで結婚しただけだ。爵位は自分が継ぐことができたし、楽しく暮らせる財産もある・・・そう思っていた。
しかしフタを開けてみれば、財産は屋敷と土地くらいで、現金はあまり多くは残っていなかったのである。
夫は死の直前に、事業を拡大するための借金をしていたのだ。肺炎にかからなければその事業は続けられ、莫大な利益を生んだのかもしれない。あるいは事業を継げる者がいれば。しかし3人の娘はまだ若く、サンドラにはもちろんそんな才覚も覚悟もない。事業をたたむために借金を清算すると、現金は期待したほど多くは残らなかった。しかも今後は事業の収益は入ってこない。領地をもたない男爵家の収入はゼロである。
「しかもあの小娘に!」
サンドラの顔が怒りで真っ赤になった。遺言により、屋敷と土地はすべて継子のシンデレラに残されたのだ。それを聞いたとき、サンドラはあまりのショックに気を失いかけたほどだ。これでは、アスター男爵家はシンデレラのものだと宣言しているのと同じではないか。サンドラは亡き夫に自分を否定されたように感じていた。
「あの男も、私をバカにしたアイツらと同じなのよ!!」
ドン!拳でテーブルを叩くと、ちょうどお茶を持って入ってきたセバスがビクリと肩を震わせた。
「お、お待たせいたしました」
サンドラの顔色をうかがいながら、ティーセットと菓子を並べる。それを見たサンドラは顔をしかめた。
「なによ、このシケたクッキーと果物は」
皿には素朴な木の実のクッキーと旬の果物が並んでいた。子爵家の茶会に並んでいたカラフルな菓子や珍しい南国の果物を思い出し、みじめな気分がぶり返してくる。
「男爵さま、クッキーは焼き立てです。湿気ってはおりません」
「そういう意味じゃない!!」
みじめな気分を吹き飛ばすように、今度は両の拳でテーブルを叩く。
「で、ですが、シンデレラお嬢さまの手作りでございますので、ぜひお召し上がりを・・・」
「はん!あの娘の手作り」
サンドラは素朴な菓子をつまみあげてながめる。まったく、ケチ娘にふさわしいシケクッキーだ。
「いいことを思いついたわ」
そしてニヤリと笑うと、クッキーを床に捨てて踏みつぶした。
「今からあの娘の部屋に行くわよ、ついてらっしゃい」
サンドラはセバスの返事も待たずに部屋を出ると、目的の場所めがけてつかつかと廊下を進んでいく。
そうよ、私にこれ以上節約しろって言うなら、あの娘にお手本を見せてもらおうじゃないの!
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