舞踏会の招待状-1
毎日3回、7:00、11:00、16:00に更新します。アルファポリスさま、カクヨムさまにも投稿中。アルファポリスさまでは、数話分先行して更新しています。
アデラが侯爵家の夜会に出かけた翌日のこと。サンドラは執事のセバスから一通の手紙を渡された。それは上質な紙が使われた立派な封筒で、封に赤い蝋を垂らして紋章が押してある。
「なにこれ?どこからかしら?」
寝椅子に半身を起こした状態で手紙を受け取ったサンドラは、そのままの姿勢で雑に封筒を破こうとする。セバスはあわてて止めた。
「だっ、男爵さま、そちらは王家の紋章かと存じます」
「なんですって!?」
鷹と麦の穂をモチーフにした王家の紋章は、この国のものなら誰でも知っている。貴族やそれに仕える使用人ならなおのことである。その印章が押された手紙は、寝そべりながら雑に開けて良いものではない。
サンドラはセバスに渡されたペーパーナイフで丁寧に開封した。なかの手紙を読んでにんまりと笑う。
「セバス、アデラを呼びなさい」
「かしこまりました」
退出するセバスの声を背に、サンドラはワクワクした気持ちを抑えられない。
「王宮の舞踏会に招待されるなんて、何を着て行こうかしら!!」
封筒に入っていたのは妃選びの舞踏会への招待状で、招待されているのは当然この家の若い令嬢たちなのだが、サンドラはそんなことおかまいなしだ。付き添いとして、派手に着飾って出席するつもりである。
「アデラ!王宮からの招待状が来たわよ!!」
アデラが入室すると、サンドラがはしゃぎながら飛びついてきた。こんなに機嫌が良いのは何日ぶりだろうか。アデラはセバスから手紙のことを聞いた時点で、だいたいの予想はついていた。まさか本当に招待状が来るとは思っていなかったので、少々驚いてはいたが。
「さあ、急いでドレスを新調しないと」
もちろん自分のを、ついでにアデラのもである。
「お母さま、私は必要ありませんわ。それよりシンデレラのドレ・・・」
シンデレラのドレスをと言いかけたアデラをサンドラは盛大にさえぎる。
「まぁああああ!!!あの変わり者の娘を王宮に行かせるなんて、アスター男爵家の恥をさらすことになるわ!!」
「でも男爵家の血を引いているのはあの子です」
国じゅうの若い令嬢が集まる場に出ないなど、それこそ男爵家の後継ぎとしての影が薄くなってしまう。実子のシンデレラを押し退けて自分だけが舞踏会に参加するなど、とてもじゃないができない。
「正式な養子縁組をしたんだから、あなただってアスター男爵家の娘だし、長女なのよ。バーサはあんなだし、出席できるのは私とあなたしかいないでしょ」
なぜか自分も候補みたいな言い方をするサンドラに、アデラはあきれて口をつぐんだ。サンドラは調子にのってしゃべり続ける。
「まあ、あなたが妃に選ばれるとは思わないけど、王宮の舞踏会なんて上位貴族とのコネをつくるチャンスじゃないの」
国じゅうの年頃の令嬢が集まるのだから、普段は会えないような上位貴族と知り合える可能性がある。サンドラは意味深な笑みを浮かべながら、こう続けた。
「おまえにも、そろそろ良い婿を探さないとね」
アデラはハッとして母親の顔を見る。
「嫁入り先」ではなく「婿」ということは、母は自分にこの家を継がせるつもりなのだろうか。ならシンデレラはどうするつもりなのだろう?幸せになれるような嫁入り先を探すなど、この人は絶対にしないに違いない。それこそ資金援助と引き換えにして、条件の悪い相手に嫁がされるのではないだろうか。
アデラは胃の底がズンと重くなるのを感じた。とりあえず今はサンドラに逆らうのをやめにして、静かに告げる。
「分かりましたわ。でも私は新しいドレスはいりませんから」
「欲のない子ね」と言う母親を無視して部屋を出ると、セバスとケイトに相談するために廊下を急いだ。皆でシンデレラを説得するのである。
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