アデラ、手ごろなオジサマを見つける-1
毎日3回、7:00、11:00、16:00に更新します。アルファポリスさま、カクヨムさまにも投稿中。アルファポリスさまでは、数話分先行して更新しています。
ブライト伯爵家の次男アルバートは、アデラの話に笑い転げていた。ふたりがいるのは馬車のなか。これから一緒にエラッソー侯爵家の夜会に行くところである。
「あっはっはっは!君の義妹は本当におもしろいな!」
大声で笑うなど貴族らしくないと普通の令嬢なら顔をしかめるところだが、アデラはそんな彼の気さくさに好感を持っていた。彼は特別に美男ではなかったが、そんな風に笑うと人懐っこい大型犬のようで可愛いのだ。
「本当に笑い事じゃないんだってば!聖女の力を狩りに使うなんて言い出すから、こっちは必死に止めたのよ」
昨日のこと、森から帰ったシンデレラが罠をつくりたいと言い出した。なんでも森で偶然に会った騎士たちから教わったのだという。
「罠を仕掛けて歌で動物たちを集めれば、うまくすれば鹿が捕獲できますわ」
目を輝かせて言うシンデレラに、サンドラはセバスたちと一緒になって説得した。聖女から受け継いだと言われる神聖な力をそんなことに使ってほしくなかったからだ。
「だけど、そんなに困っているのかい?」
アルバートはこれも貴族らしくなく、踏み込んだことを訊いた。青い瞳が気づかわしげにアデラを見ている。
実はアルバートとは、アデラが男爵家の令嬢になる前からの友人どうしである。両親の離婚後、身を寄せた母の実家の居心地の悪さに、アデラは街をふらふらすることが多くなっていた。その頃に彼と偶然に知り合ったのだ。
当時のアルバートは、伯爵家の次男という立場を隠して遊んでいた。母親の再婚後はもう彼に会えないと思っていたアデラだが、ある舞踏会で再会して彼が本当は貴族だったと知る。それ以降は、お互いに気の置けない友人として付き合いを続けていた。
「まさか、食べるのに困ることはないのよ。でもあの子にしたら、節約できるところは少しでも節約したいって思ったみたい」
「堅実なんだな」
アルバートは男爵家で一度会ったシンデレラの姿を思い浮かべた。小柄で線が細く、いかにも頼りなげな姿だったが、中身は意外としっかり者というか、実利主義というか、貴族の令嬢らしくないなと思う。
「だけど、いくら言ってもお母さまは浪費をやめないし」
アデラはため息をつく。長女としてもっと強く言ったほうが良いのかもしれないが、これ以上家族からサンドラを孤立させてしまうと、ますます意固地になって扱いにくくなりそうだと感じていた。
「毎日ケンカばかりするのも、家のなかがギスギスして嫌だしね」
「それで君は、金持ちの後妻を狙ってるのか」
アルバートの少しからかうような問いかけに、アデラは返事をせずにそっと目をそらせた。今夜、エラッソー侯爵家に来るある人物に会いたくて、今日のエスコートを彼に頼んだのである。
「ねえアデラ、君は本当にそれでいいの?」
アルバートは珍しく真面目な顔になって尋ねた。
アデラの目論見は前から聞いていたが、以前はどこまで本気なのかと思っていたのだ。だが最近は違う。家族想いで無駄に根性のあるアデラのことだから、本気で有言実行するだろうと彼は心配していた。
「だって、ほかにどうしようもないもの・・・」
うつむいてしまった彼女に、アルバートは顎を撫でながら言葉を続ける。
「うちにもう少し財力があればなぁ、俺が男爵家の婿になっても良いんだが」
はじかれたようにアデラが頭をあげる。顔には驚いたような表情が浮かんでいた。
「それって、シンデレラと結婚したいってこと?」
「ええ?」
アルバートは心底意外だという顔をして、「そう来たか」と小声でつぶやいた。そして、エラッソー侯爵の屋敷へ着くまで、なんとなく気まずい雰囲気のまま馬車は進んだのである。
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