乙女の手なずけ方ー2
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王宮の資料室には、国内貴族の家系図や歴史を記した資料が保管されている。
騎士たちの話によれば、昨日のできごとがあった森はアスター男爵家のものらしい。アスター男爵家は新興貴族だが、先代の亡くなった先妻は確かヴェル伯爵家の令嬢ではなかったか。
「ヴェル伯爵家と言えば、20年ほど前に断絶したと聞いたな」
爵位を継いでいた者が子供を残さずに若くして亡くなり、ほかに継ぐべき血縁がいなかったのだ。領地も現在は王家のものとなっていたはずだ。ヴェル伯爵家はスットコランド王国にとって重要な家だったのに、残念なことである。
ディランは幼いころに乳母から聞いた聖女の物語を思い出す。
「ぼっちゃま、昔はこの国は、作物がとれなくて貧しい国だったそうですよ」
「ええ?だって今は作物がいっぱいとれるじゃないか!」
幼いディランは、家庭教師から聞いた話と違うと乳母に抗議する。
「それは聖女さまがお祈りを捧げて、この国の土地を豊かに変えてくださったからです。すみれ色の瞳を持った、美しい方だったそうですよ」
「聖女さま?どこにいるの?」
「昔のお話しですよ。でもヴェル伯爵家はその聖女さまの末裔で、今でもすみれ色の瞳のご令嬢が生まれるんだそうでございます」
それは事実だったかどうか確かめようのないくらい昔のことで、聖女の物語は言わば国作りの神話のようなかたちで語り継がれてきた。しかし、ヴェル伯爵家は王国で最も古い家のひとつであり、ときどき聖女と同じすみれ色の瞳をもつ女の子が生まれていたのは事実なのだ。
確か、男爵家に嫁いだ令嬢もすみれ色の瞳だったと聞いた。ディランの父はその令嬢と面識があったらしく、「スットコのすみれ」と称賛された美貌をたいそう褒めていたのを覚えている。
「その令嬢と同じすみれ色の瞳の娘が、アスター男爵家所有の森にいたと」
これは関連付けて考えないわけにはいかないだろう。ディランはアスター男爵家の薄っぺらい家系図を開く。これは婚姻や出生などの届け出があるたびに、書き加えられているものだ。
「うむ、先代男爵はヴェル伯爵家から迎えた夫人とのあいだに、娘をひとりもうけたのだな」
そして夫人が亡くなったあとに後妻を迎えている。再婚と同時に2人の娘が養女になっており、これは恐らく後妻の連れ子であろう。ということは、伯爵家の血を継ぐ先妻の娘は、父親を亡くしたあとは継母とその娘たちと暮らしているのだろう。
「これは臭うぞ」
謎の娘は貴族のような品があったのに、メイドのお仕着せを着ていたと聞いた。もしかして、娘は爵位を継いだ継母と義姉たちにひどい扱いを受けているのではないだろうか?使用人のような扱いを受け、森の小動物を食べようと考えてしまうほど腹を空かしているのでは?
「これは放置できないな、詳しく調査させよう」
謎の娘はアスター男爵家の令嬢である可能性が高いし、そうなれば聖女の血筋を受け継いでいることになる。爵位が低くても、伝説の聖女の血が流れる令嬢なら、王子の妃としても不足はないだろう。
継母にいじめられていた不遇な令嬢をローレンス王子が救い出す。ふたりは恋に落ち、結婚するのである。
「殿下はもちろん、国内外の王侯貴族にもおおいにウケそうな、ロマンティックな恋物語じゃないか」
ディランはにんまりと笑った。
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