乙女の手なずけ方ー1
毎日3回、7:00、11:00、16:00に更新します。アルファポリスさま、カクヨムさまにも投稿中。アルファポリスさまでは、数話分先行して更新しています。
その翌日、ディランは不機嫌さをなんとか押し隠しながら、執務室の自分の席についていた。側には昨日ローレンスと出かけた騎士が並んで立っている。
気絶したまま王宮の部屋に運び込まれた彼は早朝に目を覚まし、昨夜のことが悪夢でないことを認めると、朝一番に彼らを呼び出すことを決めたのである。騎士からも話を聞いて、王子の話に間違いはないか確認し、謎の娘についての情報を集める必要があると思ったのだ。
だいたいの話が終わったころ、開かれたドアからローレンスがさっそうと現れた。ディランは立ち上がると、王子に向かって頭を下げる。
「おはようございます、ローレンス殿下」
「おはよう!ディラン、具合は良くなったのか?」
「もう大丈夫です。ご心配をおかけして申し訳ありません」
「本当にびっくりしたぞ。ディランは真面目なのはいいが、少し働きすぎじゃないか?」
おまえのせいだよ!と、心のなかで不敬なツッコミを入れつつ、ディランはメガネをくいっとあげる。
「確かにここのところ舞踏会の準備に忙しくしておりました。昨日は招待状の最終確認と発送もしましたし・・・(おまけに殿下が投げ出していった執務もあったし)」
「う、うむ、いつも苦労をかけてすまないな」
ディランの心の声が聞こえたかのように、ローレンスはちょっと気まずそうに答えた。一夜明けて興奮がいくらかおさまったのか、昨日の行動を少しは反省しているらしい。
「とんでもないことでございます。殿下のお役に立つことこそ私の喜びなのですから」
手を胸に当ててうやうやしく頭を下げたディランは、しかしここぞとばかりにたたみかける。
「ですが、申し上げたとおり招待状は発送済みです。舞踏会は今さら中止にはできません」
そんなことをしたら王国の権威にかかわる。
「だが、もう心に決めた人がいるのに、妃選びの舞踏会は不要だろう」
ローレンスは渋い顔をする。しかし実際には妃は決まったわけではない。ただ偶然に出会った娘に一目ぼれしただけである。相手の素性だってまだ分からないのに、勝手に決まったように言わないで欲しい。
「その方の件は私が調べます。本当に貴族の令嬢なら、舞踏会で再会できるでしょう」
昨夜王子から話を聞いたときは、そんな娘の素性を調べるのは無理だろうと思ったのだが、騎士たちに詳しく話を聞いた今は違っていた。もしかしたら、ちゃんとした貴族の娘(言動はともかく、血筋的には)かもしれない可能性が出てきたのだ。これはきちんと調べなければと、ディランも興味が出てきたのである。
「舞踏会か・・・着飾った彼女はさらに美しいだろうなぁ」
きっと娘とダンスするのを想像しているのだろう、ローレンスはうっとりした顔でその場で一回転してみせた。優雅にステップを踏むその周囲に、バラの花びらが舞うのが見えるようだ。さすがは王子さま。
「それに、森で出会った令嬢と舞踏会で偶然の再会なんて、それこそ運命的じゃないですか?」
そう言って、ディランはローレンスの乙女心をくすぐった。王子の心のなかに住む乙女は、偶然とか運命とかが好きなのだ。今はその乙女をなんとか手なずけなければならない。
「そうだな!そして私は王子だと名乗り、ひざまずいてプロポーズするんだ」
夢見る瞳のローレンスは、ディランの前で今にもひざまずきそうだ。自分にプロポーズされても気色悪いので、ディランは急いで付け加えた。
「ですので殿下、舞踏会は予定通り行いましょう!」
「うん、任せるよ」
上機嫌なローレンスの返事に、ディランはホッと胸をなでおろす。
「では書類の決済をお願いいたします」
そう言うと、グイグイと強引に王子を執務机に着かせた。急ぎのものは昨日のうちに自分が片付けたが、王子の仕事はまだたくさん残っているのだ。そして謎の娘の正体を調べるべく、自分は王宮の資料室へと向かう。
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