王子、運命の相手を見つける-2
あの護衛騎士が言った通り、ローレンス王子は晩餐までに帰ってきた。そして、念のため無事を確認するまではと王宮に残っていたディランに、瞳をキラッキラに輝かせながらこう宣言したのである。
「私は、真実の愛を捧げるのにふさわしい娘を見つけたぞ!!」
その言葉に、ディランの思考は停止した。
は?真実の愛?見つけた??
何か言おうと口を開きかけたまま立ちつくすディランに、今朝のウグイスの導きから娘との出会いまで、ローレンスは上気した顔で話して聞かせた。しかし、その話はいかにも荒唐無稽で信じがたい。森にひとりでいた娘だの、動物に囲まれて歌っていただの、まるでおとぎ話だ。
ディランはお供をしていた騎士たちに視線を向けるが、ふたりとも疲れとあきらめの混ざったような顔をしている。
「でな、ディラン。なんでウグイスを食べようなんて考えたのか聞くと、家族に栄養のあるものを食べさせたいからって言うんだよ、健気だろ?」
「は、はあ・・・」
健気か?とディランは首をかしげる。経済的に困っているのかもしれないが、可愛らしい鳥を獲って食おうなんて、怖くないだろうか?なんでも、その娘には歌うと森の生き物が集まってくるという特技があり、その動物を狩って食用にしたがっていたのだという。
「それで、その、ウグイスはどうなったんですか?」
「供の騎士がウサギ用の罠を教えてやったら、ウグイスは逃がしていたぞ」
「さ、さようで・・・」
ディランは何故だかホッとする。そんな彼の気持ちを知ってか知らずか、ローレンスは嬉しそうに続ける。
「なんかもう、話し方やしぐさのすべてが愛らしくてな!」
要は、可愛らしいから気に入ったと言うことらしい。しかし見た目はともかく、歌に集まってきた小鳥や小動物を食べるなんて、言ってることはまったく可愛くないだろう。
「では殿下、その娘さんは貴族ではないのですね?」
貴族でも経済的に苦しい家はある。だからと言って、その家の令嬢が森のなかでひとりで狩りをするなんてことはあり得ない。きっとどこかの使用人か平民の娘なのだろう。と言うか、歌で動物を集める特技って、そもそも人間なのかが怪しい。
「服装を見るとそうなんだが、あの立ち居振る舞いと整った美貌は平民とは思えないな。金色の髪は太陽のように輝いていたし、瞳はすみれの花のような美しい紫だったぞ」
娘の姿を思い出しているのだろう、ローレンスは何もない虚空をうっとりと見つめた。ディランは上品にウグイスを捕まえる美しい令嬢を思い浮かべようとしたが・・・無理そうなのでやめた。
「なにか事情があるのかもしれない。家も名前も教えてもらえなかったし」
そう言って王子は悲しそうに肩をおとした。そろそろ家に帰るという娘に送っていこうと申し出たのだが、「子供のころからのよく知った森だから」と断られてしまったそうだ。そして名を聞く暇もなく、逃げるように木々の間を駆けて行ってしまったのだと。
「だからディラン、その娘の素性を調べてくれ。たとえ平民の娘だとしても私はかまわない、私は彼女を愛してしまったんだ」
「ですが殿下!」
考え直すように説得しようとしたディランを制し、王子はこう続けた。
「だから舞踏会も中止だ・・・って、どうした?おい!!」
王子の言葉を聞いたディランはショックのあまり血の気がひき、丸太のように床に倒れた。薄れていく彼の脳裏には、舞踏会開催に向けて奮闘してきた日々が、走馬灯のように巡っていた。




