王子、旅に出る(日帰り)-2
毎日3回、7:00、11:00、16:00に更新します。アルファポリスさま、カクヨムさまにも投稿中。アルファポリスさまでは、数話分先行して更新しています。
ディランがヤケ気味に働いていたころ、王宮から離れた細い道を、3人の騎士が馬に乗ってゆっくりと進んでいた。騎士に扮したローレンス王子と、そのお忍び旅(?)についてきた騎士たちである。ちなみに、ローレンスは馬に乗るのも上手だし、剣術の腕もプロの騎士に負けないぐらいたつ。なので馬上の姿は凛々しく、騎士のいでたちもさまになっていた。
「ラリー、そろそろ戻りませんか?」
騎士のひとりが声をかける。ラリーはローレンスの愛称で、身分を隠すときには王子をこう呼ぶことになっているのだ。王都のあちらこちらをフラフラしているうちに、普段はなじみのない辺りまで来てしまった。もう夕方近いし、このまま行くと森に入ることになるので、戻ったほうがよさそうだと考えたのだ。
「いや、この先の森へ行ってみよう。今朝はウグイスの天啓があったから、自然の豊かな場所に出会いが待っている気がするんだ」
その言葉に、陰から見守っている者も含めた騎士たち全員が、「こんな森に年頃の令嬢はいないだろう、いたら怖い」と考える。
「しかし、知らない森は危険です。凶暴な獣がいるかもしれません」
騎士は王子をあきらめさせようと、少し脅かすようなようなことを言ってみる。しかしそれは逆効果だったようだ。
「だったら、獣に襲われて助けを求めている令嬢がいるかもしれないじゃないか!」
ローレンスはかえって馬を速めた。騎士たちは心のなかでいっせいに「そんなことあるかい!!」とサイレントツッコミを入れるが、こうなると王子について行くほかなかった。お供も影たちも、乳母は幼少の王子にどんな本を与えたのかと恨みつつ、もうしばらくは王子の「旅」に付き合う覚悟を決めた。
そうして踏み込んだ小さな森は、清々しい空気が満ちた静かな場所だった。木々や草花がよく茂り、生き生きしているように見える。
「なんだか、心が洗われるような気がするな・・・空気が澄んでいる」
ローレンスはゆっくりと深呼吸した。清らかな空気を胸いっぱいに吸い込むと、木々の緑にかすかな花の香りが混ざっているように感じる。
「どこか神聖な感じのする森ですね」
騎士のひとりがそう応じたが、もう片方は少し警戒するように言う。
「それにしても静かすぎやしませんか?このように豊かな森なのに、鳥の声ひとつ聞こえない」
「確かに、静かすぎるな」
木の実の豊富な木も多く見えるのに、先ほどから小動物の1匹も見かけない。もしかして恐ろしい獣がいるせいかもしれないと、騎士たちが警戒を強める。しかしそんな護衛たちにかまわず、ローレンスはある方向を指さして叫んだ。
「おい、あっちから美しい歌声が聞こえるぞ」
耳を澄ませば、確かに女性が歌う声が聞こえるような気がする。騎士たちに緊張が走った。こんな森のなかで歌声なんて、さらに怪しいではないか。物語に出てくるような、心を惑わす魔女が本当にいるような気がしてきた。
「あつ!ラリー、いけません!」
しかし警戒する騎士たちにかまわず、王子は歌声の聞こえるほうに勝手に進んでいってしまう。木々の間を抜けるようにして馬を歩かせると、やがて小さな広場のような開けた場所に出た。
「これは・・・」
現れた光景に、誰もが息を飲んで立ちつくした。
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