王子、旅に出る(日帰り)-1
毎日3回、7:00、11:00、16:00に更新します。アルファポリスさま、カクヨムさまにも投稿中。アルファポリスさまでは、数話分先行して更新しています。
「なんでだよぉおおおおおおお!?」
その朝、王宮にディラン・デキールの叫び声がひびき渡った。いつも通りに出仕した彼を待っていたのは、ローレンス王子がお忍びで「真実の愛を探す旅」に出てしまったという報告だったのである。例の舞踏会の準備は順調に進んでいて、あとは各家に招待状を送るだけになっているのに。
「殿下も楽しみにしているように見えたのだが、あれは私の勘違いだったのか?なにかご不満があったのだろうか?」
頭をかかえるディランの問いに、報告に来た中年の騎士がのんびりと答える。
「いや、そうではないでしょう。先日も舞踏会で着る衣装をはりきって選んでおられましたから」
この騎士はローレンス王子が幼いころから護衛として側にいるので、表情を見ればだいたいの機嫌は分かるのだ。その彼から見ても、王子は舞踏会を楽しみにしているように見えたという。
「なら、なんで真実の愛を探しに行ってしまわれたんだ?」
そのとき側にいた者の報告によれば、と騎士は続ける。
「なんでも朝目覚めて窓を開けたら、雲ひとつない空にウグイスが鳴いたんだそうです」
「は?ウグイス??」
ウグイスがなんの関係があるのか、ますます分からない。
「それを聞いた殿下が『鳥でさえ真実の愛を求めているのだ!』とかなんとかおっしゃって、年の近い護衛騎士を2名連れて旅に出られたそうです」
「いや、意味が分からないのだが・・・」
ウグイスは求愛のために鳴くのだと聞いたことがあるが、ローレンス王子とは関係あるまい。ホーホケキョと鳴いたって、妃がみつかるわけじゃないのだ。
「私にもよく分かりませんが、まあ、その辺をひと回りして気が済んだらお帰りになりますよ。殿下に分からぬように隠れて護衛する騎士たちもつけましたから」
護衛の責任者でもある騎士は落ち着いて答える。今までにも似たようなことはあったが、ローレンスはいつも王都の外へは出ないし、無茶をしたこともない。だから今回も心配ないと踏んでいるのだ。王子の若い側近をなぐさめるように、彼はこう結んだ。
「今までも殿下が『旅』に出られたことはありますが、いつも晩餐までにはお帰りになります。心配いりません」
「そ、そうか」
子供か!と叫びたいのをグッとこらえて、ディランは答えた。頭を下げて立ち去る騎士の背中を見送りつつ、いつものようにメガネをくいっとあげる。
て言うか、晩ごはんまでに帰るなら旅じゃないじゃん、ただのお出かけじゃん!
ディランはちょっとムクれながら心のなかでそうツッコむと、招待状の最終確認作業に取り掛かった。国じゅうから令嬢を招待するのだから、そろそろ発送しなければ間に合わなくなってしまう。
「さあ今日は忙しいぞ!」
そう言葉に出して気持ちを切り替えようとした彼に、若い事務官が言いにくそうに声をかける。
「あのぉ、ローレンス殿下の代わりに、急ぎで決済していただきたい書類があるのですが」
「むぬぬぬ・・・!」
おずおずと差し出された書類の束に、ディランはギリギリと奥歯をかみしめた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




