女当主の怒り-2
アルファポリスさま、カクヨムさまにも投稿中。
「男爵さま、恐れながら被服費はすでに予算をオーバーしております」
そう言って頭をさげた執事を、サンドラは忌々しげににらみつける。
「そんなはずないわ!あの小娘が節約しろってうるさいから、今年は新調する枚数を減らしてるのよ」
サンドラの脳裏に、忌々しい継子の姿が浮かぶ。あの娘はいつもそろばんを片手に、「男爵さま、我が家の財政は・・・」などと迫ってくるのである。
腹立ちまぎれに足音を高く鳴らしながら、サンドラは自分で衣裳部屋の扉を開けた。そこには高価なドレスがところ狭しと並んでいる。一度も袖を通していないものだってたくさんあるのだ。いくつも並んだジュエリーボックスを開ければ、これまた高価なアクセサリーがつまっているのである。
「見なさい、ドレスだってこれだけしか持ってないわ」
「・・・はあ」
執事のセバスは、なんと返答したものかと悩んだ。男爵家には年頃の娘が3人いるが、誰ひとりこんな贅沢はしていない。サンドラは節制しているつもりなのかもしれないが、すでにドレスやアクセサリーにかなりの額を使ってしまっているのだ。しかし、そのことを言えば彼女は激怒するだろう。
「はあ、じゃないわよ!お前は私をバカにしてるの!?」
「いえ、滅相もない」
腰は低いが言うことを聞かない執事にイラ立ち、サンドラは腕を組んでにらみつける。毎日不愉快なことばかりで、腹が立ってしかたがない。この3年、何度も訴えてきた不満がまた口をついて出た。
「だいたい当主は私なのに、男爵家の家計をなぜあの娘が握っているのよ!?」
それはサンドラに任せたら、あっと言う間に破産してしまうからである。
そもそも彼女は前男爵と結婚するまでは平民だったし、男爵夫人となってからも散財するばかりで、家のことは周囲に丸投げだった。そんな人間がいきなり貴族の家を切り盛りできるわけがない。そのことはサンドラ本人もうっすら分かっているらしく、文句は言っても本気で家計を任せろとは言わなかった。つまりは単なる愚痴にすぎないので、今回もセバスは黙ってやり過ごそうとしている。
「もういいわ!お茶をちょうだい」
怒ったら喉がかわいた。老執事はホッとしたようすで部屋を出て行ったが、サンドラはまだドレスをあきらめたわけではない。窓辺に置かれたティーテーブルの椅子に腰をおろして部屋のなかを見渡した。サンドラの部屋に置かれているものは、家具も照明もカーテンも、全てが豪華絢爛で派手派手しい。高級品で飾られた自分の城にいることで、彼女は少しだけ気分が良くなるように感じた。
屋敷だって、王都の中心からは少し離れているものの大きくて立派だし、裏の森をふくむ敷地は広いのだ。この立派な屋敷は、先代が建てたものだと聞いている。そもそも先代は平民の商人で、成功して莫大な利益を得たのちに、お金で男爵位を買ったそうだ。爵位と事業を受け継いだ息子、つまりサンドラの夫にも商才はあったらしく、アスター男爵家は裕福に暮らしていた。
「それなのに、こんなことになるなんて」
サンドラはひとりごちる。
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