聖女の力の使い道
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それから数日が過ぎたある日の午後のこと、シンデレラは屋敷の裏の森に来ていた。男爵家の裏手に広がるこの森は、子供の頃から彼女が遊び場にしていた慣れ親しんだ場所である。とても豊かな森で、木も草も丈夫に育ち、人が手を加えなくても木の実や野生の果物が豊富に実るのだ。エサが豊富だから動物もたくさん住み着いていた。
そんな豊かな森のなか、木々の間を抜ける小さな道を歩くシンデレラは、今日はメイドのお仕着せ姿だ。使用人の仕事をしていることがサンドラにも知れたので、もう堂々と動きやすいメイド服で家事をすることにしたのだ。
男爵さまは、なんであんなに貴族であることにこだわるのかしら?
貴族であることに意味を見出せないでいるシンデレラには、義母の気持ちがよく分からない。アスター家は祖父の時代に金で爵位を買った新興貴族だし、そんな爵位など返上して家屋敷を売ってしまえば、平民であろうと裕福に暮らしていけるのだ。そのほうが気楽に生きていけるのにと、シンデレラは思う。
シンデレラが貴族であることにこだわらないのは、父親の影響だと言えた。彼は根っからの商人であり、爵位は商売に役立つ道具くらいにしか思っていなかったようだ。だから社交も最低限しかしなかったし、シンデレラにも貴族らしい生活を押しつけたりしなかった。家にいるときは、子供のシンデレラ相手に商売のことばかり話していたのである。
シンデレラが数字に強く、お金に関する知識が豊富なのは、そんな父親の無意識の教育によるものと言えた。父の死後、シンデレラがなんとか男爵家の家計を切り盛りできているのは、その教育のお陰なのかもしれない。
シンデレラは清々しい森の空気を味わいながらしばらく歩き、いつも椅子代わりにしている切り株のところまできた。そして、そこに腰かけて歌いだす。
美しき乙女の歌声
空に広がりて大地を清めん
麦の穂は豊かに実り
祖国に永遠の繁栄をもたらさん
この歌は小さいころに母がよく歌ってくれたもので、母の実家に代々伝えられてきたものだという。シンデレラは母との思い出はあまり多くは覚えていないのに、この歌だけは不思議とよく覚えていた。
カサカサカサ・・・チチチ・・・。
歌っていると、森に住む小動物や鹿たちが集まってくる。上空から小鳥がやってきて、周囲の木の枝にとまった。動物に囲まれて歌うシンデレラは、清らかな聖女そのものだ。いつもこうなので、幼いころのシンデレラは、動物は歌えば集まってくるものだと思っていた。あるときこの現象を目撃したケイトに言われるまで、誰にでも起こることだと思っていたのである。
「素晴らしい!やっぱりお嬢さまのなかには聖女さまの血が流れているんですわ」
シンデレラに惹かれて動物が集まるのだとケイトは喜んだが、シンデレラ自身は得意に思うでもなく、嬉しくもなかった。自分に授けられた特殊な能力なのかもしれないが、生活の役に立たないのが惜しいと思う。
聖女の力って言うなら、もっと病気を治せるとか天気を操れるとか、実用的なものが良かったなぁ・・・。
そしたらそれでお金が稼げたかも?などと不謹慎なことを考えるシンデレラであったが、指先の温かな重みに気づいてふと手元に目をやる。彼女が歌いながら伸ばした手の先に、ウグイスが1羽とまったのだ。
シンデレラは手の先のウグイスをジーッと見つめた。
これって、少しは生活の足しになるかも・・・?
ウグイスを見つめる彼女の目がキラーンと光る。
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