おまえは屋根裏部屋行きよ!ー2
毎日3回、7:00、11:00、16:00に更新します。アルファポリスさま、カクヨムさまにも投稿中。アルファポリスさまでは、数話分先行して更新しています。
全員解雇したとはどういうことなのか。サンドラの顔からニヤニヤ笑いが消え、いわゆる「鳩が豆鉄砲を食ったような顔」になる。厚化粧で顔を白く塗りたくっているので、本当に驚いた鳩ぽっぽのようだ。
「ですので、使用人はすでに解雇しております」
「なんでよぉおおおおおおお!?」
叫ぶサンドラの手から、扇がすべり落ちる。
「先ほど男爵さまがおっしゃったように、人件費の節約のためでございます。もう住み込みの使用人はセバスとケイトだけで、足りないところは私とお義姉さま方で手伝っているのです」
商家の娘だったアデラとバーサは、ある程度の家事はできる。ケイトを母代わりにして育ったシンデレラも、使用人の仕事をすることにあまり抵抗を感じなかった。子供のころ、ケイトのすることをマネしたくて遊びの延長で手伝っているうちに、家事は楽しいと感じるようになっていたのだ。特に料理は好きで、節約と趣味を兼ねてお茶菓子を手作りしたりしている。
「だ、だって、使用人が2人だけなんて、それじゃあ屋敷が維持できないでしょ!?」
サンドラには普段の生活はこれまで通り回っているように見えていたので、とても信じられない。そんな当主に、セバスが説明する。
「厨房のコックと庭師だけは通いで雇っております」
老執事はここでいったん言葉を切ると、申し訳なさそうな顔で続ける。
「洗濯と厨房の手伝いはケイトとシンデレラさまが。掃除は私がしておりますが、足りない部分はアデラさまとバーサさまに手伝っていただいております」
掃除はとても行き届いているとは言い難い状態であるし、なにより令嬢たちに苦労をかけてしまっていることがこの忠義な執事の心を苦しめていた。ホコリだらけの部屋に引きこもるバーサでさえ、屋敷の掃除は頑張って手伝ってくれているのである。ただし、サンドラがいない場所や時間に限るが。
「侍女はもう私だけですので、お嬢さま方はご自分のことはできるだけご自分でしておられます」
夫のあとを引き取って、ケイトが冷たく言い放った。
男爵家にはもともと若い侍女が複数人いた。ケイトが侍女頭として彼女らを束ねていたが、経済状態が悪化するにつれて、少しずつ解雇せざるを得なくなってしまったのだ。今ではアデラも、どうしてもケイトの手が必要なとき以外、できるだけ自分で着替えたり化粧したりしている。
その事態にサンドラが気づかなかったのは、彼女の世話はもともとケイトやセバスが行っていたからだろう。サンドラは気難しく、少しでも気に入らないことがあると使用人を激しく叱りつけるし、機嫌がなかなか直らない。その点、ベテランのふたりなら機嫌を損ねることが少ないからだ。自分さえ快適なら他はどうでもよく、いろいろな使用人と接する機会が少なかったサンドラは変化に気づかなかったのだ。
「なんでよ・・・」
思ってもみなかった事態に、サンドラは言葉が続かない。当主は自分なのに、なぜ知らぬ間にそんなことになっているのか。その答えは、自身が家のことや使用人に無関心だからなのだが、愚かなサンドラはそのことに気づけない。
・・・なによ、皆して私をバカにして!
サンドラは強く唇を噛む。自分が当主として軽く見られたと感じ、腹の底からどす黒い怒りが湧いてくる。
「そんな状態じゃあ、屋敷の管理がちゃんとできないじゃない!貴族の体面にかかわるわ!!」
怒りにまかせて怒鳴るサンドラに、シンデレラは困ったような顔で答える。
「男爵さま、使用人がいないのは半年以上前からです。今までお気づきにならなかったのですから、問題ないのでは?」
貴族の体面もなにも、贅沢はやめないし屋敷も売らないと言うなら、現状ではそうするしかないのだ。
「男爵さまやお義姉さまたちにご迷惑をかけないように、私が頑張りますから」
シンデレラはそう言うと、サンドラの扇を拾って継母に手渡した。サンドラはそんな健気な言葉さえ憎たらしく感じ、扇を握りしめて継子をにらむ。
「そんなに使用人の仕事が好きなら、今日からは屋根裏部屋で暮らしなさい!おまえにはそれがお似合いよ!」
悔し紛れに放たれたサンドラの暴言に、シンデレラは愛らしく首をかしげる。
「男爵さま、この屋敷には屋根裏部屋はなかったと思いますけど・・・?」
「しっ、知ってるわ!今のは継母ジョークよ!!」
そう吐き捨てると、サンドラは顔を真っ赤にしたまま執務室を出ていった。
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