バーサ姉さんは呪いたいー3
毎日3回、7:00、11:00、16:00に更新します。アルファポリスさま、カクヨムさまにも投稿中。アルファポリスさまでは、数話分先行して更新しています。
うーん、ダイヤモンドの呪いは失敗かぁ。あの呪いが効けば、お母さまは宝石店でトイレに駆け込んでばかりになるだろうから、散財することはなくなると思ったのに。
やはり独学では難しいらしい。アデラが出て行ったあと、バーサは机に戻ってため息をついた。
バーサが呪いに興味を持ったのは、母親が再婚してこの屋敷に住むようになったあとのことになる。アスター男爵家の図書室には、膨大な蔵書があった。読書好きで好奇心旺盛なバーサにとってまさに宝の山で、彼女は嬉しい悲鳴をあげた。
なかでもバーサの興味を引いたのは、呪いについての本。なぜかこの屋敷には、呪いや魔女についての研究本や解説書が多くそろっていた。世間には多く出回っていない種類の本に、初めは好奇心で食いついただけだった。しかし、知れば知るほど呪いというのは奥深いものがあり、貴族社会にうまく馴染めなかったバーサは、呪いの研究にのめり込んでいく。
世間では呪いは、「おまじない」と同じようなものだと考えられている。ライバルの足を引っ張る呪い、気の多い恋人の浮気を封じる呪いなど、その道の専門家に頼んで呪ってもらうのだ。そしてその専門家は「魔女」と呼ばれている。魔女を頼るのは若い女性が多く、一般的には効果が怪しいものとされていて、まともな大人は普通取り合わない類のものだ。
しかし、バーサは呪いの力を信じていた。そうなるには、ある苦い経験がきっかけになっているのである。
男爵家の養女になって、貴族のマナーをようやく覚えたころのことだ。とある伯爵家の茶会に姉妹3人で出席した。バーサは行きたくなかったが、上位貴族とのつながりを求めたサンドラが、どうしても行けと聞かなかったのである。アデラとシンデレラがなにかと気を使ってくれたが、社交に来て姉妹3人でずっと固まっているわけにもいかない。
生粋の貴族であるシンデレラは幼い頃からの友人と、社交的なアデラも令嬢たちとなにやら談笑を始めていた。ひとり残されてチビチビお茶を飲んでいたバーサに、その屋敷の伯爵令嬢と数人の取り巻きが声をかけてきたのだ。
「せっかくですから、お庭をご案内しますわ」
クスクス笑う後ろの取り巻きたちの表情に、バーサは少し嫌な気がした。だが、うまい断りの理由が思い浮かばなかったので、しかたなくついて行ったのである。令嬢たちに嫌味を言われたりバカにされたりには、バーサもだいぶ慣れてきたところだった。気分は悪いがその場限りのことだし、スルーしていれば何の害もないと気づいたからだ。
「ここは我が家自慢のバラ園ですの」
令嬢が気取った口調で言うと、取り巻きたちも同調して美しい花々を褒める。噴水のある大きな池を囲むように色とりどりのバラが咲いていて、確かによく手入れされた庭だ。だがバーサは、男爵家の自然のままの森のほうが、100倍も美しくて居心地が良いと思った。
早く解放してくれないかなぁ・・・。
ペチャクチャとうるさいおしゃべりを聞き流しながら歩いていると、何やら鼻をつく臭いに気づいた。いつの間にか屋敷から離れた庭の隅に来ており、そこには庭仕事の道具をしまってあるらしい物置小屋があった。
臭いのもとはその横に積まれたたい肥だ。たい肥は藁を積み上げて鶏糞などを混ぜて発酵させるのだが、発酵の最中はひどい臭いがする。
そして目の前のたい肥は、ただいま絶賛発酵中だったのである。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




