バーサ姉さんは呪いたい-1
毎日3回、7:00、11:00、16:00に更新します。アルファポリスさま、カクヨムさまにも投稿中。アルファポリスさまでは、数話分先行して更新しています。
「アデラお嬢さま?」
昔を思い出してボンヤリしていたアデラは、ケイトの声で我に返る。思いやり深い侍女の顔には、気づかわしげな表情が浮かんでいた。
「何でもないわ」
ケイトに向かってほほ笑む。
「私はバーサのところに行ってくるから、あなたは仕分けたものをまとめておいて」
物思いにふけるより、今はできることをやらなければならない。
「かしこまりました」と頭をさげるケイトを自室に残し、アデラは妹のもとへと向かう。
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アデラは部屋のドアを何度かノックしたが、なんの反応もない。引きこもりに近いバーサが部屋にいないはずないので、勝手にドアを開けて入る。バーサは読書をしていると、夢中になりすぎて周囲の物音が聞こえなくなるのだ。
机といわず床といわず、あちらこちらに本が積みあがった薄暗い部屋。本をよけながらアデラが机まで移動していくと、ドレスの裾に舞い上げられたホコリが飛びかった。
「ちょっと!一日中部屋にいるなら、少しは掃除くらいしなさいよ」
本にかじりついている妹にそう声をかけると、バーサは椅子から飛び上がりそうになって驚いた。
「うわあ、びっくりしたぁ!!お姉さまこそノックくらいしてよ!」
顔の上半分が隠れるほど伸ばした前髪。その前髪のすき間から、母親と同じエメラルド色の瞳がのぞいている。
「何度もしたわ!」
空中に舞うホコリを払いながらアデラは言い返す。ホコリもそうだが、昼間なのにカーテンも閉めたままなのだ。毎日こんな部屋にいて病気にならないか、アデラはそれが心配だった。
「ごめんごめん、本に集中し過ぎちゃって」
バーサは頭をかく。身なりをかまわないので、クセの強いブルネットの髪は今日もグチャグチャ。動きやすさだけを基準に選ばれた部屋着は、シワだらけだった。そして、その手にある本の題名は、「生活に役立つ呪いベスト100」。最近のバーサの愛読書である。
「またそんな本を読んで・・・」
アデラは眉根を寄せる。
バーサは昔から引っ込み思案で、ひとりで静かに本を読むのが好きな子供だった。物語よりも専門書や図鑑といったものが好きで、同じ年齢の子供よりも常に大人びて賢かったのだ。実父はよく「バーサは将来学者になるぞ」などとからかっていたものである。その好奇心と知性のすべてが、今は「呪い」に向けられているのだ。
「あら、この本の呪いはけっこう役立つのよ。この間だってお母さまに、『ダイヤモンドを見るたびにトイレをもよおす呪い』をかけたんだから!」
なんだその呪いは?アデラはあきれ顔で言い返した。
「ダイヤモンド好きのお母さまがそんな呪いにかかったら、一日中トイレから出られないでしょうよ。だけど、お母さまは今朝も絶好調でシンデレラを罵ってたから、その呪いは効いてないわね」
「やだ、お母さまったら、またシンデレラをいじめてるの?」
バーサは顔をしかめた。呪いが効いていないという言葉はスルーする気らしい。アデラも呪いになんか興味ないので、シンデレラのクローゼットの惨状について話した。
「まったくお母さまったら!」
バーサはひどく憤慨する。
「私、普段着以外は何にもいらないわ。お姉さま、全部売っぱらってちょうだい」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




