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ようこそ、豊巫羅へ!

 「カツ……ポン」

 「コツン……ポン」

 「カン……ポン」


 お盆の中頃、とある神社の境内にて


 セミと鳥の鳴き声、葉の擦れる音、そして私が打つテニスボールの音。聞こえるのはそれだけ。今はお盆で部活は休みだけど、同学年の子たちと差をつけたいから練習している。

 ここはとても練習に適している。木がたくさん生えているから夏なのにかなり涼しいし、静かだし。何よりも人がいないのがいい。誰かいたら「ボールが当たらないように」とか「邪魔にならないように」とか色々気にしないといけないから。

 ほんとは公園で練習しようと思ってたんだけど、ボール遊び禁止の看板があったからこっちにした。罰当たりかな、とは思ったけど他に場所がないから仕方ない。

 「ポン……パン……パコ……パン……」

今日はかなり調子がいい。なんか気分も上がってきたな。好きな曲を鼻歌で歌いながらどんどん岩に向かってボールを打っていく。打ったボールが的確に自分のところにかえってくる。さらに気分が上がる。


 そして運命の時が来た


 曲のサビのところで私の気分は最高潮に達した。

 「パコッ…カアアアアアアアアアアアン‼︎」

 思いっきり打った。

 ボールは岩に当たってさらに勢いを上げ、神社の奥の森へと飛んでいった。

 木の枝にとまっていた鳥たちはいっせいに飛び立ち、周りの空気が一瞬変わったような気がした。

(ヤバッ、あれこの前買ったばっかりのボールなのに……)

ボールが飛んでいった方を見た。あの森には入ったことがない。あの森に入ればそのまま山に入る。

(ちょっと調子に乗りすぎたな……。めんどくさいけどもったいないから探しに行くか)

ラケットを置いて森に入った。


 それは決して良いとは言えない決断だった


 少し歩いて振り返った。10歩も歩いていないはずなのにもう神社が見えない。

(おかしいな……)

そう思ったけど、まあ良いかと思ってまた歩き出した。


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎


 (おかしいな……)

またおかしい。まっすぐ歩けば山に入るはずなのにずっと平地。ずっと森。ボールもない。言えることはただ一つ

「迷子……」

花橋(はなばし)麻由(まゆ)(15)森の中1人迷子。

 スマホも何も持っていない。

 焦って焦って、ひたすらあちこち歩いて、走って。


 しばらくすると見たことも聞いたこともない植物が生い茂る不思議な森にいた。

(え…………えっ…えっ……えええ……)

さっきまで焦りで狂ったように働いていた私の思考が止まった。

(……?)

右を見る。自身の顔より大きい花(?)から、わたあめのようなものが生えている。

(……?)

左を見る。水風船みたいなのが木から生えている。

(……?)

自分の顔をひっぱたく。

「イッ!タアァィィィィ……」

(…………。)

「どこよ……ここ……」

やっとまともなセリフが口から出た。まあ、私も自分がどこにいるのか全く分からないわけでも、ないんだよ?そう、今私が、今、いるのは、

(私が知らないところ……☺︎)

ということは、

(……マズイ)

しかも元々自分がいた世界?というか、そういうのとは違う世界?かな……。とりあえず浮世離れした場所にいる。

「はぁ〜……」

 ばたりとその場に倒れ込む。疲労の波が一気に押し寄せてきた。

 あたりからは絶えずジャスミンティーのような甘く芳しく、お上品な香りがする。そのせいでリラックスしてしまう。そんな場合じゃないけど。日が傾き、あたりが茜色に染まる。練習していたのが昼過ぎだから、もう迷子になって5時間は経ってるよな〜。お母さんに晩御飯までに帰るって言っちゃったなぁ……。

 涙が出てきた。このまま野垂れ死んじゃったら練習も、全部が無駄になる。ボールくらいそのまま捨ててしまえばよかったんだ。ボールくらい……。今悔やんでも仕方ないとは分かっているけど、ボールを追ってしまったこと、神社で練習をしていたこと……

(そうだ。神社で練習なんて、しなければよかったんだ。罰当たりだとは自分でも思っていたんだから)

後悔の渦はどんどん大きくなって私の心を飲み込んでいく。

(走り回ったのも良くなかった、迷子の時は基本、下手に動かないべきだ)

(最初におかしいと思ったときに引き返していれば出れていたかもしれない)

(なんでボール追いかけたんだろ、あんなに遠くに飛んでったら見つけられるわけがないのに)


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎


 昨日は結局そのまま寝た。

 この後どうするべきか分からない。水筒も置いてきたから喉がカラカラでもう動けない。体が汗でベタベタする。早くお風呂に入りたい。

(このままだと……)

悪いことが次々と頭に浮かんでくる。

(悪いことは考えないでおこう)

そう思っても考えてしまうのが、

(昨日家に帰ることができていたら今頃はクーラーの効いた涼しい部屋でゴロゴロできていただろうなあ。片手には冷たいジュース、もう片手にはスマホ。んで、友達と電話してお互い近況を報告し合う……。私の近況……)

「あゝ」

とりあえず体を起こした。

「あゝ、あゝ、あゝあああ。暑い!喉乾いた!お腹すいた!」

手足をジタバタさせながらギャアギャア喚いた。

「だいたいさぁ、なんで森にチョっっっと入っただけでこんなとこに来んの‼︎訳わかんない!わっっけわかんない‼︎イイイィぃぃぃーー‼︎‼︎」

愚痴を叫びまくる麻由は気付かない。背後に迫る何者かに。

「嗚呼あああああ!もおッ‼︎」

「あの、すみません」

麻由の肩に手が置かれた。

「ギャアッ!」

びっくりして飛び上がった。いきなり話しかけないでよ……。こんな森の中でさ……。


けど、もっと驚いたことがある。

(美少年(イケメン)ーー*・゜゜・*:.。..。.:*・'(*゜▽゜*)'・*:.。. .。.:*・゜゜・*)

【花橋麻由辞典①】お年頃の麻由は美少年(イケメン)に弱いのである。

「迷子?」

その男の子はしゃがんで聞いてきた。

「はいぃぃ」

男の子の顔が近づいたので麻由の声は緊張して少し震えた。顔にはフニャッとした笑みを浮かべている。

(近くで見るともっと綺麗な顔してるうぅ〜。ぱっちりとした1点の曇りもないきらきらのおめめ、白玉のようなお肌、シャープな顎、perfectだよ!天使のようだよ!)

麻由は今自分が置かれている状況を思い出した。

(天、使……?)

もしや

(オムカエ……?)

「君だね。昨日この森に来たのは。迎えに来たよ」

(終わった……)

「ついてきて」

麻由の表情は一転、赤く染まっていた頬は真っ白に、だらしなく笑っていた口はぼーっと開いている。

(水飲まなくても3日ぐらいは生きれるんじゃないの……?)

とりあえず黙ってついて行った。頭空っぽにして。

「戻ったよ」

男の子が誰かに話しかけてハッとした。男の子が話しかけたのは昆虫のような羽が生えた小柄な男の子と女の子たち。どちらも4人ずついる。

「遅かったよ〜」

「待ちくたびれた!」

「早朝に出勤したのにどんだけ待たせんのよ!」

確かに結構遅かったと麻由も思った。この子達が私を探しに来たのが早朝だとすれば、今は多分正午くらいだから6時間くらい待ってたのかも。でも6時間も探し続けるあの子もすごいよなあ。みんなにあせあせと謝罪している男の子を見る。

(6時間待たされるのは流石に辛いけど、顔が良いから許せるかも……)

また少しだらしない笑みを浮かべた。

「じゃあ出発しようか」

男の子は朗らかな笑顔で言った。麻由は心の中で現世にさよならを言って、無念を断ち切るように大きく一歩を踏み出した。


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎


 (えー……大変お騒がせしました)

というのも、私は死んでいなかったのだ(*'▽'*)!ただいま私は森の上空を飛行中。あそこで待っていた小さな女の子や男の子たちは私の輸送係っぽい。その子たちは今、私とあの男の子が乗った網をもって飛んでいる。例えるなら『野の白鳥(著:ハンス・クリスチャン・アンデルセン)』のワンシーン。それはさておき、男の子と話して色々分かったことがある。


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎


 「ふう、遅くなってごめんね。君の存在が確認されたのは昨日の夕方くらいなんだけど、夜は危ないから早朝に出発することになったんだ」

「夜……危ないって?どういう……」

男の子は朗らかに笑い、

「ああ、君は遭遇しなかったから知らないよね。この森には化け物がたくさんいて、その多くが夜行性なんだ」

男の子は相変わらず朗らかな笑顔で喋っている。対する麻由は顔面蒼白。

「なな、ななななな、なんて恐ろしい、そ、そそ、そうならますます早く来るべきだったと思うんだけど⁉︎」

「あはは、確かにね。あっ、あそこで寝ているのがその化け物の一種だよ」

男の子は網の下に見えるデカいヒキガエルみたいなのを指さして言った。皮膚はイボイボで体から出てくる粘液みたいなののせいで周りがジメジメしている。それに臭い。生臭い。網の上に乗っているから上昇気流に乗って来るこの匂いがダイレクトに鼻に……。

(本当にわかってるのかな?結構危なかったんじゃない、私。かよわいレディーをこんな、こんな化け物がうろつく森にほっとくなんて)

「実は、出発してから2時間で見つける予定だったんだけど、僕はこれが初めての任務だから時間がかかっちゃったんだ。ごめんね」

会ってから、はじめて男の子は真面目な顔になった。謝罪の気持ちが伝わってくる。麻由の苛立ちは少し和らいだ。すると、心に少しの余裕ができた麻由にはひとつの疑問が浮かんだ。

「あっ、どうやって私がこの森に来たのがわかったの?」

男の子は表情を柔らかくして、

「あっそういえば、僕たちについて何も話してなかったね。僕は捜索委員の奏宮(かなみや)目抜流(まぬる)。僕たち捜索委員は命の気配を感じ取って生き物の居場所や強さを調べられる。だけど僕はまだ未熟者だから正確な位置を探ることができないんだ。だから、君の位置もぼんやりとしかわからなかったんだ」

「で、6時間も待たせたと?」

私は目抜流君に尖った視線を向けた。

「ご、ごめんよ」

目抜流は冷や汗を流しながら手を合わせる。

「ねえ、ちょっとねえ!」

「そっちだけで話進めないでくれる⁉︎」

「こっちの紹介もしやがれ新入り!」

上からクレームが入る。

「あっ、すみません」

目抜流は麻由の耳に囁いた

「あの人たち体は小さいけど態度はデカいんだよ。一応先輩だしね」

麻由は苦笑いするしかなかった。

「あの人たちは情報委員。見ての通り空を自由に飛ぶことができる」

鬱陶しそうに上を見上げて、

「これで満足しました?」

「なんか文句あんのか小僧⁉︎」

「調子乗ってんじゃないわよ!」

上でまたなんかギャーギャー言ってる。

「あの……あなたたちは……なんなんですか?」

全員の視線が麻由に集まる。

(えっ……なんか私、いけないこと言った……?)

少し間を空けて、彼らは真顔で口を開いた。

「「「「「「「「「何なんだろうねー」」」」」」」」」

「えっ?」

濁された。今の結構重要なこと言う雰囲気だったよね?

「そんなこと聞かれても自分でもよくわからないんだ。僕も小さい時は君みたいな普通の子だったよ。まあ、大きくなっても変わらない人もいるけど」

「ねえ目抜流、そのことは後で総合委員長が説明するからさ……」

「あっそうだった」

新人感丸出しの目抜流。先輩の手助けなしじゃダメみたい。

(総合委員長ってなに?誰?と言うか、私って今どこに連れて行かれているの?)

麻由の疑問は大きくなるばかりだ。

「ね、ねえ……私たちってどこに向かっ……」

言いかけた時

「あっ、もうすぐ着くよ」

麻由は驚いた。目抜流の視線を追うと、そこには大きな街があった。周りは塀で囲まれていて、あの化け物が入ってこれないようになっている。人の賑わいを感じる。下を見た。目を凝らすと、この子たちのように変わった格好をした人たちがたくさん見えた。昨日のひとり寂しい夜の森とは大違いだ。

「着地地点、見えました」

その声に反応して前を向いた。麻由はさらに驚いた。そこにはさらに大きく、一見して都市と分かる町があった。大きな建物もたくさんある。人の賑わいも倍以上だ。

「あっ……あのさ、こんな建物がいっぱいあるところにどうやって着地すんの?着地できるような広い場所なくない?それと、ここはどこなの?」

麻由は目抜流の肩を叩いて言った。

「着地地点は、あの1番大きな建物の広場だよ。スペースは十分にある」

そして……と目抜流は続ける。

「ここは『豊巫羅(てぷら)』。君みたいに、この森で迷子になった子供たちが作った街だよ。ようこそ!それと、よろしくね!」


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎


 麻由と目抜流を乗せた網はゆっくりと地面に着地した。

「ありがとうございました」

麻由は目抜流の小さな先輩たちにお礼を言って、目抜流について、あの大きな建物に入って行った。それにしても、大きな建物だ。3階くらいまでしかないみたいだけど、天井が高いから建物の高さ自体はとても高いし、廊下だって10人は並んで歩ける幅がある。壁は赤い煉瓦でできていて、床は石のタイルでできている。とんがった屋根はスカイブルーで、てっぺんに鳥みたいな彫刻がついている。窓は色とりどりのステンドグラス。カラフルに染め上げられた光がとても綺麗。

 「麻由ちゃん、だっけ?君を迎える用意はもう整っているはずだよ。予定より4時間遅れての到着だからね」

目抜流は最後の方ちょっと申し訳なさそうな顔をした。この子には、着地するまでの時間が長かったので自己紹介をした。どうやら同い年らしく、森の外の流行なんかの話でちょっと盛り上がった。

「もしかしてだけどさ……さっきからの話の内容から察するに、私って帰れないの……?」

目抜流は平然とした顔でサラッと

「そうだよ」

チーン……

「嗚呼あああああああああああ‼︎」

麻由はその場に泣き崩れた。

「一時は助かったと思ったけど、……グスンっ、帰れないんじゃ……ヌグっ、意味ないのう、オウっ、オエっ」

目抜流はどうにかして慰めようとして言った。

「だっ、大丈夫だよ、多分。この森について調べている人も結構いるんだ。だからきっと、いつか出られ……」

麻由はグスンと鼻をすすって。

「じゃあ、どのくらいこの森について分かってるの?」

「…………。」

「絶対わかってないんじゃん!その反応!絶対ほとんど分かってないんじゃん!」

目抜流は困った

(僕はこの街で生まれたからなぁ。外の子の気持ちはあんまりわかんないなぁ)

麻由は相変わらず泣き言をこぼしまくっていた、

「嗚呼、私はこのままここでお婆さんになって死んじゃうんだあ、アウ、アゥ、オウェ」

目抜流はピーンときた、これならいい感じに慰められる。

「大丈夫だよ!ここではちょうど君くらいの歳で成長も老化も止まる。君はもう歳を取らないんだよ!」

「えっ……マジすか……」

それから麻由はVサインをして廊下をスキップしながら

「イェーイ!私は永遠の15歳!」

【花橋麻由辞典②】麻由は喜怒哀楽が少し激しいのだ。

 目抜流は少し戸惑いながらも、上手くいったと会心していた。


 そんなこんなで、2人は大きな部屋に着いた。体育館ぐらいの広さがある。上からはウエディングケーキみたいなシャンデリアがつるされていて、ほかにもゴテゴテとした装飾物がたくさんあった。その部屋の中央には長い机があって、不思議な食べ物がたくさん置かれている。その中には麻由が森で見たものもあった。その奥には少し大きな皮の椅子に座っている男の子がいた。見た目は麻由と同い年くらい。

「ようこそ。ちょっと遅かったね」

その人は目抜流を見た。目抜流は頭をかきながら、

「あ……はい。すみません。ちょっと迷っちゃいました……」

その人、今度は麻由を見て、

「僕は総合委員長の金沢澄晴(かなざわすみはる)です。まあ、簡単に言うとこの街の代表者ですね。」

その人は立って、机の方に行った。少し身長が小さいのであまり威厳とかそういうのはない。

「私たち総合委員はこの街の管理をしています。総合委員は3年に1回行われる選挙でその3年間で1番活躍した委員会が選ばれます。ちなみに、私たちの元々の委員会は心理委員会。その委員は相手が何を考えているのか分かったり、思考を操作することができる」

麻由は口を開いた。

「あの、気になってたんですけど、ここの人たちはなんでそんな不思議なことができるんですか?」

金沢さんはにっこり笑って、

「それはここの食べ物が特殊だからだよ。そして、その食べ物の好き嫌いによって能力が決まるのさ。この机の上に用意されているのがその食べ物で、今から君にはこれらを食べて好き嫌いを判断してもらう」

麻由にフォークが渡された。

「じゃあ、好きに食べていってください。これだ!というものがあったらおしえてくださいね」

麻由はとりあえず右のから食べていくことにした。1番右の食べ物は、麻由が森で見たわたあめみたいなやつだ。ジャスミンティーみたいな匂いがする。そーっと口に入れるとジュワッと甘い味が口の中に広がった。普通のわたあめと何ら変わりはない。その次は水風船みたいなやつ。噛むとパチンと弾けて爽やかな汁が出てくる。次はローズヒップみたいなやつ。うん、味もローズヒップ。お次は岩塩みたいなやつ。月みたいにキラキラ輝いている。甘ッ!!岩塩かと思いきやまささかの氷砂糖。

 とりあえず皿に盛られているのは一通り食べた。次はバスケットに雑に入れられているやつ。手に取ろうと思って、てっぺんに置かれているマンゴーみたいな実に手を伸ばした。その瞬間、麻由の目にはその実しか、映らなくなった。

(欲しい。食べたい。これは私のもの。絶対私が食べるんだから)

それで周りの声なんて全部聞こえなくなったの。

「委員長、あの実はなんでしょう?」

「ん?」

金沢は麻由が持っている実を見た。

「何だ!あれは!食べさせてはダメですよ!毒があるかもしれません!」

もう遅かった。麻由は大きく口を開けてかじりついていた。


 「ふう……」

あの大きな建物の最上階、委員長室にて。金沢は大きくため息をついた。結局あの実は誰が置いたのかは分からなかった。毒があったわけでもなく、彼女が『私この実が好きです!これだ!ってなったのこれです!』と言ったので栽培することになった。

「いろいろ気になることはありますが、どんな能力になるのか楽しみですね」


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎


 「麻由ちゃん、これからは止められたらちゃんとやめようね」

目抜流君に注意された。ちょっと怒った顔になっている。珍しい。

「あはは、あまりにも美味しそうだったのでつい……」

「分かってるの!毒あったら死んじゃってたかもしれないんだよ!」

結構真剣に怒られた。

「ごめ……すみませんでした」

とりあえずちゃんと謝った。

「まあでも、無毒だったのは幸運でしたね」

ガイドさんがにこやかに言う。見た目は大人の女性。すらっと背が高くてちょっと憧れる。

 今は目抜流くん、私、ガイドさんの3人で建物の外へ向かっている途中。

「外では馬車が2台待機していますから、麻由さんと私は主要委員会を廻りながら委員会へ、目抜流さんは捜索委員会へ行くことになっています」

目抜流くんとはここでお別れみたい。

 外に出た。予定通り、私とガイドさんは同じ馬車、目抜流君は1人で馬車に乗ってそれぞれ目的地に向かった。

「バイバイ目抜流君!」

「さよなら麻由ちゃん!」

麻由と目抜流はお互い手を振った。

「さて」

と、ガイドさんが切り出した。


 豊巫羅へようこそ。麻由さん。私は庶務委員のサラです。よろしくお願いします。庶務委員会は名前の通り、色んな雑務をする委員会です。ただいま出発した建物は総合委員軒です。その名の通り、総合委員が業務を行う場所です。そしてこの都市は豊巫羅の中央にある総合委員会です。学校、役所などの機関はすべてここにあり、そのため昼間人口は最多となっております。

これから、麻由さんの委員会まで総合委員会の周りにある4つの主要委員会を廻って行きます。

 まずは安らぎ委員会です。この委員たちの好物は綿花、麻由さんが最初に召し上がったものですね。見た目の特徴としては羊のような渦巻きの形をした角に、くせ毛が多いことですね。彼らは角に空気を送り込み、振動させることでソルフェジオのような心地よい音を出します。そのため、ベビーシッターや按摩師のような職業に就く人が多いですね。また、ラベンダーやジャスミンティーのようなリラックス効果のある匂いをしています。香水入りませんね。

 この次は食物委員会です。この委員の好物は風船ジェルです。麻由さんが2番目に召し上がったものですね。見た目の特徴としては華奢な体つきで、目が常に潤んでいることですね。彼らの涙には植物の生長を促す効果があります。そのため、彼らの多くは農家として働いていますが、泣くのがうまいので役者になる人もいるそうです。

 そして防衛委員会。別名薔薇隊(いばらたい)です。この委員たちの好物はローズヒップ。はい、森の外のみなさんもご存知の、あのバラの実です。美容に良いらしいですね。生でも食べることができるそうですが、やはりジャムやティーにして……。それはさておき、彼らの仕事はその名の通り、この街を守ることです。今は、他の職についている者はいないそうです。見た目の特徴は、背中から8本の、棘の生えた触手が生えていて、その付け根を守るように硬い葉のようなものが生えていることです。その触手で敵を絞めたり、棘で傷つけたりして攻撃します。運動神経は豊巫羅でぶっちぎりの1位です。たいていは銀髪で、眼球結膜は黒色、虹彩は赤色です。豊巫羅の住民の中でもかなり個性の強い見た目をしています。よく子供に怖がられて悲しいそうです。

 最後は巡邏(じゅんら)委員会です。別名寝子目隊(ねこめたい)です。この委員たちの好物は月石(ムーンストーン)です。見た目は6月の誕生石、ムーンストーンにそっくりです。味はただの氷砂糖ですが。彼らは夜目が利くので、仕事は主に夜間の警備です。しかし攻撃は苦手なので、薔薇隊と組み、寝子目隊が敵を見つけて薔薇隊が攻撃するという感じになっています。見た目の特徴は、通常状態では8頭身〜10頭身とスタイルが良く、色白です。就寝状態では5歳児くらいの大きさになります。なぜ小さくなるのかはあまり知られていません。当人たちに質問したところ、『なんかそっちの方が落ち着くから』だそうです。瞳孔は昼間では細いですが、夜間はまん丸になります。先ほど言ったように、スタイル抜群なのでモデルとして働く方もいるそうです。また、豊巫羅のモテる委員ランキングBest3にもランクインしているそうです。羨ましいですねえ……。


 「麻由さん委員会までもう少しですね」

プシュー……。麻由の頭からはパンクしそうになって蒸気が上がった。

(オボエルコト、タクサン……)

どの委員も個性が強くて役割もちゃんとあって。しかも今廻ったのは()()委員会だけだ。さっき上から見た時はもっとたくさんの町があった。

(馴染めるかなあ、こんな個性の強い人たちと)

そう言えば、と思い出したことがある。

「サラさんは他の人たちと比べて普通の見た目してますよね」

するとサラさん少し笑顔をひきつらせて、

「まあ私は()()委員ですので〜(!)特にこれといった好物もなければ特徴もありませんので〜!」

「なんか、申し訳ないです……」

ちょっと気にしているみたい。

「そう言えば、私が入る委員会って何委員会なんですか?」

サラさんニコッと笑って

「委員会です」

「えっ……何委員会ですか?」

()()()です」

それってつまり……

「ただの委員会です」

委員会、イインカイ、いいんかい……心の中で反復する。ただの委員会。

「それって何する委員会なんでしょうか?」

「特にこれといった仕事はありませんね。同じ好物の人がいない、もしくは数人しかいない、といった人たちが入る委員です」

それってあんまり活躍できないんじゃないのかなあ。麻由がなんだかな〜っと微妙な顔をしていると、

「でも、全く活躍していないわけではありませんよ。彼らの中にも私たちが重宝する者が、おりますから」

サラは苦し紛れにフォローした。

「『中にも』っかぁ〜」

サラさんは少し言葉に詰まってから

「まっ、麻由さんの、能力がどんなのかはまだ、わからないじゃぁ、ないですかっ……」

麻由の未来に一筋の光が差した

「あっそういえば!私の能力っていつ頃わかるんですか?」

麻由の好物は未知の実であるため今後麻由がどんな能力に目覚めるのか分からない。

うーん……とサラはうなって、

「私には能力がないのでわかりませんが、大抵は1ヶ月くらいだと聞きますね」

 そんな感じで話していると、だんだん人気の少ないところにやって来た。

「あっもうすぐ着きますよ」

(ん……?)

麻由が目にしたものは……


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎


 「それでは、日用品一式や生活必需品などは麻由さんの部屋にすでに用意されていますし、学校の入学手続きもこちらで済ませておきますので、あとはこちらを」

といって、サラは麻由に一冊の冊子を手渡して帰った。

(『豊巫羅マニュアル』……。後で読むことにしよう)

麻由は()()()の委員に向き直った。

「よしっ、じゃあ1人ずつ自己紹介していこう」

委員長の女の子が言った。絵の具をぶちまけたような髪の色をしている。身長はちょっと小さめ。その子はまずは私から、と

「初めまして、私は委員会委員長の色塚(しきづか)いろは、よろしく!分からないことがあったら何でも相談してね!」

明るく挨拶をした。かなり接しやすいタイプの子だ。こういう子が委員長だと助かると思ったことは森の外でもあった。

豆田三四六(まめださんしろう)。この委員会の頭脳です。よろしく」

口数少なく言った。愛嬌ないな。小柄な体に大きな丸メガネの男の子が言った。ふつうに小学校にいてそうな子だ。

嬭榴娜琴(ないるだごん)。みんなはナルって呼んでるよ〜」

艶やかな桃色のロングヘアが目を惹く大人っぽい女の人。

爬煎奴亜花伊塁(はいなあげいる)。みんなはハナって呼んでるよ〜」

さっきの人ととても似ている。

「「私たちの仕事は占い!恋占いしかできないけどね〜」」

そう言って2人は名刺を渡した。『ナルハナ占処(委員会)open AM.9:00-close PM.5:00』

「「麻由ちゃんも、いつでも相談しにきてね〜」」

整った顔ににこやかな笑みを浮かべて言った。

(恋の悩みねぇ〜〜)

一瞬目抜流君の整った顔立ちが頭に浮かんだ。けど、すぐに振り払った。

「私の名前は枯等魏風華(かららぎふうか)!」

はあ、はあと息の切れる音が聞こえる。麻由がキョロキョロしているとみんなが地面を指差した。

(むっ……)

目を細めて見ると中指くらいの大きさの女の子がいた。ちょっと怒っている。

「えーとー……、俺の名前は枯等魏風磨。枯等魏風華の弟です」

大きな弟さんが出てきた。身長180cmはありそう。姉の機嫌が悪いからなのか、ちょっと居心地悪そうにしている。特徴的なボサボサ頭が夕風にたなびいている。

 「はい!委員全員の自己紹介が終わったから、麻由ちゃん!家へ案内するね!」

元気よく色塚さんが言った。

「ついてきて!」

1、2、3、4、5、6、7、8、9、10…………30歩。

「着いたよ!」

マイホームは委員会の端っこの方。

(…………。)

お分かりいただけただろうか……。委員の自己紹介をしたのは委員会の入り口。つまり!この委員会!ものすごく小さい。さっき案内してもらった委員会はどれも馬車で30分くらいかかったのに……。

「めっちゃちっちゃいですね、この委員会」

麻由は少しキツイ口調になった、

「まあね〜。うちは委員少ないし、ちゃんとした役割があるわけでもないし〜」

さらっと受け流した色塚委員長。

「まっ、今日は疲れてるだろうし家でゆっくり休みなよ〜」


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎


 「はあーー」

麻由はベットに倒れ込んだ。

(快適〜〜……uhuhu……)

昨日はほんとに死ぬかと思ったけど、今は快適な家にいる。エアコンもお風呂もある。

(ダメダメ、まだ寝ちゃダメ!荷解き荷解き)

麻由は重たい体を持ち上げて玄関に置いてある段ボールへ向かった。

 麻由の家は2階建てで、ベッドルームは2階にある。今は一通り部屋を見て回ったところだ。少し小さいが庭には畑もある。

 1つ目の段ボールを開ける。入っていたのはヤカン、鍋、フライパン、包丁、ピーラー、キッチンバサミ、お椀2つ、大きいお皿2枚、小さいお皿2枚、グラス2つ、マグカップ2つ、箸2組、フォーク2つ、スプーン2つ、ナイフ2つ、計量スプーン2つ、計量カップ1つ、アルミホイル、ラップ、食器用洗剤、スポンジ、タワシ and so on…

 2つ目の段ボールを開ける。入っていたのはカーペット、ラジオ、時計、裁縫セット、座椅子、折りたたみ机(ダイニングテーブルはもともと置いてあった)、枕、お掃除グッツ一式 and so on…

 3つ目の段ボールを開ける。入っていたのは学校の制服、制鞄、ローファー、体操服、グラウンドシューズ、体育館シューズ、ノート20冊、筆箱、鉛筆1ダース、消しゴム1ダース、シャープペンシル、シャー芯、赤ボールペン、青ボールペン、各教科の教材 and so on…

 「ふー」

全てのものをあるべきところへ収納し、今はお風呂を沸かしているところ。いやー、便利便利♬ボタン1つでお風呂が沸くなんてね。

(お腹すいた〜)

麻由は腹の虫を鳴らした。冷蔵庫を見ると、水とお茶、食材がたくさん。麻由には何と言う食材なのかは分からない。こう言う時は……

「ジジジジジジジ……ジジジジジジジ……」

(電話⁉︎……こんなところに電話なんてあるの⁉︎)

電話、電話、と麻由が探していると、

「「HAPPY NEW HOUSE‼︎」」

(この家、新築なんだ……)

ナルさんとハナさんが来た。鍵閉めるの忘れてたみたい。

「「電話なってるよ」」

それは分かっててですね……

「電話が見つからないんですよ」

「「これだよ〜」」

2人が指差したのは鳥の置物みたいなやつ。

「「ここ押してみ」」

首根っこを軽く押す。

「ちゅぴっ」

繋がったみたい。

『あー、もしもし。麻由さん?』

「はいもしもし、麻由です。どちらさまですか」

『こちら金沢です。段ボール3つちゃんと届いていますか?』

総合委員長の金沢さんからだ、

「あっはい」

『マニュアルは読みましたか?そろそろお腹が空いてきた頃でしょう、当地の食材で作れる料理のレシピがたくさん載っているのでぜひ参考にしてくださいね』

「ちゅぴっ」

切られた。まあ、総合委員長って忙しんだろうな。

「あの、すみません。これってどうやって使うんですか?」

ナルさんの方が一歩前に出て言った。

「背中のところに番号があるでしょう、これが自分の番号よ」

確かに、4桁の番号が書かれてある。次はハナさんが前に出て言った。

「そして、ここにダイヤルがあるでしょう、ここに相手の番号を入れてさっきみたいに首根っこを軽く押すの」

「「これでOK!」」

「あっありがとうございます」

わかりやすい……説明書よりわかりやすいかも。

「あっ、なにしにいらしたんですか?」

わざわざ夜に来たのだ。何か理由があるはずだ。

「「あっ、そうそう。新居祝いを渡しに来たの」」

よっこいしょっと、両手で抱えなけらばいけないほど大きな箱を出してきた。

「こっ、これは……?」

2人はニコニコしているが腕はプルプルと震えている。

「これは、化粧水とか、乳液とか、スキンケアのやつと、ヘアケア用品……」

とりあえずそれ、おろしましょうか……

「ふー、重たかった〜」

ハナさんお疲れ様です。

「こんなにいただいちゃっていいんですか?」

「「良いのよ〜。お近づきの印ねっ!あっそうだ、明日私たちと一緒にお買い物へ行かない?足りないものもあるでしょう?」」

お買い物……お金ないよな……

「あのっ……」

「「じゃあ明日の朝9時、委員会の入り口付近集合ね〜」」

断る間無くして約束させられてしまった。1人玄関に取り残された麻由は、しばらくどうしようかな〜と考えていたが、とりあえずマニュアルを読もうとリビングに戻った。

(あっ、ちゃんと鍵閉めとかないとねっ)


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎


 「ふーむ……」

麻由は今、カレーライスを作っている。マニュアルに載っていた中で1番簡単そうだった料理だ。材料はカレーのルウ、ピョンジン(うさぎみたいに跳ねるニンジン)、ジャカジャカイモ(マラカスみたいな音が鳴るイモ)、コロリネギ(一口サイズの玉ねぎ)、肉、米米(まいまい)(渦巻き模様の米)

(ん〜〜。いい匂い)

完成した。見た目は普通のカレー。新品のお皿に、炊飯器で炊いた米と一緒に盛り付ける。我ながらなかなかの出来だ。勇気を出して一口、多めに取ってもう一口。よかった、味も普通のカレーライス。


 『ピピピ、お風呂が沸きました』

あっ、お風呂が入ったみたいだ。丁度食べ終わったところだし、そろそろ入るか。


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎


 バフン……

(ふーー、さっぱりした〜〜)

現在午後9時。昨日だったら森でぶっ倒れていたときくらいかな。今日はベットでゴロゴロしながらマニュアルを読んでいる。ちなみに、今着ている肌着やパジャマはクローゼットに入っていた。明日の分の服もある。それはさておき、

(明日の買い物、お金どうしようかな〜〜)

考えていた時、マニュアルからパサっと1つの封筒が落ちてきた。なにこれっと思って開けて見ると、中にはお札がたくさん

(Wow!……お金⁉︎)

封筒の中をガサゴソさぐると、手紙が入っていた。

『麻由さん、ようこそ豊巫羅へ!この封筒に入っているお金は仕送りです。あなたは豊巫羅では孤児ですので、生活の補助として毎月末ここでの平均月収分(約20万(りん))を送ります。まだ月末ではありませんが、今月分(1万鈴札20枚)送りました。お確かめください。なお、今月末分は別にありますのでご安心ください。

総合委員会より』


 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10……20、20枚ちょうどあった。明日の買い物はこれでどうにかなりそう。

「よしっ」

アラームを午前7時に設定して麻由は眠った。


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎


 「バリバリバリ、バリバリバリ、ガチャン」

早朝の空気を目覚ましが振るえさせる。あ〜〜ぁ、麻由は大あくびをして起きた。寝ぼけ顔のまま下の階の洗面所に行った。顔を洗って歯を磨く。ちなみに使っている洗顔料は昨日ナルさんとハナさんが持ってきてくれたニキビ予防効果のあるやつだ。台所に行って朝ご飯を作る。つもりだったけど、昨日の洗い物が残っている。1日の始まりが皿洗いなんて最悪だ。皿を洗った後でちゃんとした料理を作ろうという気など起こらない。ベーコンエッグとトーストを作ることにした。卵を割ってベーコンとフライパンで焼く。トースターで食パンを焼く。皿に盛り付けて食べる。服を選ぶ。今日は暑いのでノースリーブのワンピースにした。襟元が寂しいのでリボンをつけることにした。麦わら帽子でもかぶって行くか。

 普通だ……。こんな森の中で迷子になって、こんなに普通の生活を送れるだなんて。ラジオを聴きながら庭に昨日の洗濯物を干す。今日は1日中晴れだから、帰ってくるまで干していても大丈夫。現在午前8時、集合まであと1時間ある。鞄に荷物を詰める。財布がないので封筒に10万鈴だけ入れて残りは机の引き出しに置いていくことにした。持っていくものはハンカチ、ティッシュ、一応マニュアル……このくらいでいいか。そうこうしているうちに時刻は午前8時50分。

「よしっ」

靴を履いて扉を開く。窓の鍵も扉の鍵も全部閉めた。鍵もお金も持った。

「行ってきまーす!」


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎


 「委員会」の文字が消えかかっているすたれた看板の横で麻由はナルさん、ハナさんを待つ。

「麻由ちゃ〜ん」

「やっほ〜」

来た。2人とも、今日はお揃いのショルターネックのつなぎの服を着ている。頭にはマダムがかぶるような大きめの帽子が。

「まずどこから行く?」

「決めてなかったんですか⁉︎」

麻由は驚いた。昨日結構強引に誘われたのでどこか一緒に行きたいところでもあると思っていたのに。

「う〜ん……やっぱりまずは総合委員会かしら?」

「ナイスアイディア!ハナちゃん!」

2人で話が進んでいく。

「てことで、麻由ちゃん、総合委員会に行きましょう。あそこは豊巫羅で1番大きな委員会だから麻由ちゃんの好みの店もあるかもよ!」

うーん……と麻由は考えた。あそこからここまで馬車で2時間くらいかかった。

「結構遠くないですか?」

するとナルさんとハナさん、よくぞ聞いてくれたというふうに

「「大丈夫、雲走(うんそう)で行けば10分くらいで着くわ!」」

(雲走?)

「「駅に行くから、麻由ちゃん、はぐれないでね!」」


 麻由はほぼ2人に引きずられるようにして委員会駅に着いた。

(これ、本当に駅なの⁉︎)

麻由たちは今マンションのてっぺんにくらいの高さにいた。どうやって登ったかって?エレベーターだよ。こんな森の奥なのに、ハイテクだよね。

「ナルちゃん、次の電車まで後何分?」

「え〜と〜、毎時間10分に発車するから、あと2分もないと思うわ」

どんどん2人の間でスケジュールができていく。麻由は完全に置いてけぼりをくらっていた。

「あのー、雲走って一体……」

聞こうとした時、

『まもなく、ホームに雲車(うんしゃ)が参ります。黄色い点字ブロックより後ろにお下がりください。まもなく雲車が参ります。ご注意ください』

『タラララタラララタリロリラン♬タラリロタリロリタリタリタン♪タラララタラララタリロリラン♬タラリロタリロリタリタリタン♪』

シュワっと音を立てて現れたのは連なった雲。もしかしてこれが雲車?先頭に誰か乗っている。

「ご乗車の際、雲車とホームの隙間にご注意ください」

(いやこれはご注意くださいのレベルじゃないよ!落ちたら死んじゃうよ!)

「「じゃあ麻由ちゃん、乗りましょうか」」

「ええーー!これに乗るんですか!落ちませんか⁉︎」

「「大丈夫、大丈夫」」

絶対大丈夫じゃない……。だけど、発車の時間が迫っているので麻由は渋々乗ることになった。

「雲が包みます。ご注意ください」

(包みます……?)

すると雲は3人を包むように上へと伸びて閉じた。

(包まれた……)

色々不思議なことがたくさんおこった。けどそれも今に始まった事ではない。とりあえず、気になることは片っ端から聞いていこう。

「なんで雲に乗れるんですか?何で雲が動いたんですか?」

「先頭に乗っていた子がいたでしょう。あの子は雲走委員。雲走委員は雲を自由に操ることができるの」

「だから人が乗っても落っこちない雲を作ったり、雲に乗って移動したりできるの」

昨日と同じように交代剛体で説明してくれた。分かりやすいし息もピッタリ。本当の姉妹じゃないのかと思うくらいに。

「「麻由ちゃんはどこへ行きたいの?」」

あっ、それ考えてなかった。

「服屋さん、靴屋さん、雑貨屋さん」

「おもちゃ屋さん、カフェ、ペットショップ」

それだ!ペットショップ!

【花橋麻由辞典③】麻由の住んでいたマンションはペット禁止だったため、生き物への関心はまあまああるのである。

「私、ペットショップ行きたいです!」

前のめり気味で目をキラキラ、いやギラギラさせて主張してくる麻由に2人は引き気味で

「「ええ……じゃあ、そうしましょうか……」」

「次は、総合委員会駅〜、総合委員会駅でございます。お出口は左側です」

あっ、もう着いたみたい。


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎


 「わあーー!でっっっっかい!」

ものすごく大きい。全てが。委員会へ行った後に来たら尚更だ。

「ペットショップは?どこです?」

興奮気味に尋ねる麻由に2人は落ち着かせるように言った

「えっと〜〜、この辺に確か有名なカフェがあったはずだから」

「そこでちょっと落ち着き……ゆっくりしてから行きましょう」


 ということでやってきたのが「喫茶とぐろ丸」。麻由は看板メニューの蛇苺パフェを、ナルとハナはバ7ショコラパフェを頼んだ。

「おお……」

看板メニューと言うだけあってとても美味しそう。森の外で言ったら蛇苺って野原とか山に生えてる実のことだけど、ここでは本当に蛇の形をしたイチゴのことらしい。蛇みたいに長いイチゴがソフトクリームに巻きついている。一方でナルさんとハナさんの頼んだバ7ショコラパフェは、バナナの断面の形が数字の「7」になっていた。だからバ7って言うらしい。

「ね〜麻由ちゃん。どんなペットが飼いたいの?」

「ヌーン……」

全く考えてなかったな……そもそもここにはどんな動物がいるのか分からない。

「ここにはどんな動物がいるんですか?」

「「えっ、麻由ちゃん元々いてる動物を飼うの?」」

「?」

()()()()()()()()()()()?ですか……。いていない動物は飼えないと思うんですけど。

「元々動物売ってるお店、あるかしらねえ〜」

「さっきからどう言うことなんですか?元々いてる動物……とか」

ナルさんとハナさんはハッとした様子で

「「あっそうか。ここと外ではペットショップも違うのか」」

違う……?

「ここのペットショップでは、私たちが飼いたいペットについて色々注文するの」

「それで、お店の人がその注文に沿った動物を作るの」

いつも通り交互に説明、ありがとうございます。

(理想の動物を作れる……。ワクワクが……とまらねえぞ!)


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎ 


 「喫茶とぐろ丸」から徒歩で約10分、やって来たのはショッピングセンター「Forest Castle」。ファッション、雑貨、グルメ、ムービーシアター……。さまざまな小売店、飲食店、エンタメ施設が充実しているここ。実は豊巫羅で唯一のショッピングセンター。他にお店が集まっているところといえば商店街ぐらい。(『豊巫羅マニュアル』調べ)とりあえず案内所でパンフレットをもらってきた。

「ここなら何でもあるし、1日中いても飽きることはなさそうですね」

「「そうなのよ〜〜」」

で、今日はとりあえずこのショッピングセンターを見て回ることになった。私が行きたいのはペットショップ。

(ペットショップはー……本館の1Fから広場を挟んだところにある別館の奥の方に3軒か……)

「別館行きましょう」

キリッと、キッパリと提案した。

ナルさんちょっと考えて

「でも、動物を連れてお店に行くのは迷惑になることがあるから__」

ハナさんなだめるように

「そこは最後に行きましょうね〜」

「えーー」

ずっと焦れさせられている。

「早く行きたいのに……」

小声で言った。不満げに唇をとんがらせる麻由に、2人はこれ以上ないほど素晴らしい提案をした。

「今、広場でふれあい動物園をやっているらしいわよ」

キリリっ

「行きます⭐︎」


 「キュイーキョンっ、ギョエーギャウっ」

たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、た

 ここで問題!これは何の音でしょう。チチチチチチ……。正解は……叫喚鳥(きょうかんちょう)の声と足音です。叫喚鳥とは!体はダチョウで頭と尾にはクジャクのような飾り羽根が生えている。が、その色は火山を彷彿させる鮮やかな赤色と黒色。しかも赤い部分は暗いところで光るんだって。名前の由来はまるで叫ぶような鳴き声。結構うるさい。それで、何で今、叫喚鳥の話をしているのかというと……

「「しっかり捕まってね〜〜」」

はい、ヒント出ました。そう、私は今叫喚鳥に乗っている。ギリギリ乗れる身長(麻由の身長は150cm)だったので是非是非と2人に勧められたのだ。

(う〜……うるさい。耳がキンキンいう。ガクンガクン揺れて……酔う……)

広場を5分かけて一周まわった。周りの人に注目されて恥ずかしい。1回500鈴。支払って別のコーナーへ行く。

 次は毛玉コーナー。毛玉はもこもことした球体の形をした生き物で、ちょっとハムスターみたい。手に乗っけていると、あったかくて顔がとろけてしまう。こんな感じの癒しを自分の暮らしにも取り入れてみたいものだ。料金は無料(タダ)。正直ずっとここにいたいのだけれど、そう言うわけにもいかないので次のコーナーへ向かう。

 ふれあい動物園といえばこれ、餌やり体験。1回200鈴。ここでは豊巫羅アンゴラに餌やりができる。豊巫羅アンゴラは日本アンゴラにとても似ている。飼育員さん曰く、私のように豊巫羅に迷い込んだ子が日本アンゴラを何匹か持っていて、それをここで改良したらしい。具体的にどのように改良したのかというと、より多くの毛がとれるように体を大きく、毛を長くしたらしい。その子が持っていた分では足りなかったので、豊巫羅の野生のウサギとも交配させたらしい。なぜその子がウサギを何匹も持っていたのかというと、捨てられていた子ウサギを家に持って帰ったのだが、親に怒られて家を飛び出し、迷子になってそのままここに来たらしい。何十年も前のことだから覚えている人はあんまりいないんだって。歳を取らないとはいえ、物を忘れないと言うことではないからね。豊巫羅アンゴラの餌はピョンジン、昨日カレーに入れたやつ。

「あっ」

つかもうとしたら、ピョンジンが逃げた。

(しまった……)

麻由が追いかけるよりも先にウサギがピョンジンに噛みついた。そのままガジガジと食べる。これが食物連鎖。


 とりあえず一通りまわった。ちょっと豊巫羅についても詳しくなったかな。時刻は午後1時。そろそろお昼ごはん食べないとね。

 本館3F、フードコート。ハンバーガー、海鮮丼、たこ焼き、ステーキ、うどん、ドーナッツ、パン……。色々ありすぎて迷っちゃう。とりあえず、1番森の外のと見た目が似ているやつを食べることにした。

(うーん……ハンバーガーは外のやつと全く一緒の見た目してるな)

てことで、麻由はハンバーガー、ナルさんとハナさんはフルーツサンドイッチ。サンドイッチの具に好物がなかったからちょっと残念そうにしていたけど、これはこれで美味しそうに食べている。

(あーうまっ)

味も、食べた後の罪悪感も全く変わらない。必ずしも所変われば品変わるというわけではないのだ。

「ね〜、この後どこ行く?」

ナルさんが聞いてきた

「麻由ちゃんはペットを飼うのよねえ?」

ハナさんも聞いてきた

「うん」

「「じゃあ、色々買っておかないとね」」

「ベット、ボウル、おもちゃ……」

「それにフード、リード、首輪とか」

確かに。

「ここにペット用品店って入ってましたっけ?」

2人は自分の店ではないのに得意げに言った。

「「うん。しかも、豊巫羅1の評判よ!」」

「デザイン良し、実用性良し」

「店員さんも知識があるから、どの商品を選べばいいか相談できるし」

どこから仕入れた情報かは知らないが、豊巫羅の端っこにある委員会の2人が知っているなら、かなり有名な店に違いない。

「じゃあ次、そこ行きたいです」


 別館1F、ペット用品店「柴崎」。なんかちょっと古臭い名前。口には出せないけど。

「結構渋い名前ですね」

ちょっと言い方を変えて言った。

「「ええ」」

「このお店は今年で創設50年になるそうよ」

「だから、大感謝祭で今年中全商品5%OFFになっているそうよ。太っ腹ねえ〜」

まさにナイスタイミング。早速中に入る。おばあちゃんの家みたいな匂いがする。置いている物もなんかレトロ。けど並んでいる商品は全部今風。なんか奇妙な感じ。とりあえず何から買えば良いか分からないので店員さんに聞いてみる。

「すみません、新しくペットを飼おうと思っているのですが、何から揃えればいいのか分からなくて……」

「はい、ではこちらなどどうでしょうか?」

その店員が差し出したのは「初めての飼育キット」。だけど気になっているのはそんなんじゃない。

「お姉さん、何代目なんですか?」

えっ、という顔でその店員は答えた。

「何代目って……1代目ですけど……」

50歳以上でこんなに若い見た目をしているなんて……。本当に歳を取らないんだ……。不思議。店員さんはきょとんとした顔をしている。まあ、ここでは歳を取らないことなんて当たり前だから、おかしいのは私の方なんだろうけど。

「あっ、変なこと聞いてすみません。じゃあ、これください」

店員さんはパッと表情を変えて

「はい、サイズはS、M、Lの3つございますが、どれにいたしますか?」

さらに2つ出てきた。さっき出されたのはMサイズ。今出されたのはSサイズとLサイズ。箱の大きさもそれぞれ違う。

「どういう基準で大きさが分けられているんですか?」

どれが1番大きいとかは分かるけど、どのくらいの大きさの個体に対応しているのか分からない。

「SサイズはSサイズの『生き物の種』、MサイズはMサイズの『生き物の種』、LサイズはLサイズの『生き物の種』から作り出したペットに対応しています」

「『生き物の種』?」

なんかすごいファンタジーな感じの名前が出てきた。

「『生き物の種』と言うのは生き物のもとです。芽生(めばえ)委員はこの種子を成長させて動物にすることができます」

黒い大豆みたいな種を見せてくれた。

「それぞれの種で作った動物ってどのくらいの大きさになるんですか?」

うーん……と少し考えて、

「個体によって異なるんですけど、大体Sサイズの種では小型犬くらい、Mサイズの種では中型犬くらい、Lサイズの種では大型犬くらいの大きさに成長します」

あと……と続ける

「『初めての飼育キット』にこのサイズはないんですけど、SSサイズとXLサイズの種もあります。SSサイズの種では毛玉くらいの大きさ、XLサイズの種では叫喚鳥くらいの大きさに成長します」

迷うな。どのサイズにしよう。麻由は理想のペットの像を頭に浮かべてみた。

(うーん……こんな感じなのかなあ)

毛玉みたいな小さい癒しの存在が家にあるのもいい。叫喚鳥みたいに大きなやつだったら存在感も大きいから家族っていう感じがとても強いと思う。

(うーん……)

麻由の頭の中にはハムスターのケージみたいなものを眺めている自分の像と、ベットで巨大なペットと一緒に寝ている自分の像の2つが浮かんでいた。

「大きい種と小さい種で作った生き物って、大きさ以外に何か違いはあるんですか?」

店員さんはまたうーん……と少し考えて、

「これも個体によって違うんですけど、基本的には、小さい方は臆病な子が多くて、大きい方は神経が図太い子が多いです。あと、大きい種の子の方が子供の時と大人の時の差が大きいので成長を見るのが楽しいですよ」

成長か……。麻由はひとりっ子なので弟や妹が成長していくようすとかを見たことがなかった。成長を見守るというのは生き物を飼う醍醐味だと思う。それで決めた。

「XLサイズの用品ありますか?」


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎


 (重い……)

麻由はXLサイズを選んだことを後悔しかけていた。あの店で買ったのは首輪Sサイズ、ペットベットSサイズ、トイレSサイズ、ペット用サークルXLサイズ、首輪XLサイズ、ペットベットXLサイズ、トイレXLサイズ、伸び縮み型リード、フードボール、水入れ、ブラシ、コーム、歯磨き用ロープ、ペットシーツ、フード、おやつ、おもちゃ等等。何でSサイズのものがあるかだって?XLの種でペットを作っても子供のうちはSサイズなんだって。それで、今年は全商品5%OFFでしょ、だから大人になった時のものも買っちゃったの。ペットシーツとフードは1年間の定期便を頼んでおいたから、毎月末に1か月分届けてくれる。定期便は前払いで、一括で払ったからその額なんと36000鈴。お店で買ったものを合わせると、な、な、なんと!56000鈴。生き物を飼うのって結構お金がかかるんだね。

「ねえ麻由ちゃん?」

「次はどこに行く?」

ナルさんとハナさんが顔をのぞきこんできた。現在午後3時、まだ帰るのには少し早い。けど、麻由が行きたいのはペットショップだけ。それは最後に行くことになっている。

「私はもうペットショップ以外行きたいところないので、お2人の行きたいところでいいですよ」

すると2人はニヤッとした。

「「じゃあついてきて!」」


 「「麻由ちゃん、準備は良い〜〜?」」

「いやいや、そんなん似合いませんて!」

ここはファッションショップ「T.P.」。麻由は今、ナルさんとハナさんの着せ替え人形にされているところ。麻由が必死に断っているのはフリフリとしたロリータのワンピース。ナルさんが麻由にワンピースを差し出し、ハナさんはヘッドドレスと靴下、靴を差し出している。

「さっきも同じ感じの着ましたよ!私!」

さっきにも黒色のフリフリしたワンピースを着せられた。

「チッチッチ、麻由ちゃん。あれはゴシック・アンド・ロリータ。略称ゴスロリ」

「こっちはロリータファッション。間違えないでね!」

いやいや、ほとんど一緒でしょ……フリフリなことに変わりはないんですから。麻由が断固として受け入れようとしないので2人は最終兵器を使った。

「「昨日いろいろあげたでしょ〜?」」

ずるい。それを言われたらもう断れない。

「「ねっ」」

と、キラキラとした期待の目で見つめてくる。

「分かり……、ました……」

陥落。

 そんな感じで1時間以上が経過した。

「楽しかったわ、麻由ちゃん」

ナルさんが満足したように言った。

「また付き合ってちょうだいね」

ハナさんがイタズラっぽく言った。

「「あっこれは私たちが払うから」」

「えっ!!」

払うって、くれるってこと?これ全部?

「今日1日付き合ってくれたお礼〜」

「本当に良いんですか⁉︎こんなに」

「「良いのよ〜〜」」

「ありがとうございます!本当に!」

家のクローゼットに入っていたのはこのワンピースとTシャツ3枚、ズボン2つとソックス2組、それとパジャマと肌着だけだったのだ。

「あっでも、フリフリのんは別に……」

「「ん?」」

笑顔の圧。


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎


 (うう……お、重い……)

荷物が増えた。さっきのペット用品に加えてナルさんとハナさんにもらった衣類。紙袋を持つ手が痛い。現在午後5時、そろそろ帰る時刻が近づいてきた。今向かっているのは別館のペットショップ。「T.P.」は本館の3階にあるからかなり距離がある。

「はあ、はあ、はあっ」

息が上がってくる。

 やっと着いた。別館1階。そこには3軒のペットショップがある。「PETS FRIEND」、「芽生委員会公式派遣店」、「マジカルシード」の3軒。

(どこに行こうかな……)

「PETS FRIEND」は今どきな感じの雰囲気。店員さんもポップなTシャツにミニスカートをはいている。「芽生委員会公式派遣店」はホームセンターに入っているペットショップみたいな感じ。店員さんはジャージを着ている。「マジカルシード」は……よく見たら臨時休業の紙が貼られている。ガラスが汚れていてあんまり良い印象ではない。

(『公式』ねー……。そっちの方が信頼はできるかな)

とりあえずしっかりした感じのする「芽生委員会公式派遣店」に行くことに決めた。


 「いらっしゃいませ」

麻由たちを出迎えたのはメガネをかけた素朴な青年。

「今日はどんなご用で」

結構硬い言葉を使う。商売やってる人の間では普通なのかな?

「新しいペットをお迎えしたいんです」

あっ、とその人はちょっと焦って。

「あちょっ、ちょっとお待ちくださいね」

店の奥から表みたいなものを持ってきた。

「えっと……これは色んな要素の組み合わせの表です……参考にしてください……。注文が決まったらベルを押して呼んでください。ぼ……、私は奥で用意をしていますから」

店員さんはそう言って店の奥へ入って行った。

 (多い……)

店員さんに渡された表は何と3枚。しかもそれにみっちり書かれている。隙間がない。たくさんのパターンがあるらしい。それとあと1枚注文用の紙が渡された。これに書いて渡せば良いのかな。

 早速選んでいこう。1枚目は目のパターンの表。まずは目の色。紅色、あかね色、さくら色、あんず色、わかば色、るり色、すみれ色、しっこく色、赤茶色、おうど色、こげ茶色、銀色、金色……。

(あんず色が1番可愛いかな)

さくら色にチェックする。

 次は目の形。丸い目、つり目、三白眼、タレ目。これは少ない。

(丸い目がウサギみたいで可愛い)

丸い目にチェックする。

 そして瞳孔。猫目、まん丸、ヤギの目。

(ヤギの目の、このなんともいえない感じ。なんか癒される〜)

ヤギの目にチェック。

 最後は目の雰囲気。可愛い、甘えん坊、クール、熱血、無、ツンデレ、やんちゃ、ピュア、グレー。

(これはピュア一択!)

ピュアにチェック。

 2枚目は体。まずは体つき。ぽっちゃり、ムキムキ、ほっそり、標準。

(標準が安定かなぁ)

標準にチェックする。

 その次は尻尾。尾羽、飾り尾、短い尾、巻き尾、細い尾。

(飾り尾が1番ゴージャスねー)

飾り尾にチェック。

 次は手足。質問は2つ。歩き方:2足歩行、4足歩行、不完全な4足歩行(例:ハムスター)。手の形:人の手の形、犬の手の形、猫の手の形、ネズミの手の形、ミックス。

(何となく歩き方は不完全な4足歩行……。手の形は……流石に人の手の形は気持ち悪いかも。けど残りの3つは正直何だかなあ。ちょっと冒険してみたいから……)

と、歩き方は不完全な4足歩行、手の形はミックスにチェックした。

 最後は体表。粘液、鱗、ストレートのショートヘア、巻毛のショートヘア、ストレートのロングヘア、巻毛のロングヘア、縮毛。

(飾り尾に1番合いそうなのは巻毛のロングヘア)

チェック。

 あっ、あともう1個あった。羽。無し、コウモリの羽(手)、コウモリの羽(背)、鳥の羽(手)、鳥の羽(背)、蝶の羽、トンボの羽、カブトムシの羽。

(飛べた方がかっこいいよね。羽といえば鳥!)

鳥の羽(背)にチェック。

 3枚目は顔と色。まずは顔から。小動物の顔、猫の顔、犬の顔、トンボの顔、魚の顔、セイウチの顔、鳥の顔、カエルの顔、トカゲの顔。

トカゲの顔にチェック。

 顔の項目の細かいところも選択する。ほっぺの触り心地、これは柔らかい1択。牙、これはない方が安全。そして耳。垂れ耳、たち耳、折れた耳、でこぼこの耳、穴。立ち耳が元気な感じでいい。

 次は色。模様は……ちょっとまだらな感じが良いかな。で、色はピンクっぽい灰色。

 1通り選択し終わった。その他のご要望の欄に麻由はこう書いた。

「一緒に走り回ったり、遊んだり、寝たりできる、兄弟みたいなペットがいいです」

(1人暮らしはちょっと寂しいからね)


 チーン。ベルを鳴らした。小走りであの店員さんがやってきた。注文用の紙に一通り目を通すと、

「匂いはどういたしますか?」

えっ匂い?うーん……リラックスできる感じの匂いがいいかな。

「ラベンダーの匂いとかできますか?」

「はい。あと、髪の毛を1本いただけますか?」

髪の毛!

「種に髪の毛を結んで成長させると、その人になつきやすくなるんです」

ふーん……不思議。麻由は髪の毛を1本抜いて渡した。

「はい。ではこの内容で作ってきます。サイズは……XLですね」

店員さんは緊張した様子で店の奥へと向かった。


 「ふう、大丈夫、大丈夫だぞ」

店の奥であの店員さんが自分を励ましている。

(今日は初出勤……そんな日に失敗するわけにはいかないんだ)

XLの種を棚から取り出す。条件に合うように肥料を混ぜて種にかける。種に手をかざし、じわじわと力を込める。一気に力を送ると種が破裂してしまう。

(ゆっくり、慎重に……)

一定の力を込め続ける。あと少しだ。

(……しまった‼︎種に髪の毛を結ぶのを忘れた!今からでも間に合うか?……髪の毛、髪の毛)

生き物の種はある程度の時間、力を込め続けると自分で力を作り、成長することができる。髪の毛を種に近づけた。その瞬間、種はポンっと弾けて奇妙な動物になった。髪の毛も消えている。

(なんだ……できたのか?成功……したのか?)

奇妙な動物は奇妙な鳴き声をあげている。


 「お待たせしました」

店員さんが奥から出てきた。その手には大きなカプセルを抱えている。

「これは保育器です。1か月間はこの中に入れておいてください。出してもいい時期になったら保育器のロックは自動で解除されます」

中をのぞくと注文通りの生き物が入っている。

「「こんばんは〜、可愛いベイビーちゃん」」

ナルさんとハナさんも興味津津。不思議だな。一瞬で生まれるなんて。

 

 「お会計お願いします」

足りるかな、お金。ちょっと心配になってきた。

「『生き物の種XL』×1 『ラベンダー香』×1 『保育器』×1 合計30050鈴です」

安ッッッッ‼︎この子のために買った物の方がはるかに高い。


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎


 午後6時、「総合委員会駅」に着いた。雲車が着くまであと10分くらいある。麻由は両腕に紙袋、そして両手で保育器を抱えている。

(明日は両腕筋肉痛に違いないな)

保育器の中を見る。小さな鳥とも犬ともいえない奇妙な生き物が安らかに眠っている。

『まもなく、ホームに雲車(うんしゃ)が参ります。黄色い点字ブロックより後ろにお下がりください。まもなく雲車が参ります。ご注意ください』

『タラララタラララタリロリラン♬タラリロタリロリタリタリタン♪タラララタラララタリロリラン♬タラリロタリロリタリタリタン♪』

もう来るみたい。麻由は椅子から立ち上がった。


 雲車の中、窓から見える豊巫羅の景色を眺める。大きい町、小さい町、端っこに極小の町、委員会が見える。他の委員会は街灯や道路がしっかりと整備されているけど、うちの委員会は街灯なんて1本も無くて、道もない。ただ草原の上に家があるだけ。なんかちょっと悔しいっていうか、寂しいっていうか……

「次は、委員会駅〜、委員会駅でございます。お出口は左側です」

着いた。今朝のボロボロの看板が見える。


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎


 午後6時半、麻由は家に着いた。荷物を玄関に置く。リビングに入ろうとした時、電話が甲高い声でしゃべった。

「メッセージを預かっています」

えっ?メッセージ?首根っこを押した。

「ちゅぴっ」

『やっほー、麻由ちゃん!』

これは……委員長の声⁉︎なんで私の番号知ってるの⁉︎

(ハッッッッッッ‼︎)

「ナルさんの方が一歩前に出て言った。

『背中のところに番号があるでしょう、これが自分の番号よ』

確かに、4桁の番号が書かれてある」

この時か‼︎この時ナルさんは私の電話番号を見た。それで委員長に伝えたのか‼︎

『明後日、麻由ちゃんの歓迎パーティーをするから私の家に来てね』

『『『『待ってるよー‼︎』』』』

ん……?声が増えた。1、2、3、4人。ということは、もう私の電話番号この委員会の人全員に知られてるんじゃないの‼︎メッセージはまだ続いていた。というか録音を止め忘れている。

『麻由ちゃんの電話番号サラさんと目抜流君にも教えてあーげよ……』

「ちゅぴっ」

「はあああああああああああええええええええええええ‼︎」

プライバシーも何もあったもんじゃない。勝手に何やってんだよぉぉ〜……。

「ジジジジジジジ……ジジジジジジジ……」

電話だ。

「ちゅぴっ」

「はい。麻由です」

『もしもし、麻由ちゃん。目抜流だよ』

早速、目抜流君から電話が来た。どういう用件なんだろう。

「なんの用?」

『ん?特になんて無いよ。色塚いろはさんから電話番号聞いたからかけてみただけ』

やっぱり言いふらしている。

「じゃあもう切るねー」

『ちょ、ちょちょっと待ってよ!せっかくなんだしもうちょっと話そうよ!』

「でも今話すことないし」

『んーー。あっそうだ、麻由ちゃんっていつから学校行くの?』

「まだ聞いてないよ」

話しながらお風呂の用意をする。

『ふーん、じゃあ多分2学期の始業式からだね。さっき、学校から2学期から転校生が来るって連絡があったんだ』

「ふーん」

鍋でお湯を沸かす。

「学校って、ここでは何するの?」

『もちろん勉強だよ。科目は、家庭、能力コントロール、略して能コンってみんなは呼んでるよ、それと体育、生物学とかだよ』

「変わってるねー」

お湯が沸騰してきた。

『じゃあ、そっちの学校では何やってたんだよ』

「うん?べんきょー。理科、数学、国語、家庭、技術、社会、道徳、体育、美術、音楽とか」

お湯がボコボコボコボコいっている。そろそろ止めようかな。

『うう……そんなに一気に言わないでよ。なんか難しそうだね。聞いたこともないのもあるなぁ』

「森の外じゃ能コンなんて、多分どこの学校もやってないよ」

火を止めた。

「まあ、いちおう学校の用意はしておくよ」

『新学期、楽しみだね。じゃあ、もう切るね。ちなみに僕の電話番号は4162。またかけてきてね』

「ちゅぴっ」

カップラーメンにお湯を注ぐ。タイマーを3分にセット。今日買った物の整理をする。衣類はクローゼットに直す。結構な量だ。1時間以上も着せ替えさせられてたからそりゃそうか。ナルさんとハナさんって結構お金持ちなのかもな。

「ピピピピピピピピピ……ピピピピピピピピピピ……」

タイマーが鳴った。

「ピッ」

タイマーを止める。

台所で立ったまま食べる。カップ麺って不思議で便利な食べ物だよね。お湯を注いで3分待つだけで、こんなに美味しい食べ物ができるのだから。

「ふーー……」

スープは飲まない。体に悪いから。流しにスープを捨てる。お風呂が沸くまでもう少し時間がかかるみたいだ。ペット用品はとりあえず床下収納に入れた。保育器を眺める。あいかわらず安らかに眠っている。その幸せそうな顔を見ていると、こっちまで幸せになる。

(変だな……。こんな森に迷い込んで、最初は死んじゃうかもって思ったけど、今は前よりも幸せになっている気がする)

ふふっと麻由は笑った。

『ピピピ、お風呂が沸きました』

お風呂に入ろっと。


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎


 お風呂から出て、ちょっとだけラジオを聞いて寝室に行く。もちろん保育器も持っていった。

(この子と私はずっと一緒なんだもん)

ベットの横の机に保育器を置いた。さすがに一緒に寝るのは保育器が割れてしまいそうで怖い。

「おやすみ」


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎


【麻由の日記】

8月17日 天気:晴れ

今日から日記をつけるようにした。今日のコーデは活発に動ける運動着。ここに来たときに来ていたやつだ。昨日ナルさんとハナさんに買ってもらった服は洗濯している。買った服は洗濯してから着ないとちょっと気持ち悪いから。保育器の観察もこれから毎日しようと思う。今日もすやすやと眠っている。1日中寝ているだけなんてちょっと羨ましい。私もお母さんのお腹にいたときそうだったんだろうけど。お母さん……会いたいなぁ。それにしても、本当に可愛いなぁ。イタズラされても怒れる気がしないよ。可愛いなぁ。うはぁ〜、もうどうしよう。可愛いとしかいえなくなっちゃう。

よし、話題を変えよう。今日は庭に種を植えた。農具は庭の倉庫にあったやつを使った。慣れない作業で結構疲れた。よく眠れそう。私の好物の果物の種が届いたの。それとその実も。実は森でとってくるのは危ないから、私が食べたやつの残りから種をとって、食物委員会の人が育ててくれたんだって。我慢できずに食べちゃったよ〜。何回食べてもおいしいな〜。早く育たないかな、庭に植えた種。あの子が大きくなったら食べさせてあげよう。あっ、でもあの実って動物も食べられるのかなあ。まっ、大丈夫か、私の子だし。私が生んだわけじゃないけど。今日の朝ごはんもベーコンエッグとトースト。昼ごはんは卵焼きとポンレンソウ(焼くとポンっと弾けるので危なくて焼くことはできない)のおひたし、米米、焼き魚(なんの魚かちょっと気になる)。晩ごはんはハンバーグ、茹でた野菜(ピョンジンとポンレンソウ)。それと、今日もちょっと目抜流君と電話してた。暇だったから。あの子の穏やかな声は心に沁みる。明日はいよいよ私の歓迎会。ナルさんとハナさんに買ってもらった服を着ていく予定。初めてのひとり暮らしがこんなのになるなんて、誰が予想できたのだろう。いろいろ大変だけど、これからも頑張っていくぞぉーー。終わり。


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎


 「バリバリバリ、バリバリバリ、ガチャン」

目覚ましの音でぱっちりと麻由は起きた。下に降りて歯を磨いて顔を洗う。朝ごはんはいつもと同じベーコンエッグとトースト。洗濯物を干して庭の畑に水やりをする。

(そういえば、歓迎会って何時からだっけ?)

みんなが家で始めたら私も出ようかな。この委員会は狭いから、みんなの家がよく見える。とりあえず家でその時を待つことにした。ちょっと掃除しようかな。

(よしっ、やるぞ……)


 さっ、さっ、さっ、さっ、とほうきで床をはく。さすがに掃除機はもらえなかった。バケツに水を入れて雑巾を濡らす。絞って、一気にだーー‼︎と床を拭く。さらに、濡れていない雑巾で乾拭きして水気をとる。布団も干す。枕も干す。机を拭く。トイレのふちを掃除する。便座を拭く。床も拭く。忘れるところだった、食器洗い。ちょっとしか食器がないから洗うのを忘れたら大変。

「ふうーー」

一通り終わった。けどみんなが出てくる気配はない。

(世の主婦はこれよりも多い量の家事をこなしているのか……。お母さんに感謝と尊敬の気持ちを忘れずにいよう)

暇なので保育器を見た。昨日もほとんど保育器を見て過ごしていた。

(可愛い……)

ごめんね。この子に関してはこれしか言ってないよね。けど、しかたないんだよ。だって事実だから。ペットのいる暮らしってこんなんなんだ。癒しのある暮らしってこんなんなんだ……

「ガチャっ」

お隣さんが出発するみたい。私もそろそろ行こうかな。会場となる色塚委員長の家へと向かった。


 「「麻由ちゃん可愛い〜〜」」

そう言ったのはあの2人、ナルさんとハナさん。麻由が今着ているのはこの前この2人に買ってもらったジーンズのワンピース。アクセントになるように赤色のリボンで髪を縛ってある。

「麻由ちゃん‼︎もう始まってるよ」

おいでおいでと手招きするのは色塚委員長だ。相変わらずカラフルな髪の毛が目を引く。部屋に入っていくと、そこは輪飾などで綺麗に飾られてた。机の上にはケーキ、チキン、オードブルなどの様々な料理が。

「好きなの食べて!」

枯等魏風華さんに勧められた。どれにしようかな、と麻由が悩んでいると。

「これなんかおすすめだよ」

風華さんの隣に弟の風磨さんが。身長は大っきいけどおとなしくて存在感はあんまりない。勧められたのはレーズンみたいなものがのったカップケーキ。

「風磨、それはあんたの好物でしょ!この子が好きそうなのを選びなさい!」

お姉ちゃんに怒られてる。

「ま、まあ、せっかくなのでいただきますよ」

風華さんを宥めつつ風磨くんを慰めつつ、口に入れた。普通に美味しい。レーズンの強い甘みを生クリームが受け止めて、まろやかな風味にしている。

「美味しそうに食べてるじゃないか。俺は間違ってなかったんだ」

「ふんっ」

この姉弟、喧嘩がちょっと多い。


 みんなと食べたり話したり、楽しい時間はどんどん過ぎていく。


話している中でこんな話題になった。

「この委員会で不満とかって、ないんですか?」

風華さんと風磨さんに聞いた。

「「不満?」」

「たとえば、街灯がない、とか狭い、とか……」

うーん……と2人は考えて、

「特にないかな、それほどの仕事はしてないし、当然って感じ」

「私もそうかな……」

「僕もそうですね。不便だとはつくづく感じていますが」

三四六くんだ。横で話を聞いていたらしい。

「役に立っている委員といえば、色塚委員長くらいですからね」

そういえば、あの人の能力知らないな。

「色塚さんは絵に描いたものを実際に出現させられるのですよ。紙幣なんかも彼女が作っています」

へえー……。めっちゃ役に立ってるじゃん。あの人単体だったら結構便利な暮らしできるんじゃない。なんか私たちのせいで不便な暮らしをしていると思うと申し訳ない。

「三四郎くんは?」

「私はただ頭が良いだけですよ。探偵をやっているんですけど、ここでは探偵が必要になるような事件は起きないんです。まあ、それは良いことなんですけどね」

ただ頭が良いだけって、ただって何よ、ただって。普通に羨ましいわ‼︎

「風磨くんは?」

「俺は動物が何考えてるのか分かる」

おお‼︎めっちゃファンタジーなのが来た。

「けどそれでどうなるって話」

自分で結構きついこと言ってる。

「十分すごいと思うんですけどね……」

慰める。

「風華さんは?」

「私は体が小さい。以上‼︎」

「なる、ほど……」

これはさすがに慰めようがなかった。ちょっと怒っている。結構気にしてるっぽいな。

「お二人は?」

「「私たち?」」

待ってましたと言わんばりに言った。

「私たちは〜〜相手にどのくらいの魅力があるのか調べたり、どんな人がタイプなのか調べたり……」

「どんな魅力が足りないのかを調べたりできるの〜〜」

いつも通り交互に言った。

「それで恋占い専門の占処を?」

「「うん‼︎」」

けっこう気になっていたことを聞いた。

「お客さんって結構来るんですか?」

「「まあまあね〜〜」」

「バレンタインとかクリスマスとか……」

「修学旅行とかのイベントの前とかは結構来るんだけど」

「「他はあんまりね〜〜」」

こないだあんなに色々もらって大丈夫だったんだろうか……?

「あっでもぉ、私たちモデルもやってるから……」

「生活にはぜーんぜん困ってないの」

良かった。

「「麻由ちゃんも占いに来てね。目抜流君との相性占ってあげる♡」」

結構です……。

 「はぁー、どうやったらもっと委員会の設備がよくなるのかなあ〜」

うーん……とみんなもうなった。それは委員会ができて以来、永遠の課題。

「私たち全員が役に立っていると認められれば、設備が整うのは間違いないですけどねえ」

三四六くん、さすがこの委員会の頭脳、1番最初に答えを出した。めちゃくちゃ当たり前の答えを。

「総合委員会くらい俺たちも活躍できたらなぁ」

風磨くんの言葉で、ふと総合委員長、金沢さんとの会話が思い出された。

『私たち総合委員はこの街の管理をしています。総合委員は3年に1回行われる選挙でその3年間で1番活躍した委員会が選ばれます。ちなみに、私たちの元々の委員会は心理委員会。その委員は相手が何を考えているのか分かったり、思考を操作することができる』

これだ!総合委員会なら設備はこれ以上ないほど整っている。これで行こう‼︎ 麻由は机にバンっと手をついて立ち上がった。

「みんな‼︎総合委員会になりたくはなぁい?」

ニヤニヤと笑ってみんなを見下ろす麻由の顔は、貪欲な人間の本性をそのままに現していた。


   ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎  ❇︎


【次回予告】

ヤッホー、みんな。麻由だよ!こんな感じで夏休みは過ぎていって、とうとう新学期が始まる!目抜流君と同じ学校ぽいんだよね〜〜。同じクラスになれるかな?あの天使のような顔を毎日拝めると思うと、ウフッ……グフッ……。えっ、電話してた時ちょっと塩対応だったって?それはいろいろやってたし、お出かけの後だからちょっと疲れてただけ!それはともかく、うちの子の成長も楽しみにしていてね!ああ、新学期緊張するなぁ……。あれ?なんか私の見た目が変わってきたような……。というわけで、次回作も是非読んでくださいね!じゃあ!

次回「いざ、豊巫羅学園へ!(仮)」


 「「「「「「総合委員会……」」」」」」

最後まで読んでいただきありがとうございます。キャラクターのデザインのイラストとかもまた載せれたらいいなと思っているので、次回作も是非読んでください。

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