金銀姫の情念
二話連続投稿の二話目になります!
「……これを押したらいいのか」
奇妙な共同生活が始まり、早速フレッドが移動式トイレなるものの中に入って困惑している最中、外にいるアドラシオンがゆっくり歩いていた。
「それにしても色々片付いたと思わない?」
「何の話かな?」
アドラシオンの艶やかな唇がソルの耳元に近づき、同性でも惑わすような蠱惑的な吐息が漏れた。しかし、親友の行動に慣れているソルは気にせず、首を傾げながら要件を尋ねた。
「彼ってば王になったじゃない」
「うん。そうだね」
「なら立場の問題は解決してるから、私が子供を産んでも問題ないでしょ」
「ぎょっ⁉」
爆弾発言が飛び出した。
アドラシオンの言う彼とは、この場にいる唯一の男性であるフレッドのことで間違いない。だが、そのフレッドの子供を産むという言葉がセットになると、ソルは驚きを口にするしかなかった。
「こここ子供ってそんな急に⁉」
「初心ねえ」
褐色の肌でも分かる程に顔を赤くしたソルが慌てると、アドラシオンはにやにやと笑いながら肩を竦めた。
そしてアドラシオンは、最近になって少々変わった価値観を持つようになっていた。
「男と女のことで難しいことを考えるのもいいけど、単純なのもいいじゃない」
「た、単純?」
「強い男に命がけで助けられたら、好きになって子供を産みたいって思うのが一人くらいはいるわよ」
「なんか野生動物みたいな話になってない⁉」
その持論を披露されたソルは、大国の姫とは思えないことばかり言っているアドラシオンを、野生動物に例えてしまった。
尤もソルの言う通り、アドラシオンの金の瞳はギラギラと輝いており、獲物を見つけた猛獣にも劣らぬ気迫があった。
「あ、私だけの話じゃなくてソルを合わせたら二人かしら」
「ソルちゃんを巻き込まないでほしいかなって!」
「よく言ったわね。帽子のベール越しにずーっと彼のこと見てるじゃない」
「ななな⁉」
口が止まらないアドラシオンだが、ソルは自覚していた行為を指摘されて更に顔を赤くする。
ソルはフレッドが視界に入る度に彼の姿を追っていて、何をしているのだろうか。こっちに来るのだろうか。何を話せばいいのだろうか。このようなことばかりを考えていた。
(男の人となに話していいか分からないんだもん!)
心の中で絶叫するソルと、アドラシオンには共通点があった。
(お父様はまた娘かって言うような人だし……それにお母様も……)
ソルが肉親の顔を思い浮かべる。
ソル父親だけではなく、アドラシオンの父も子供が娘ばかりで求めているのは家を継ぐ男児だ。そのため娘が生まれる度にまた女かと呟いてしまい、男児を出産すれば妻の立場は確固としたものになるので、アドラシオンとソルは母にとっても外れクジだ。
そのため二人の扱いは一見すればちゃんとしていても、肉親の情愛など欠片もない冷めきったものになる。
しかもあのカエル悪魔は、よりにもよってソルとアドラシオンに価値がないと言って、彼女達の心の傷をこれでもかと抉ってきた。
事実としてソルとアドラシオンは実家において、いたら政略結婚の道具に使えるけれど、今現在必要なのはお前ではない。という程度の価値しか見出されていないのだ。
更に周囲にいた者は、生存本能に突き動かされて二人を見捨てた。
これは生物として当然だから、ソルもアドラシオンも受け入れている。だが、命を捨てる覚悟で自分達を助けた者がいるのならば、特別扱いをするのもまた当然だ。
(フレッド様……)
ソルは細い人差し指同士をツンツンとつつき合わせ、その特別な男について考える。
フレッドがソルを必要としていたのではなく、男の価値観に従って行動したことは分かっていたが、男の矜持には触れてこなかったソル達には刺激が強すぎた。
この場にいる男がフレッドだけな状況もよくない。ソル達の認識では、男は逃げた者達とフレッドの分類で止まって更新することができず、その状態のまま奇妙な共同生活を送っていた。
「あ、訂正。実は四人」
「え? 四人?」
「赤と青のお姫様もね。ソルってば、彼のことばかり見てるから気付いてないでしょうけど、あの二人もずっと見てるのよ」
何気なくアドラシオンが付け足したが、コーデリアとレティも同じだと宣う。
ただ事実だ。
コーデリアは凛々しさこそ維持しているが、フレッドと話す時はどこか上の空だし、レティはもじもじとしながら、フレッドと視線が合った時だけ目を伏せていた。
「状況が状況だからいがみ合ってる場合じゃないし、変に拗れて彼に呆れられるのも嫌。歴史的和解を成し遂げましょうか」
ニヤリと笑うアドラシオンの言葉を聞けば、熱砂国だけではなく騎国の人間が目を剥くだろう。
危機的状況だから団結するだけならともなく、何百年もいがみ合っている国の姫が、男との関係を維持するために手を取り合うなど前代未聞だ。
(本気も本気だ……因縁とかよりも、フレッド様を優先するつもりだ)
ソルは親友の瞳に宿っている炎に気後れしてしまう。
アドラシオンが王女として定められた道は、大いなる神の介入で破綻した。しかし、新たに提示された先の見えない道に燃え上がっている彼女は、人生で最も強い輝きを放っていた。
(私だって……私だって!)
だがソルも女としての感情で負けてはいないようだ。
能天気な男のすぐ傍で、女の情念が渦巻いていた。
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