事情説明
二話連続投稿の一話目になります!
「なる……ほど?」
姫君達から丁寧に、何度も命を救ったことへの礼をされながら説明を受けたフレッドは理解し切れていない。
主にアドラシオンが語り、信仰に厚いソルとレティが僅かな補足を入れたが、現代において大いなる神が現れるなど、まさに奇跡が起こったとしか言いようがない事態だ。
そんな奇跡の一部に巻き込まれたフレッドが、王となって平定という聖務を言い渡されたなど、理解しろと言う方が無理難題だろう。
「……まずはここから抜け出すのが先決ですね」
だからフレッドは大人の得意技、問題の先送り、棚上げを行使することにして、靄に包まれた辺りを見渡す。
「大いなる神は待機せよと仰りました。恐らく私達がここを出るのに、少しの時間が必要なのかもしれません……」
囁くような小声を発するがレティにとって、フレッドは他人で異性の男だ。信心深い母からの影響が濃く、貞淑であれと教育されたのだから、本来は直接話すことも避けただろう。
しかし、フレッドを見つめている目は熱を帯びており、教育や信仰心の色は非常に薄くなっていた。
(少しの時間か)
一方、少しの時間が必要と言われたフレッドは顎を擦った。
木っ端貴族の養子が王族に関わる教育を受けている筈もなく、ましてや相手は全員が女性だ。
少し前のフレッドに、天の上にいるような高貴な女性陣四人と、いつ終わるか分からない共同生活を想像したことがあるか? と聞けば、失笑しか返ってこなかっただろう。
「幸い、食料や飲料に困ることはないようなので、暫くは大丈夫でしょう」
コーデリアが積まれた金属の箱に視線を送る。しかしその様子は、見るだけでも危険なものから無理矢理視線を外したような動作だ。
これまた少し前のコーデリアとは全く違う。
大国の王女として堂々と振舞う様子が様になっていたのに今では妙にしおらしく、フレッドから外した筈の視線をチラチラと元に戻していた。
「あ、また別の箱だ……服が入ってる! はいどうぞ!」
「ありがとうございます」
そこへ追加でやって来た金属の箱をソルが漁ると、緑や茶色が入り混じって森に溶け込みそうな服を見つけフレッドに手渡す。
フレッドが着ていた極鎧用の服は血や止血用ジェルで汚れきっており、しかも棺桶の溶液で濡れていたので、交換する必要があった。
特に上半身の服はズタボロで、フレッドが確認のために少し引っ張ると大きく裂けてしまった。
軽率な行いだろう。
「……っ⁉」
「きゃ……」
コーデリアは息をのみ、レティは掌で顔を覆ったが指の隙間から目を出している。
「わーお」
「あわわ」
アドラシオンは感嘆の声を漏らし、ソルは瞳がぐるぐると動いて直視できない。
フレッドは、切断されたはずの腕を含め自分の体を正確に把握していたので気が付かなかったが、淑女にとっては目の毒を発散している。
肩回りや胸の筋肉は大きく盛り上がり、肋骨の辺りは奇妙な陰影が出来上がっている。更に腹筋はこれでもかと割れている上に、女性陣の腰に匹敵する腕にはいくつもの筋が浮き上がって、握りこぶしは岩よりも頑丈そうだ。
「レティ様、改めて命を救っていただき、ありがとうございます」
「こここちらこそ⁉」
切断された腕と炭化していた腕の確認を終えたフレッドは、説明を受けた時にも礼を言っていたが、再びレティに対し深々と頭を下げた。
ただ、礼を言われた方は顔を真っ赤にしてぶんぶんと首を横に振り、自分でも何を言っているか分かっていなかった。
極端を言えば姫君の周りにいる男は肥満か貧弱のどちらかで、逞しいという単語には縁がなかった。
「それでは少し物陰で……」
離れたところで着替えようとしたフレッドは、突然発生した緊張に気が付いた。
それは恐怖、怯えである。
「……すぐ着替えるので、後ろを向いていただけないでしょうか?」
他には全く気が付いてないくせに、恐怖の原因がなにかを察したフレッドは姫君達に後ろを向いてほしいと頼んだ。
すると彼女達はどこかほっとしたよう気配を帯び、フレッドの傍から遠ざかることなく後ろを向いた。
(あのカエルめ。死体が残ってたら燃やしてやる)
フレッドの想像通りだ。姫君がカエルの悪魔に刻まれた心の傷は深く、少なくとも今現在はフレッドが遠くに行くことを恐れている。
「着替え終わりました」
初めて見る緑と茶色が混ざった模様だが、服は服だ。首と袖、足を入れる場所さえ分かればすんなりと着替えが完了する。
ただ、微妙にサイズがフレッドの肉体と合っていないようで、腕周りや胸元の辺りが窮屈そうだ。
一方、姫君達は肌に張り付く極鎧用の服を着たままであり、レティの母がいればそれで男の近くにいるつもりかと驚いただろう。
「それでは食料と飲料をしっかり確認しましょうか」
姫君達の精神的な支柱となっていることを自覚したフレッドだが、変に意識することなく普段通りの声である。
特別なストレスを感じていないし、養子先から追い出されても平然としていたので、精神が非常に図太いのだ。
そしてその図太い男こそが、姫君達に必要なものだ。
「永久……保存食……永久⁉」
箱を漁って驚愕するフレッドと、一定の距離を保ちながらも決して離れようとしない姫君達の奇妙な共同生活が始まった。
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