フレッドという男
二話連続投稿の二話目となります!
『怪物の血が混ざっているのではないか?』
微睡むフレッドは記憶を刺激された。
物心付いた時からずっと、体格で同年代を圧倒し続けたフレッドは、それこそオークのような怪物の血が流れていると地元で噂されてきた。
尤も事実でこそなかったが、事実だと誤認させるような逸話は枚挙にいとまがなく、父に連れられた狩りで狼に襲われた際に、負傷を負うどころか撲殺したことすらあった。
こうなると、貧乏男爵の弟の息子。ではなく、貧乏男爵の弟の家に生まれた怪物との混血という認識が広まり、どの家も嫁に出すのを嫌がるようになった。
更にそんな息子を面白がっていた父は奇行が目立ち、フレッドからも変わった人だと思われていた程で、余計に関わってはいけない家だと思われていた。
そのためフレッドはいい歳なのに浮ついた話もなく、この点ではフレッドの養子入りを歓迎していた男爵家の家臣にとって頭が痛い問題だった。
『ゲコ』
カエルの声が聞こえた。
どうも騒がしいと思い、なにかの緊急事態が起こっているのではないかと思って湖に行けば、気に入らない光景があった。
這い蹲って逃げていた者達と、拘束されていた姫君を見れば、カエルが碌でもないことを行い、そして口に出していたことなど容易に想像できる。
それが悪魔の習性だと分かっているが、それでも気に入らないものは気に入らない。
栄誉や名誉ではない。そうしなければならない立場であるが、これもまた別の話だ。
コーデリアとは一言二言交わしただけで、面識などほぼないに等しい。他の三人に至っては話したことすらない。
だが辱められ、彼女達は泣いていたのだ。
ならばそれを止めるために命を捨てる男がいてもいいではないか。自暴自棄ではなく、人生に絶望しての行動でもない。ただそれだけの話だった。
(?)
微睡んでいたフレッドは無意識に疑問を感じた。
心地よいなにかに包まれているが、それがどこか熱を帯びたような感覚を受けている。
「これは棺桶の力か⁉ レティ!」
「あわわわわ!」
「魔女っ子ソルちゃん。見解をどうぞ」
「む、無意識を拾って調査する力かも! それで伝説級には情報を共有する力があるのかもももも!」
なにやら騒がしいがフレッドはよく聞き取れず、思考は更なる疑問が溢れ出した。
(今自分はどうなっている? ここはどこだ? 何があった?)
『治療完了』
はっきりとフレッドの意識が覚醒すると同時に声が聞こえ、彼は状態が分からないまま上体を起こした。
「はぁっ! はあっ! はあっ!」
フレッドは状況を理解しようと努めながら、新鮮な酸素を取り込むため呼吸が荒くなる。
なにかの溶液に満たされている箱から、上半身だけ起き上がった自分。これはいい。
切断されたはずの腕と、感覚がなくなっていた反対の腕が綺麗な状態なのは大きな謎だが、妙に顔が赤い高貴な女性達が、自分をじっと見ている状態は更に謎だ。
「このアドラシオンがご説明させていただきますが、まずは体を拭かれた方がよろしいでしょう」
「は、はい?」
もっと言えば、他国の姫君が艶めいた笑みを浮かべて、丁寧な口調で話しかけてきた上に、タオルまで差し出してきたならフレッドの理解を超えていた。
「あ、あの。失礼しました」
「大いなる神からのご神命がありました」
慌てたフレッドは棺桶からすぐさま出て、自由に動く腕に疑問を覚える暇もなく、言われるがままに体を拭き終える。
しかし、その直後にアドラシオンから飛び出してきた爆弾発言は、予想する方が無理な代物だった。
「フレッドに特別ゲキツイ王の称号を与えるので、訓練施設での課程を終了後、西極湖一帯を平定せよ。また、コーデリア、レティ、アドラシオン、ソルもフレッド共に行動せよ。とのことです」
まさに意味不明。
フレッドは大いなる神が自分をゲキツイ王とやらに任命して、しかも高貴な姫君と行動を共にせよとは、いったいどういうことなのだと心底困惑する。
「……手の紋章を確認して頂ければ分かるかと」
「紋章……え⁉」
言われた通りに手の紋章を確認したフレッドは、目玉が零れそうになってしまった。
剣と盾の紋章を上書きするように輝いている王冠のマークが、事態をややこしくしている。
古代に国家を成立させた者達は、全員が神に選ばれて王冠の紋章を授けられたと伝わっており、その形もはっきり分かっている。
それこそがフレッドの手で輝いている王冠の紋章であり、姫君達はやはり間違いないのだと確信を深めてしまった。
「改めまして、熱砂国の第一王女、アドラシオン・エリモスでございます」
「ね、熱砂国のディリティリオ家長女、ソル・ディリティリオです!」
しかも第一王女という立場のあるアドラシオンが頭を下げ、高位の神官を輩出する家のソルは上ずった声で挨拶をするではないか。
「騎国の第一王女、コーデリア・ポルフィロスです」
「お、同じく騎国の第二王女、レティ・ポルフィロスです……!」
続いて自国の姫君であるコーデリアとレティまで頭を下げたため、フレッドの脳は完全に機能を停止してしまう。
「フレッドです」
まだ事態が把握できていないフレッドは、つい先ほどまで人族換算で中年に足を踏み入れ、しかも家を事実上追放されていた根無し草だ。
全て過去の話である。
大いなる神に王の称号を与えられた彼は、例え大国の姫君でも敬服しなければならなず、同時に絶対の命令を受けたに等しい。
「その……詳しいお話を聞かせていただけませんか?」
尤もフレッドにしてみれば、飲み込めないことの連続だ。
(まあ、生きてりゃなんとかなるさ)
ただし、精神的にも非常にタフであり、それが姫君達の支えとして十分に機能した。
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