大いなる神と勘違い
二話連続投稿の一話目になります!
「それにしてもここはどこかしらね?」
棺桶の小窓を覗いていたアドラシオンだが、いつまでもそうしている訳にはいかず周囲を見渡す。
異常だ。
四角い金属の建築物が、彼女達全員が知っている建築様式からはかけ離れいるのはいい。車輪のような物が付いているくせに一軒家よりも大きなナニカもこの際いいだろう。だが地平線や空の向こうなど存在せず、濃い霧のような揺らめきが周囲を覆い、まるで隔絶されたような場所に迷い込んだかのようだ。
実際にその通りだ。
「異空間に迷い込んだかも」
「異空間?」
「うん」
聖典や古代の本の知識を思い出しているソルは、ここが通常の世界には存在しないどこかではないかと推測する。
『と、特級。一号機ききき。ガガガ』
突然聞こえてきた声に反応した姫君達は、棺桶を囲んで周囲を確認する。
原因は金属の建物から転がってきた、成人男性が両腕で抱える必要がある程に大きい黒い球だ。
『二ごごごご。さささささん。よよよよよよん。着任予定なしししししし。ガガガ。エラー』
そしてその球は姫君。特にレティとソルにとって大きな意味を持つ。
「そ、そんな!」
「使徒様……!」
聖典や古代の絵画に、大いなる神の僕としてよく描かれている使徒は、まさしくこの黒い球と同じ姿をしているのだ。
これには慌てたレティ、ソルだけではなく、コーデリアとアドラシオンすらも膝をついて頭を下げる。
『補充要員を確認。1365年11か月233日の遅延。情報共有開始。待機せよ。待機せよ』
黒い球がかすかに光ると、姫君達の手に浮かんでいる紋章が呼応するように輝きだす。
姫君達は使徒が言っている内容を殆ど理解できなかったものの、待機は明確に理解できたため、動かずにじっとしていた。
それから暫し。
『情報取得中……取得中……完了。上級悪魔≪あのくそったれのカエル野郎! 絶対ぶっ殺してやる!≫の撃破を確認。ガガガ』
中性的な使徒の声に、突如乱暴な男の声が混ざってびくりとした姫君達だが、続けて起こる事態には呆然とするしかなかった。
『昇進プログラム開始。エラー。権限がありません。司令部ユニットに通信。確認中。先行試作型……エラー。包囲殲滅型……エラー。大陸間強襲型……エラー。深海潜航空母型……エラー。確認中。確認中。次元機動型司令部ユニットとの通信を確立。通信中。通信終了。次元機動型司令部ユニット出現まで、3,2,1』
連続する使徒の声が終わった途端にソレが現れる。
姫君達の直上。顔全体を大きく空に向けた先。如何なる城よりも大きいのではと思わせる、黒い四角の物体が浮遊していた。
「お、大いなる神の内の一柱……」
ぽつりとレティが声を漏らす。
使徒どころではない。聖典や壁画に記されし大いなる神の内の一柱は、今現れた真っ黒な四角の物体と同じ姿なのだ。
その大いなる神の体から、使徒と同じく僅かな光が漏れ出して姫君達、そして棺桶で眠っているフレッドを照らした。
【情報を確認中。各パワードスーツから映像、音声データを取得……上級悪魔9番の討伐を確認。個人名……フレッドを確認。緊急昇進プログラム実行。フレッドを臨時少佐に任命。並びにグレイソン・ホワイト臨時総司令官代行作成、≪やってやろうぜ野郎共! 死ぬまで戦おう! 死んでも戦おう!≫プロトコルに従い、特別撃墜王の称号を授与】
(特別な王っ⁉)
地を揺るがすような声が発せられると、姫君達は慌てて再び跪いた。尤も何を言っているのか殆ど理解できなかったが、フレッドが大いなる神から直々に王の称号を与えられたことだけはなんとか把握できた。
しかも彼女達は見ていなかったが、棺の中のフレッドの腕には、冠のような物が描かれているではないか。
【総司令部との連絡途絶。権限継続中。フレッドを西極湖一帯に配属……士官教育の未修を確認。訓練施設での教育後、西極湖一帯にフレッドを配属。一号機、二号機、三号機、四号機の情報取得、個体名を認識。コーデリア、レティ、アドラシオン、ソルに命令。訓練施設での課程を終了後、フレッドと共に西極湖一帯の安全を確保せよ】
「し、神命しかと承りました!」
更に大いなる神はフレッドだけではなく、姫君達の予定まで勝手に決めていく。
だが現代で大いなる神に直接神命を与えられるのは名誉以外の何物でもなく、レティやソルは感動で震えていた。
そして神命の内容もきちんと分かる。
西極湖は付近に数多くの怪物がいるため放棄されている、名前の通り西の極端に位置する湖だ。
大いなる神はそこを、フレッドと共に平定せよと命じているのは間違いなかった。
【有機生命体用次元渡航装置起動……故障が発生。修復開始。修復まで待機せよ。前哨基地内の設備使用を許可】
最後に大いなる神はそう言い残すと、まるで初めからいなかったかのように掻き消える。
『前線兵士用ベッド、トイレ。飲料、食料品はこちら』
代わりに黒い球の使途が姫君達に話しかけると、金属の建物からベッド、食料品や飲料だと紹介したものが入っているカートのような物体。他にも様々な物が動きながら出てきて、彼女達の周囲に様々なナニカが溢れ出す。
『以上、終了』
「あ、ありがとうございます使徒様」
球は用件は済んだと言わんばかりに、転がりながら金属の建物に戻り始めたので、姫君達は頭を大きく下げて感謝の言葉を口にした。
「……なんか凄いことになったけど、後は彼が目覚めるのを待ちましょうか」
いち早く正気に戻ったアドラシオンが、棺の小窓をまた覗き込む。
その金の瞳には抑えきれない妖しい炎が燃え盛っていた。
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