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勘違いと真実の入り口

「……そう言えば、フレッド様と共にコーデリア様、レティ様。それに熱砂国の姫君達が、共に西極湖一帯を平定せよというご神命を授かったこともご存じではない?」


 先導して訓練施設も中を進んでいたギルバート司祭は、フレッドの件を知らないのなら付属する神命もまた同じなのではないかと思い至った。


「西極湖を平定?」


「姫様達が……?」


「ええ。これから忙しくなるでしょう」


 子弟達のざわめきが起きると、ギルバートは困難と忙しさを考えながら重々しく頷いた。


「それにしても、極鎧があれほど柔軟に動くとは知りませんでした。やはり大いなる神に選ばれた方は特別なのでしょう」


(……その者も伝説級の極鎧なのか?)


(しかし伝説級は姫様達が再誕させるまで聞かなかった。秘匿されていたとんでもない人物がいるのか?)


 先導を続けるギルバートの言葉に子弟達は首を傾げる。


 特別褒めるような極鎧となれば、真っ先に思い浮かぶのは伝説級だ。しかし、伝説級を手に入れたコーデリア達が神話の再現だと謳われたのだから、フレッド王はいつ手に入れたのだと疑問が生じた。


 しかし、もっと別のことで頭がいっぱいな者達がいた。


(姫様達が西極湖を平定する……それはいつ終わるのだ⁉)


(婚姻はどうなる⁉)


(父上はかなりの金を使っているぞ!)


 それはコーデリアやレティと現実的に婚姻を結べる立場の公爵家の子弟達だ。


 度し難いと言うべきか。


 自己弁護が完了した彼らは、多少の冷却期間は必要だろうがコーデリアやレティとまだ結ばれると思い込んでいた。


 しかし、神命によって姫君達が遠い場所に行くことになれば少々話は変わる。危険地帯の平定などいつ終わるのか分からず、彼らはまたしても婚姻が成立しない状況に陥っていた。


 勿論、自分達も西極湖に同行して武功を稼ぎ、姫君達の目に留まるという発想はない。そういった類のことをしなければならないのは、何の功績もない下々のすることであり、公爵の家に生まれた者がする行いではないのだ。


「皆様はあちらでご奮闘されております。横から見ることができますのでこちらにどうぞ」


 そして地下の階段を降りたギルバートは重厚な扉を指差して、重要人物がどこにいるかを伝えた後、離れた位置にある別の部屋へ案内した。


 その部屋はガラス越しに物を見るかのように、訓練施設で行われている行動を余すことなく伝えてくれた。


『ギャアアアアアアアア!』


 人の五倍はありそうな巨大すぎる赤黒い大蛇が叫び、鱗からはこれまた同じ色の炎が揺らめいている。しかしなによりの特徴は頭が一つではなく六頭の蛇であることか。


 対するは五人。


『レティ!』


『はい!』


 赤き姫騎士が青き聖女の名を呼ぶ。


『大いなる神よ! 御力を!』


 レティが杖を掲げて大いなる神に呼びかけると、五人の前に青い光の壁のような物が展開され、大蛇の口から解き放たれた炎を防ぎきる。


『仕留める!』


 なにかの力が働いているのか、僅かに床から浮いているコーデリアが足を動かしている訳でもないのに加速して、輝く剣を蛇の頭に振り下ろす。


『やっぱり連携って難しいわね』


『確かに!』


 金と銀が輝く。


『足止めしましょうか』


 艶めかしい褐色の足を組み、黄金の玉座に座るアドラシオンが僕を操作する。


 すると十を超える骸骨の兵士達は、一般的な騎士型極鎧に匹敵する速度で疾駆して蛇に群がり、ぶつかって蛇の行動を阻害した。


『発射ぁ!』


 奇妙と言うべきか。ソルの号令で浮遊していた箒のような物体が輝くと、光の矢のような物が発射されて大蛇の頭に命中する。


 普段の子弟達なら、コーデリアとレティが熱砂国の人間と共闘している⁉ と驚いただろう。


 それだけ両国はいがみ合い続けているのだが、彼らが驚いたのはもっと別の理由だ。


『コーデリア!』


『はい!』


 コーデリアに様を付ける一瞬を惜しんで呼び捨て、一緒に蛇の頭を相手取っている緑の巨漢が斧を叩きつける。


 余談だがこの呼び捨て、かなり受けが良かった。


「オーク型⁉」


「なぜここに⁉」


「そんな馬鹿な!」


 四つの伝説級がいる場にそぐわない、最底辺の極鎧であるオーク型が共に戦っているなど、子弟達にとっては予想外も予想外である。


(ま、まさか⁉ いやそんはずがない! あり得ない!)


 そんな子弟達の中でベンジャミンと、一部の下級貴族の子弟が雷に打たれたかのように震え、脳裏に浮かんだ可能性を否定する。


(奴はほぼ平民なんだ! 大いなる神に選ばれるなど……!)


 彼らはとある人物と多少の関わりが存在し、なんの偶然かその名は神に選ばれし者と同じだった。しかし、思い浮かべた顔の男はエルフどころか人族であり、貴族とも呼べない存在だ。


 決して。決してそんな筈はなかった。


『ギイイイイイイイ!』


 彼らが混乱している間でも戦いは続き、オーク型と伝説級の極鎧は蛇に確かなダメージを与え続ける。


 そして最後に残った蛇の頭にオークの斧がめり込むと、勝負は新たな伝説の圧勝で幕を閉じた。


『ふう……少し休憩しましょうか』


 オーク型がそう言って極鎧を解除する。


「あ、あああ……」


 呻いたベンジャミンの視線の先にはいる筈のない男。フレッドが姫君達に囲まれていた。

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― 新着の感想 ―
へ、蛇君!? あ、ベンジャミン居たのか
知ってしまったかw
素直に従う→プライドが高すぎてハゲる 逆らう→は?大いなる神の神命ぞ?? 詰みです
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