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馬鹿達の舞台裏3

(全く……なんでこんなことに)


 空を飛ぶ船で再び清らかな篩が治める地に向かっているベンジャミンは、心の中で悪態を吐いた。


 本来の彼の予定では今頃、聖なる行軍を終えてコーデリアとレティの傍で付き従い、訓練施設に向かっている筈だった。


 そしてオークやリザードマンと戦い、姫君達に武勇と忠誠を示して称賛されるまでが確定していた予定だ。


 それが悪魔の出現で大きく変わった。


 ベンジャミンを含めた騎国の子弟達は怯えた表情だし、なにより雄姿を見せるための姫君達がここにはいない。


(仕方なかったんだ。極鎧がきちんと動いていたら、逃げる必要なんてなかった)


 多くの子弟がそうであるように、ベンジャミンもまた自己弁護する。


 自分達が逃げ出したのは、カエルの攻撃によって極鎧が機能不全に陥ったからであり、それがなければ雄々しく戦ってたのだと。


(そもそも公爵家の連中が逃げ出したんだ。あいつらの方がよっぽど責任が重いだろう)


 更にベンジャミンの自己弁護は続き、公爵家の子弟を引き合いに自分を正当化しようとした。


(姫様達の婚約者候補だったのにあれだったんだ。男らしさなんて欠片もない)


 ベンジャミンはそれほど妙なことは思っていない。


 公爵家の子弟は事実上、コーデリアとレティの婚約者候補であり、彼らの中から決まると言ってよかった。


 つまり、その立場なのに姫君達を見捨てて逃げた者達は、ベンジャミンよりも多少ながら責任が重いという意見は正しいだろう。


 尤も男らしさが欠片もないという言葉は余計で、こればかりはベンジャミンにも言えることだ。


「夜になるので地上に降ります」


 ベンジャミンだけではなく多くの子弟が似たようなことを考えていても、空を飛ぶ船は順調に進み続け、夕方になると地上に降下した。


 ある程度は勝手に進んでくれるものだが夜は見通しが悪く、かつて山に墜落した事件があるため、活動は明るい時間に限定されているのだ。


 そこでベンジャミン達は朗報でありながら都合が悪い……更には不完全な情報を知る。


「姫様達はご無事⁉」


「は、はい。どうやら大いなる神が姫様達をお救いなられたとか」


 切羽詰まった表情で驚愕する子弟達に聖職者が気圧される。


 しかし、慌てた聖職者が齎したのは姫君とフレッドが帰還した直後の第一報のような物で、著しい混乱に埋もれフレッドのことがきちんと伝わってなかった。


「ああ、大いなる神よ……」


「感謝いたします……」


 ベンジャミン達は大いなる神に感謝の言葉を捧げるが少々語尾が弱い。


(マズいのでは……)


 自己弁護の果てに自分は悪くないと結論したベンジャミン達は姫君、特にコーデリアに厳しく叱責されることを恐れた。よく言えば心優しい。悪く言えば籠の中の小鳥であるレティが叱責する姿は想像できないようだ。


 そして、当事者からの叱責は感情が伴っている上に、相手は自国の第一王女だ。王宮での扱いに影響を与える可能性が高く、場合によっては冷遇されるということもあり得るだろう。


(レティ様から切り崩すしかない!)


 ここで子弟達は気弱そうなレティの心を攻めることにした。


(あれは悪魔のせいだったんだ)


 全ては悪魔のせい。命乞いは本心ではなく、感謝の言葉は悪魔の能力で無理矢理言わされたものだった。


 本当は姫様達を助けたかったが、体を操作されてはどうしようもなかった。間違いなく悪魔は姫様達に疑心暗鬼を植え付けるため、我々に無様な真似をさせたのだ……と。


 まさしく悪魔の証明。


 客観的に悪魔が肉体を操作した証拠がないのだから、嘘だと言い切ることはできない。そしてこの論は、言い張る者がいればいる程に効力を増す上に、もし当事者が否定すれば、それならお前は悪魔の能力ではなく心底怯えて悪魔から逃げたのだと言われてしまう。


 つまり逃げた者達は誰も真実を口にすることはできず、悪魔が肉体を操ったという嘘が真実になるのだ。


 奇妙なことだが騎国の子弟だけではなく、遠く離れた熱砂国の者達も同じ発想にいたり、この両者は自己保身に関して非常に似た者同士で仲良くできるだろう。


(いや、本当に悪魔のせいだったのでは?)


 ここに至って行き着くところまで行き着いた。


 ベンジャミンを含め、保身から作り出した嘘のくせに段々と本当のことのように思えてきた彼らは、自分で納得を作り出した。


(自分があんな無様を晒すものか)


(そうと分かれば早速姫様達に会う必要がある)


 砕け散った自尊心も歪な再生を果たす。泣き喚き、尿を垂らすような醜態は否定しなければいけないものなのだ。


 そして嘘を煮詰めて自家中毒を起こした者達は【潔白】を伝えるため、先程まで会うのを躊躇っていた姫君に会う決意を固めた。


 底抜けの愚か者であり救いようがない。


 しかし、やましいことが露見しかけると、バレると分かっている嘘を重ね、余計に酷い状況を招くのは人の歴史が証明している。


 誤算だったのは……。


 コーデリアのみならずレティも、問題視していたのは悪魔の件の少し前。


 もっと言えばベンジャミンがフレッドを殴ったことだった。

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― 新着の感想 ―
裏で絶対笑ってる おーほほほほほ
はいはい悪魔のせい 滅んだ悪魔くんも草葉の陰で「やっぱり普通はこうだよな」って頷いてそう
彼等も、まさか自分が蔑み馬鹿にし、殴った相手が神託で 王 になってるとは思うまい。 姫様たちに告げられた時が楽しみ~
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