表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/23

馬鹿達の舞台裏

 少し時間を遡り、騒動の裏で起こっていた混乱を見てみよう。


「ベンジャミン! よく戻った!」


 騎国に帰還した肥満体の貴族子弟。フレッドと悪い意味で何かと縁があり、彼を殴ったこともあるベンジャミン・ヴァルトスは、真っ青な顔の父に出迎えられた。


 実に似た親子だ。


 父のカレアムと息子のベンジャミンは共に肥満体で、肩まで伸ばした髪は油が浮いているように輝いている。


 そして弛んだ青い瞳は盛り上がった顔の肉に埋もれて細く、親子揃って不摂生な生活を送っているのが分かる。


「悪魔が現れたと聞いた時はどうなるかと思ったが……」


 そんな親子だが、父のカレアムはきちんと息子を愛しているようで、ベンジャミンが怪我一つなく戻ったことに安堵していた。


 しかし、怪我が一つもないのはそれはそれで問題だ。


「父上……その……」


「分かっている。上級悪魔に襲われたのだから仕方あるまい。まあ多少は煩く言われるかもしれんが、聞けば公爵家の人間や清らかな篩の者達も同じなのだ。特別我が家が吊し上げられることは考えにくい」


「は、はい!」


 言葉に詰まっているベンジャミンがなにを言いたいか把握しているカレアムは、安心させるように思ったことを口にする。


 まだフレッドと姫君が帰還したという報告が齎される前なのだが、カレアムにすれば息子が戻って家が保てるならそれでよかった。


 そこにはベンジャミンに対して、仕えるべき王家の姫を見捨てて逃げたことに対する叱責はなく、利己的な貴族としての本能が見えていた。


「ただまあ、美人な嫁は諦めんといかんな」


「ははは」


 かなり不謹慎なカレアムの冗談に、ようやく安心したベンジャミンが笑い声をあげる。


 美人な嫁とはコーデリアとレティのことだが、公爵家を差し置いて伯爵家に王女が降家することはまずあり得ない。それは伯爵家の中でもかなりの力を誇るヴァルトス家も同じであり、自国の王女は断崖絶壁に咲いている花だった。


「ああそうだ。嫁のことも不利になることはない筈だからそちらも心配するな」


「はい父上」


 話のついでにカレアムは、ベンジャミンの嫁について話す。


 長命で少々気の長いエルフ貴族は、訓練施設を出た後に婿や嫁探しをすることが多い。ただ、基本的に貴族の結婚は家と家の結びつきを重視したものであるため、その後に気に入った愛人を迎える者が殆どだ。


(……少々苦労するかもしれんがそれは言えんな)


 気楽な調子でベンジャミンに話したカレアムだったが、嫁探しは父の義務であるため予想される面倒事を口にしなかった。


 と言うのも公爵家は王女を嫁にするため色々と画策していた。しかし、もしコーデリアとレティの二人が帰ってこない場合、公爵家は新たな嫁の候補を見つける必要がある。


 そうなるとカレアムが目を付けていた有力な貴族の家の娘が横から搔っ攫われる可能性もあり、かなり苦労することが予想されていた。


(さぞ悔しがっているだろうな)


 面倒な想像をしてしまったカレアムは、その原因になりうる者達の不幸を考えて留飲を下げた。


 コーデリアとレティの二人をカレアムは見たことがある。その美しさは様々な女を手に入れてきたカレアムでも見惚れてしまうものであり、現実的に彼女達へ手が届く公爵家の子弟にすれば、なにがなんでも手に入れたいものだった。


 そのため二人の王女を巡って様々な暗闘や裏工作が繰り広げられ、カレアムが正気じゃないと評する程の馬鹿げた金が飛び交い、そして二人が死ぬと無駄になる。


 ただ、現実の姫君達は無事どころか、平民に毛が生えたような男に夢中だ。それをカレアムが知れば、顎が外れる程驚いただろう。


「しかし……訓練施設には行く必要がある。聖なる行軍に参加した以上は宗教的な強制があるし、今の情勢での不参加は吊し上げの理由となってしまう」


「うっ……」


 思考を戻したカレアムは、ベンジャミンに非情なことを伝える。


 今現在、責任問題の生贄を探しているような情勢で、定められた行事に参加しないのは格好の的になってしまう。


 そのため安全な場所に居たいベンジャミンが訓練施設に行かなければ、悪目立ちしてどんなことを言われるか分からなかった。


「なに、上級悪魔なんてものがそうそう出てくるものか。訓練施設でオークやリザードマンと戦っているうちに、国も少しは落ち着いているだろう」


 カレアムは常識的なことを言って息子を落ち着かせようとした。


 カエルの悪魔が出てくるまで上級悪魔はほぼ神話の存在で、遭遇を想定している者達はいなかった。つまりカレアムにすれば二度目が起こる可能性などなく、騎国が落ち着くのを待てばいいだけだった。


「なにか他にはあるか?」


「いえ、ありません」


 念のためカレアムがベンジャミンに尋ねたが、その答えと真逆のことが起こっていた。


 しかしベンジャミンにすれば、道端にあったゴミを蹴飛ばして掃除をした話であり、態々父に話すようなことでもない。


 問題だったのはそのゴミが王となって、姫君達から思いを寄せられていることだ。

もし面白いと思ってくださったら、ブックマーク、下の☆で評価していただけると本当に嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
無能王爆誕!! あ、もう居たんでした
まあどこの世界の王族でも元を辿れば馬の骨という言葉が御座いまして……最初から貴種だったとか神さまメイド&王権神授でないとありえない訳で つまりフレッド君の血筋はコレからがトレンド!それ以前?ハハハ知…
フレッドは刹那で忘れちゃってるだろうから良い 問題はあの場に姫様たちも居たことなんだよなぁ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ