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訓練

(前後はマズいな!)


 鋼鉄による破壊と生物による破壊が未だに激突している。


 人型のくせに人族の倍はあるような背丈と筋骨隆々とした体、そして爬虫類の鱗と蛇のような頭部を持つリザードマンと呼ばれる怪物が二匹とオーク型の対決だ。


 リザードマンの一匹はフレッドの正面に立ちながら、もう一匹は彼の後ろを取るように回り込もうとしていた。


 目のいいフレッドへの対処は単純明快。視界の外からの攻撃である。


(後ろもなんとなく分かると言えば分かるんだが絶対じゃない! 挟まれる前に倒す!)


 フレッドは視界の悪い大自然の中で、野生生物の不意打ちを受けまいと警戒し続けた経験から、例え後ろを取られてもなんとなく程度なら把握することができる。しかし、それでも前後に敵がいるのは圧倒的な不利であるため、詰む前に片方を全力で始末することにした。


(右腕の振り下ろし⁉ なんだっ⁉)


 後ろに回り込もうとしたリザードマンに襲い掛かったフレッドは、敵が鋼鉄すら裂く鋭利な爪を振り下ろそうとしたことまでははっきりと認識していた。


 しかし、リザードマンの背から飛び上がるように現れたナニカに、ほんの一瞬だけ意識を割いてしまう。


(尻尾⁉)


 フレッドが注意を向けてしまったのはリザードマンの尻尾だ。巨体だけあってその長さと太さはかなりのもので、人族ならその尾が巻き付けただけで全身の骨が砕かれてしまうだろう。


 しかしフレッドが驚いたのはその尻尾が攻撃に使われたことではない。


(そのデカさで自分から切れるのかよ!)


 リザードマンから尻尾が切り離されただけではなく、それが大きく飛び跳ねフレッドの気を逸らしてしまったのだ。


 単なる蜥蜴が尻尾を自ら切断すると言う話はフレッドも聞いたことはあったが、まさか人間の倍のサイズで尾も太いリザードマンがそんなことをできるとは思っておらず、目の良さも合わさり引っかかってしまった。


「んんんんん!」


 間一髪。意識を集中させたフレッドは体を横にずらしてリザードマンの腕を躱し、反撃と言わんばかりに斧を叩きつけようとした。


 しかし横やりが入る。


(面倒な!)


 残ったもう一匹のリザードマンが両手を広げてフレッドに襲いかかって来たので反撃ができなかった。


「ふーーーー!」


 飛ぶように退いた後、オークを模した兜の中でフレッドは呼吸を整えた。


 姿なき声が課したこの特訓の目的は明らかである。


 目のいいフレッドの気を逸らす、あるいは惑わす状況を作り出して、状況判断と対応力を高めようとしているのだ。


(バランスは悪くなっただろ!)


 ただ、フレッドの目は惑わされるだけではない。


 重く太い尻尾がなくなったリザードマンが立っているだけでも僅かによろめいたことを見抜き、慣れさせてなるものかと攻撃を選んだ。


(庇ってくれると嬉しいんだが)


 フレッドはリザードマンが動きの悪い仲間を庇ってくれないかと思ったが願望ではない。


 前後で挟むという行動は、多少なりとも連携をするという発想で生まれるものだ。ならば弱った仲間を気にして庇うことは不思議ではない。


(庇ったか!)


 実際、尾のあるリザードマンは仲間を守るように前に出たが、それは限定的な一対一を意味する。


「おおおおおおお!」


 ここで何とかしなければ後はないと判断したフレッドは、何があっても必ず殺すという決意を固めて叫ぶ。


 途中で右手の斧をぶん投げた。


『グギ⁉』


 頂点捕食者の誤算だ。不意打ち気味な攻撃でも、自慢の鱗なら投げられた斧を防げると判断したリザードマンは、防ぐどころか半ばまで断ち切られている腕を見て反省しただろうか。


 勿論そんな暇などない。


「んがっ!」


 残った斧を両手でしっかりと握ったフレッドは飛び上がり、リザードマンの頭めがけて渾身の力で振り下ろした。


 抵抗はなく、鋭利すぎる斧はリザードマンの頭にめり込むと、仮初の命を一瞬で消失させる。


 続けてフレッドは間近に迫った尾のないリザードマンに向き直るが、非常に距離が近く斧を構え直していては間に合わないと判断した。


 ならばどうするか。


 フレッドはリザードマンのバランスが悪くなっていることに付け込み、身を投げるように体当たりをした。


『ギャアア!』


 上手くいった。


 尾の無いリザードマンは鋼鉄の塊を受け止めきれず倒れ、フレッドは馬乗りのような体勢となった。


 しかしながら斧を手放してしまったフレッドは素手であり、これではリザードマンを殺すことができない。


「うおおおおおお!」


 再びのフレッドの雄叫び。


 それと同時に拳がリザードマンの顔めがけて振り下ろされる。幾度も。幾度も。幾度もだ。


 素手で餓狼を撲殺した男の拳が、極鎧によって何倍も高められているのだから、欠片の慈悲もない鉄槌と化している。


 そして十回ほど殴られたリザードマンから完全に力が抜け、フレッドの下で消失してしまった。


『リザードマンエリート個体を討伐。難易度を上昇』


 このフレッドの戦果を姿なき声は淡々と認めながら、次の訓練相手を見繕う。


(フレッド様……)


 一方、こっそり覗き見していた四人の姫君達は、野生が溢れるような男の雄姿にときめいていた。

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良い筋肉だ? しっぽビターンビターン、焼いて食おう
ときめくんだ……
非常識な脳筋「音や空気の揺らぎを察知すれば目が見えなくても戦える」 常識的な脳筋「頭こわれる」
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