表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/23

穏やかな時間

(姫様達と食事か……不思議なものだな。こんな食べ物があるのも不思議だが)


 フレッドは金属の箱から食料を取り出しながら、自分の人生と使徒が提供してくれた食料に首を傾げた。


 手順に従えばお湯になる水と、温めると食べることができるシチューのような物。外見は固いパンのように見えて、全く経験がない味の物。奇妙な色の飲み物。乾燥した肉や果物と思わしき物などが提供されていた。


「フレッド様。これらは神々に仕えた古代の方々の食事なのでしょうかね」


 金属ではない軽い素材で作られたスプーンを持ったレティは、ここ数日で心に余裕ができたのか食事のことにも注意を払うことができていた。


「大いなる神が悪魔の討伐を喜んで下さったということは、戦神の面もあるのでしょう。それを考えると……袋に入って持ち運びに便利ですから、古代の戦士が戦地で食べた物かもしれません」


「なるほど!」


 妙に距離が近いレティを気にすることなく、フレッドは姫君達から聞いた大いなる神のことを考えて、自分なりの推測を口にした。


 そしてこの推測、レティは演技でなく本心から同意して思わず軽く手を叩いた。


 大いなる神についてはかなりの部分が失伝しており、何を司っていたかも定かでない神の方が多い。だがレティにすれば、フレッドの言う通り悪魔の討伐を喜んで王の称号を与え、危険地帯の平定を命じるのはいかにも戦神の行いのように思えた。


 それを考えると戦神と関わりがある食料は、古代の戦士が戦場で食べていたものであるというのに十分な説得力があった。


(フレッド様とのお食事……きゃ)


 なおレティの頭の中は乙女だった。色々な意味で。


 かなり厳しく躾けられているレティは、親族以外の男と食事をしたことがなく、将来を誓いあった訳でもない男と食事するのは、はしたないものだと母から教えられている。


 それはレティの人生の基盤となっているものだが、今彼女が求めているのはフレッドと少しでも交流できる機会だ。


(殿方とのお話はこのような感じでいいのでしょうか)


 母の教えと宗教的な貞淑さも、レティの頭の中にはない。


(なんと言うか、もう少し自分のことは自分でやるべきだったか……難しい)


 一方、レティの姉であるコーデリアは奇妙な共同生活で反省をしていた。


 大国の王女ともなれば、自分で何かをすることの方が少ない。片付けや掃除、服、食事の準備は使用人の仕事で、寧ろコーデリアが関わってはいけない類のものだ。


 しかし、この場にいる人間は妹と他国の姫君。更に格上の王となったフレッドだけであり、自分のことは自分でしなければならない。そのためコーデリアは、せめて使用人達がどのように仕事をしていたかはきちんと見ておくべきだったと反省した。


(訓練施設では単に強くなればいいという話ではない。細々としたこともできるようにならなければ!)


 コーデリアの中で、真っ赤な髪に劣らぬ炎が燃えている。


 訓練施設を出た後は危険地帯に行かなければならないのだから、彼女だけではなくフレッドの周囲で発生する雑務を片付ける必要があるだろう。


 それを想定したコーデリアは、フレッドの使用人、秘書、戦士、更には女であること目指している。


「干し肉か。そう言えば昔、作ったことがあるな……」


「干し肉を作られたのですか?」


「はい。一緒に熊と睨み合った猟師と仲良くなりまして、色々教わったのですよ」


「く、熊と睨み合いですか……」


「もう二十年は前の話ですね」


 袋に入っていた干し肉を確かめたフレッドが、昔を懐かしむ表情を浮かべるとコーデリア達は驚いた。


 世間知らずの姫君でも、王城にある毛皮や骨の類を見れば極鎧なしに熊と対峙するのは危険だと分かる。


 だがフレッドは十代中頃で熊と遭遇すると、山の獣が全て慄くような怒声を発して十秒以上は睨み合ったことがあった。


(もうなんと言うか……首ったけね)


 アドラシオンはフレッドの話を聞きながら、自分を含めた女達を評する。


 コーデリア、レティ、ソル。そしてアドラシオン自身もまた、フレッドに対する目の光が明らかに違う。


 もしこの場でフレッドに自分の女になれと迫られたなら、アドラシオン以外はもじもじとして手順がどうのこうのと言いつつ、結局は頷いてしまうような雰囲気がある。


 勿論、一番積極的なアドラシオンに至っては、フレッドをそのまま寝床に連れて行くことだろう。


(はあ……ほんと好き。髪とか合わせるんだけど、そういうタイプじゃなさそう)


 アドラシオンは人生で誰かをここまで求めたことはないと断言できる。


 更に今の自分が一番美しいと豪語できる彼女は、もしフレッドが短い髪の方が好みだと言えば態々合わせる気だ。


 尤もフレッドの方は想像通り、髪型は気分とか本人の好みでいいんじゃないか? と平気で言いかねない男なため、女心が理解できないだろう。


「フ、フレッド様、ご趣味はなんですか?」

(私の馬鹿馬鹿馬鹿! もう少しなんかあるでしょ! 天才ソルちゃんの名が泣くんですけど!)


 ここでソルが若干先走って、心の中で自分を罵倒する。


 自称で使う天才の名は伊達ではなく、熱砂国のソルと言えば儀式で使う様々な薬品の製造、古代の文献の解読に精通している人物として一部では有名だ。


 だが男と女の駆け引きに関してはずぶの素人らしく、距離感を学ぶような機会も今までなかった。


「そうですね……強いて言えば自己鍛錬でしょうか」


 このソルの質問に、フレッドは見たら分かる返答をした。


 彼の肉体の逞しさは、堕落が蔓延している貴族社会では唯一の例外と言っていい程に完成されており、それこそ趣味でもない限りは到達できない。


「なるほど……多分、熱砂国でもフレッド様以上に鍛錬を重ねている者はいないと思います!」

(うううううう……これでいいのかな⁉ どんなお話したらいいか分かんないー!)


 ソルは本心からの言葉を送ったが、心の中で大いに悩む。


 事実として、環境が厳しい砂漠の国であっても貴族達は怠惰な生活を送っており、逞しいと言える者はいない。だが、事実でも特別な男との話題に相応しいのかと悩んでしまうのが今のソルだ。


 このように、愚か者達が自己保身を図っている間、姫君達はなんだかんだとうまくやっていた。


 そして……次の日に大いなる神は再び姿を現すことになる。

ハイファンにパワードスーツをぶち込む妙な設定を書いてますが受け入れて貰えているでしょうか……もし面白い、それでもいいと思ってくださったら、ブックマーク、下の☆で評価していただけると本当に嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
パワードスーツ…敵は悪魔怪人……ハッ!?昭和のノリ?
剣と魔法のファンタジーと銘打っておいてエネミーに謎の形状の金属モンスター(暴走した過去文明のドローン)を出す有名TRPGもあるので大いにアリですよ
ファンタジーの体で書いてるけど作者が「こう設定しないとファンタジーとして書けない」って実は植民惑星の成れの果てで 魔法はテラフォーミングで散布してたナノマシンを操作してたって作品もあるから(あくまで裏…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ