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愚か者達の混乱

 異なる次元で高貴な姫君と男の共同生活が行われていた頃、通常の世界では大混乱が発生していた。


「上級悪魔が姫君達を連れ去っただと⁉」


 清らかな篩の総本山に齎された第一報は誤報だった。


 と言うのも、現場にいた者達は全員が逃げるのに必死で、オークとカエルによる一瞬の決闘を全く目撃しておらず、それどころか殆どの人間がオークに気が付いていなかったほどだ。


 彼らにあったのは生への執着と恐怖からの逃避であり、視野狭窄どころではない状態だった。そのため馬鹿げたことに、気が付けば姫君達とカエルが消え去っていたので悪魔がどこか。恐らくは魔界へ姫君を連れ去ったのだと誤解した。


 半分正解だろう。実際、カエルの置き土産は達成されかけ、ナニカの介入がなければ姫君達は魔界に引きずり込まれていた筈だ。


「護衛はなにをしていた!」


 教皇オベールが丸々とした顔を真っ赤にして叫が、彼だって分かっている筈だ。


 聖なる行軍の道案内をしていた聖職者達は、看板こそ立派で神の教えを守る偉大なる戦士であると宣伝されていた。


 しかし実態は、利権と欲望に忠実な者達であり、研鑽や修練をする暇があったらコネを作ることを優先する集団だ。


 そしてこれが問題視されない程度に清らかな篩は腐敗しており、オベールだって清らかな篩に所属する、極鎧所持者の技量など今まで気にしたことがなかった。


 今更護衛がなにをしていたと怒鳴ったところで、役立たずを役立たずのまま派遣したのは清らかな篩という組織そのものの失態だ。


(マズい……マズいぞ! 最悪の場合は熱砂国から攻められる!)


 真っ赤だったオベールの顔が今度は青褪めた。


 清らかな篩の管轄内で騎国と熱砂国の姫が悪魔に攫われたのだから、最終的な責任はオベールに行きつく。


 そしていくら権勢を誇る清らかな篩の教皇も、二つの大国から抗議を受けたなら立場が危うくなるし、なんなら仲の悪い宗派が主流な熱砂国が攻めてくる可能性すらあった。


 勿論そんなことをすれば、世界各国から熱砂国が非難されるだろうがそれは普段の話だ。もし各国から死者が出ていた場合は黙認することもあり得るし、熱砂国とある意味バランスを保っている騎国の姫も連れ去られている以上期待できない、


 つまり、この騒動で数百年以上にも渡る平和が木っ端微塵に吹き飛ぶ恐れがあった。


(どうすればいい⁉)


 オベールの頭の中は保身で一杯だったが、複数の国家から集まった二百名以上の人間が証言したならどうしようもない。最早口封じなど不可能だし、工作するようなタイミングも逃している。


 ただ続報が入ってくると、オベールの悩みはある程度解決した。


 全員が逃げ出して貴族や国の体面など欠片もなかったのだ。


 ◆


「どうするんだよ! 姫様達を見捨てて逃げたなんて話、国王陛下のところに届いたらとんでもないことになるぞ!」


 騎国に所属する、親が公爵や伯爵家の子弟達が真っ青な顔をして集まっていた。


 随分忙しいことだ。死にたくないから命乞いをして姫君達を見捨てたのに、いざ生き残ったら今度は面子を気にしている。


 尤も彼らの選択は、死ぬのを先延ばしにしただけのようなものであるし、貴族的には既に死んだも同然と言えるだろう。


 その喋っている死体の中にはフレッドと因縁のある伯爵家の子息。遠くにはフレッドを囲んで殴った下級貴族の集団がいた。


 彼らは責任を負わされるのではと怯えていたが、その心配はあまり必要ないだろう。身分に関係なく全員が悪魔に命乞いして逃げ出した以上、上位の者達が先祖から受け継いできた得意技、下々への責任の擦り付けは難しかった。


「とにかく、一刻も早く本国へ帰らないと!」


 姫君がいないのに本国へ帰ると言い出した者もいる。


 上級悪魔に襲われたら今度こそ命はないという恐怖。自分達は何もできないから仕方ないという自己弁護。自宅へ帰りたいという強い思い。それらが合わさった彼らの頭の中では、姫君達は死んだも当然だという認識がある。


 もし生きていると知れば、なんとしてでもお助けせねばと叫ぶだろうが、所詮は口だけの話だ。


「あんな強力な悪魔がいただなんて……」


「どうなってしまうんだ……」


「本国が対処できるといいんだが……」


 聖なる行軍に参加した者達が本国へ送った報告には、カエルの悪魔がいかに恐ろしく、そして強力だったかを記している。


 この報告、全員が色々と盛っており、古代の神々の軍勢と渡り合えるような化け物だとか、神ですら封印するのがやっとだった悪魔に違いないと断じていた。貴族の子弟達はこうすることによって、逃げ出したことを正当化しようとしているのだが、真実が多分に含まれている妙なものに仕上がっていた。


 そして保身や恐怖で頭がいっぱいな彼らに、木っ端貴族どころか最早貴族の一員ですらない男の顔など思い浮かばない。


 どうでもいいような失態を擦り付ける場合なら思い出しただろうが、ここまで大きな事件になると利用価値など無いに等しいから当然だろう。


 ましてや、そんな木っ端の男が姫君達と共に生活して、その上更に尋常ではない感情を向けられていることを想像するのは不可能だった。

ストック無くなりました!

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― 新着の感想 ―
おーほほほほほって聞こえてきそうなレベルの人たち、いったいどうなるのだろうか?
これがこの世界の平常なのに益荒男が存在することの方が悪魔たちにとってイレギュラーすぎる…
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