幼馴染みが「アンタとアタシが付き合っているって噂が流れていて迷惑」と言い出した。俺も迷惑だから噂を否定して回ることにした。
松田ケイタは、高校2年生の普通の少年だ。
生徒会役員として学校のために奔走する日々を送っていた。
幼馴染みである氷室ミカとは、小学校の頃からずっと同じ学校だった。
ミカはいわゆる一軍で、放課後は友だちとカラオケやゲームセンター通いをする陽キャ。ケイタは二軍にすらならないその他大勢。
とくに目立たない存在だった。
ある日、ミカが「アンタとアタシが恋人だって噂になってて迷惑!」と言ってきた。
ケイタは困惑した。
恋人がいるからだ。
その人は高校3年生の優木ユナ、生徒会長をつとめている。
ケイタは1年生のときみんなに押し付けられて生徒会入りして、ユナと出会った。
みんなが嫌がり押し付け合う雑用係。体育祭や学園祭など学校行事が近づくとまともに休日はない。
もともとケイタは面倒くさがりで、生徒会の仕事も好きではなかった。ケイタ以外の役員も半分がいやいや役員になった人だ。もう半分は、受験……内申評価を上げるため。
だからユナはいつも一人で作業していた。
そんな生徒会で嫌な顔をせず、心から生徒の為を思い真剣に会議に参加するユナを見て、ケイタは心打たれた。
ユナはみんなが帰ってしまったあとでも一人で生徒会室に残り、プリントの整理をする。
いつの頃からか、ケイタはユナを手伝うようになっていた。
「ありがとう、松田くん。助かるわ」
「いえ。優木先輩、どうしてこんなに頑張るんです? なんていうか、その、みんなあんな感じなのに」
サボり魔しかいなくてまともに話も進まないのに、とケイタは遠回しに言う。
「私は私だから。押し付けられたから、面倒だから、というみんなに同調して手を抜くのは違うと思うの」
「優木先輩……」
「松田くんはなぜ手伝ってくれるの?」
「それは、ええと……なんでだろう? 優木先輩を見ていると、手伝わなきゃって思うんです」
「ふふっ。ありがとう。でも無理はしないでね」
「無理なんてしてないです」
大人しそうなのに芯はしっかりしている。誰もが人に押し付ける仕事を率先してやる。
そんなユナに惹かれるのは当然の流れだった。
ケイタの方から告白して付き合うようになり、ユナが生徒会選挙に立候補した際も、彼女のために全力で尽力した。
付き合っていることは誰にも言わず、ひっそりと気持ちを育んだ。
ケイタはユナに対して不誠実だと感じ、ミカとの噂を完全に否定することを決意した。
「俺、ユナ先輩と付き合ってるんだ。ミカはただ家が近所ってだけだ。噂を消すの手伝ってくれないか。ユナ先輩に勘違いされたくないんだ」
ケイタは友人のレンに本当の事を告げた。
レンはバスケ部の副キャプテンで、学年問わず友だちが多く顔が広い。
レンの協力があれば、一人で話して回るより早く噂を消せると思った。
生徒会役員同士で付き合っていることを公表するのは、風紀がどうこう言われる可能性もあったけれど、一番大事なのは嘘の話を消すことだった。
「え、そうなの? ミカが“最近ケイタがデートに誘ってくるんだよねー”“ケイタは内気で、昔からアタシがいないと駄目なの”って言ってたんだけど」
レンの言葉に、ケイタのほうが驚いた。一度だってデートに誘ったことがないし、事実無根だった。
「はぁ!? ミカが噂を流した張本人ってこと?? なんでそんなこと」
噂されたくないと言った本人が噂を流している、ケイタにはわけがわからなかった。
「あれじゃね、外堀を埋めて付き合うしかない状況に持っていく。マンガでもよくあるだろ。噂された幼馴染みが、噂をきっかけにして“いっそ本当に付き合っちゃう?”ってラブコメ」
「恋人以外と噂になっても迷惑でしかない」
「そりゃそうだな。いいぜ、協力するよケイタ」
レンが部活のときや休み時間にも噂を否定するのを手伝ってくれた。レンの話を聞いた部活の先輩や後輩も噂を聞けば否定してくれる。
ケイタももちろん、聞かれるたびに否定して、ユナと付き合っていることを話す。
噂は徐々に収まっていった。
同時に、ミカの耳にも「ケイタは生徒会長のユナと付き合っている」という話は入った。
生徒会の仕事で服装チェックがあり、ケイタは朝早くから校門に立っていた。
そこにミカがやってきて、ケイタを睨む。
「ねぇケイタ。今度はアンタと生徒会長が付き合っているって馬鹿げた噂が流れているわ。嘘なら早く否定したほうがいいわよ」
「否定しなくていい。それが真実だから」
ケイタはミカを見ずに答える。
「はぁ!? なんであんな勉強しか取り柄のないくそ真面目な女と付き合ってんの!? あ、もしかして内申のため? でもアンタ自身が生徒会長じゃないんだから内申になんの影響も…………」
「内申なんてどうでもいい。俺はユナ先輩の役に立ちたいから生徒会にいるだけだ」
ミカは拳を振り上げて叫んだ。
「なんで!? アタシのほうが先に出会っているし、アタシのほうが先にケイタのこと好きだったのに!」
恋人を馬鹿にされ、こんな形で告白されて、誰が喜ぶだろうか。
ケイタは自分が馬鹿にされたことより、ユナを馬鹿にされたことに腹が立った。
学校を良くしようと頑張るユナの姿を見てきたから、なお苛立つ。
「ユナ先輩は生徒のために毎日頑張っているすごい人だ。バカにするな。一番大事なのはユナ先輩だし、お前と噂になるのは迷惑だ」
完全に振られたミカは、唇を噛んで走り去った。
多くの生徒が登校する校門での一幕だったため、またたく間に広まりユナの耳にも入った。
「私のために行動してくれてありがとう、ケイタくん」
ユナは涙ぐみながらケイタの手を握った。
「俺、ユナ先輩のためなら何でもできます」
その後ミカはケイタを見かけても話しかけてこなくなった。
ケイタとユナはその後もお互いを大切にして、幸せな日々を送ることができた。
二人の絆はますます強くなり、生徒公認のカップルとなった。