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「どうだった?」
「ええ、とても楽しかった」
「アイメリアお嬢様のお眼鏡にかなう商品はございましたか?」
「もう、止めてよ、クライブ。この国ではわたしはただのアイメリアだわ、ううん、どこにいてもわたしはただのアイメリア」
「ごめん、そんな悲しそうな顔をさせるつもりはなかったんだ。ただ、リアにこれを渡したくて」
クライブはいつこれを用意したのだろうか。小さな包みを差し出した。
包みを開けると、中からはリボンが。
「似合うかな、と思って」
「クライブが選んでくれたなら、似合うと、思う」
とても綺麗な深緑色のリボンに洒落た刺繍。クライブに聞かれたからと言って、自分で自分に似合うというのは少し恥ずかしいけれど。
「とっても良く似合うと思う、リアに」
「ありがとう。クライブがわたしに選んでくれたことが嬉しいわ」
「うん」
わたしの嬉しいという気持ちはクライブに伝わったのだろう。それまでの窺うような表情から、クライブはほっとしたような顔になった。
でも、わたしにはプレゼントよりもこういう小さな遣り取りの繰り返しが本当は嬉しい。これをこの先もずっと繰り返すにはどうしたらいいのだろう。
留学期間は自国のアカデミーでの三年修了時まで。終わりは決められている。わたしに限って言えば、王子の婚約者だ、自国から帰国要請があれば戻らなくてはならない。
当初の目論見であるフェードアウトをしてしまえば、この国に迷惑を掛けてしまうし。
前世で夫達が行った失踪。最初はわたしも簡単に考えていたけれど、アイメリアの立場が故にそう簡単ではない。
様々な人が行きかう中、わたしはとうとう今まで敢えて口にしなかったことをクライブに話す決心をした。切欠はほんの些細なこと。このリボンをクライブの横でずっと着けていたい、それだけだった。
クライブとて婚約者がいるわたしへ身に着けるものを贈るという行為へ踏み出してくれたのだ、そこへ至るまでにはきっと紆余曲折があったはず。だからこそ、話すなら今がそのタイミングに思える。
こんなに軽いリボンがとても重いものに感じられてきた。反対に、王子から誕生日や特別な日に贈られた美しい装飾品が如何に軽かったのか。王子がどういう人物か侯爵家の教育で勝手に人物像を作りあげ買い被っていた時は、毎回の気遣いに誠実さを感じ喜んでいたのだが。
今なら分かってしまう。あれらの品々は婚約者への義務として贈られたに過ぎないと。しかも、王子が選んだものですらないだろう。クライブの様に、気に入ったかどうか窺うような目を向けられたことがないどころか、身に着けていても何も言われなかったのだから。
「クライブ、伝えたいことがあるの。この後、どこかで昼食を取ってから寮へ戻らない?」