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あれから一年。


留学先の学院には寮があるとはいえ、他国での生活は大変なことばかり。いくら前世の記憶があっても、わたしはこの世界では特別な箱に入れられ育った箱入り娘。物価も世の中の仕組みも分からない、困ったお嬢様だった。

対してクライブは伯爵家生まれでも、庶民の生活についても知っている物知りだ。頭が良いだけではなく、生活をする為に必要な世の中を知っているクライブは本当に頼りがいのある人物だった。


態とさせられていた雨の日の遠い場所へのお遣いも、今となってはクライブの力になっている。人の出足が悪い日に、どういう場所が危険になりやすいのかクライブは感覚で分かっているのだ。どんなことも自分の糧に出来るなんて本当に心強い。


「今度の週末は港近くの市場へ行こうか?」

「第三区にある市場ね」

「丁度、海の向こうの国の貿易船がくるらしい。きっと市場には珍しいものが並ぶと思うよ。それに、外国の船員もいるだろうから、彼らの言葉がしっかり聞き取れるかテストしよう」


この国への到着前に信頼関係になっていたわたし達。今では、休みの日を共に過ごす関係へと発展した。この関係は友達でも親友でもなく、親愛関係。


ここが微妙で、恋人かと聞かれると答えはNO。ただ、一番近くにいて、信頼し合い、何でも相談出来る相手同士というのが、わたし達を表す言葉なのだろう。


わたしもクライブもこの先にどういう関係があるのかは知っている。でも、いくら自国から遠く離れた場所にいようとわたしに王子という婚約者がいる事実は変わらない。互いに口にしなくとも。

だから敢えてこのことには触れない。このままでは、いつか壁にぶち当たると承知しているのに。


代わりに壁の先にある未来を話す。

「いつか船で海の向こうの国へ行くのもいいわね」

「観光へ、それとも生活する為?」

「まだ、分からない。だって未来の話だもの」


壁には穴を開けるのか、将又よじ登るのか、もしかしたら端まで歩いていったら扉があるのか。

その先にある未来にはどうやって辿り着くのか、わたしは一人考えるのだった。



そして迎えた週末。クライブと市場へやって来た。

この国の人にとっても物珍しいものが所狭しと並んでいる。留学生のわたし達が学院から支給される毎月のお小遣いで買えそうなものも。

因みにこのお小遣い。学院からのものではない。自国のアカデミーから学費と滞在費がこちらの学院へ送金されているのだが、その中に含まれているお金なのだ。クライブにしてみれば、伯爵家から離れられる上に伯爵家のお金を嫌味など言われることなく使えるありがたい制度なのだそう。


実はわたしには、このお小遣い以外に侯爵令嬢として恥ずかしくない毎日を過ごすようにと持たされたお金と換金しやすい小さな宝石や貴金属がある。宝石や貴金属は最後の砦として保管してあるけれど、お金はクライブと相談して運用に回した。

何もしなければ使う度に減る一方のお金よりは、多少なりとも増やしたいと思ったのだ。こうして珍しい物があるだろう市場に来たのもそれが理由。


でも、わたしは珍しい物を見るだけではなく、何がないのかを確認するほうに重きを置いていた。

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