レイチェル・ラーナー子爵令嬢4
いよいよおかしい。王子が二週間後に卒業だというのに、婚約者の侯爵令嬢が戻ってこない。
それにもう一つ気になることが。モブキャラだから気に留めていなかった王子の周りにいつもいた(ような気がする)伯爵令息がいない。ダウリング伯爵の妹さんが嫁いだ伯爵家の息子で、クライブとは従兄弟に当たる人だ。当然、庶子のクライブには冷たく、従兄弟はおろか人とも思っていない目で見下していた。
もしクライブが留学していなければ、わたしの為にそのモブキャラから様々な情報を取って来てくれていたのに。でも、クライブがいないから本当にどうでもいいキャラと見做していたわ。だから、いつくらいから見ていないのか分からない。
クレアより前、それとも後?
だけど、クレアを含めてアカデミー生が来ないことが問題にならないのはどうして?卒業を前に今更短期留学なんてないでしょ。
侯爵令嬢、クライブ、クレア、そしてモブ伯爵令息、どうしてみんな王子の傍から消えていったの。
ここはわたしが知っている世界ではなく、シナリオが改変されて何かのサスペンスになっているとか?それは遠慮したいわ。だって、わたしに謎解きなんて無理だもの。勿論サバゲーもね。
そしてもっと不可解なのは王子。確かに出くわさないように避けていたけれど、本当に全く会わなくなるなんて…。最初の内は話し掛けられなくてラッキーなんて思っていたけれど、それもいつからだったのか。
本来いるべき人達がいない。わたしは何をどうすればいいのだろう。
「レイチェル、一緒に次の授業へ行きましょう」
「ええ、ナタリー」
「そうだ、レイチェル、次の次年度準備休暇の間にお茶会を開くから来てくれる?」
「いいの、わたしが参加しても」
「勿論よ。あなたマナーをとても頑張っているもの。是非来て欲しいわ」
「そう言って招待してもらえると嬉しいわ」
ナタリーという伯爵令嬢はわたしの記憶にはなかった。この世界で初めて会って、知って、そして友達になった人。
考えてみると、アカデミーでわたしの周りにいる友人達はナタリーのようにこの世界で知り合った人達ばかり。どういうキャラクターか何も知らない、だから自分で知りにいく人ばかり。
それに来年からは、ゲームの世界でもなくなる。先々に起こることも分からなければ、誰かの気持ちがどう動くかも分からない世界。
でも、それが本来の姿。分からない中で皆色々なことを考えて、藻掻いて、何かを掴んでいく。
わたし一人が、必ずジョーカーがどこにあるか分かるババ抜きをしても面白くない。ジョーカーを持つ人はそのカードを引かせる為に、表情を作ったり、態とカードの並び順を変えたり。持っていない人も、その世界を面白くして楽しむ為にジョーカーを持っている振りをする。
確かに、ジョーカーの位置が分かればずっと勝ち続けられる。でも、それは参加者ではなく傍観者になること。
それって楽しいの?
ジョーカーの在り処が分かってしまっていたら、参加者の努力している姿が陳腐に見えてしまうだけ。その世界にいるのに、傍観者になる。
以前はゲームのプレイヤーを降りれば、傍観者になると思っていたけど、それは違った。
重要なのは、自分の世界のプレイヤーになること。
うん、決めた、もう揺るがない。わたしが知っていると思っていた世界からは降りて、自分の世界を楽しむ。何も分からない世界を楽しめばいい。
そっか、クライブも侯爵令嬢もここにいないのは、自分の世界を見つけたのかも。
でも、クレアは二人とは違う理由でいないように思えるのはどうしてだろう。




