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わたしの前に敷かれていたレール。進む方向も手にする荷物も決まっていた。
そう、荷物。とりわけ重要だった荷物が、王子妃となり王城へ移り住む時に連れて行く侍女二人。ルーセント侯爵家一門の者で、極力わたしの髪と瞳の色に近い娘でなければならなかった。わたしが妊娠しなかった時の保険なのだから。
でも、二人の役割はそれだけでない。王子が気に入れば、侯爵家からの手土産に。わたしが妊娠すれば、その間の王子を慰める大切な役割も担わなければならない。他の侍女に手をつけられては、侯爵家としてたまったものではないのだから。
わたしに仕えることが決まっていた二人は、一つ下のミルカと一つ上のダリア。二人もまたいつか王城で暮らすことが決まっていたので、侯爵家で教育を受けながら侍女見習いとして過ごしていた。
二人の教育の中には、王子の目が他の侍女へ向かないよう、寵愛を得る為の教えがあってもおかしくないと今なら分かる。否、あの侯爵家だ、間違いなくあったはず。しかも洗脳に近い偏った教育だとも分かる。
けれど同じ教育を受けても二人は別の人間。考えること、感じることも別なのだ。その表れがわたしに対する態度。ダリアからはわたしを名ばかり妃にしようという闇が時折見てとれた。場合によっては始末されることまでは教えられていないダリアにとって、王子からの寵愛を一番に受ければ王城でトップの女性になると思いあがるのは当然のことなのだろう。
そしてそれは、二人との手紙の遣り取りからも見て取れる。留学中の報告を兼ねて、わたしはそれぞれへ定期的に手紙を送っている。わたしが書く内容はいつも同じ。しっかり勉強しています、寮と学院の往復です、というものだ。対して、二人からはアカデミーの様子が綴られている。貴族の娘ということで、二人もまたアカデミーへ侯爵家から通わせてもらっているのだ。
ミルカは一年生の間でどういうことが流行っているとか、他の貴族家の情報がメイン。しかし、ダリアは王子がクレアと仲が良いとか、レイチェルへ話し掛けているところを良く見かけるといった内容。最近では二人の髪型や仕草を教えてくれることもある。それは、教えられるくらい良く見ているということ。目的なんて簡単。本当はわたしに情報を流すのではなく、自分に上手く取り入れて目を向けてもらう為だろう。
ダリアだって分かっているはずだ、わたしにはクレアのような淑女にあるまじき仕草は許されていないと。
でもね、ダリア、あなたの目的は、わたしにもとても都合がいいの。好きでもなんでもない王子の情報を離れた所で入手出来るのだから。
そして王子が卒業するまで三月を切った頃にダリアが送ってきた手紙には、アカデミーでクレアを見掛けなくなったと書いてあった。
侯爵家からの手紙には、王子の卒業に合わせて帰国する必要はないとも。
もしかすると、わたしに優位な風が吹いたのかもしれない。




