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わたくし、アイメリアはルーセント侯爵家の長女として生まれ、何不自由なく育てられていた。でも、それは貴族令嬢として何不自由なくということ。実際には自由等何もない籠の鳥で、美しい羽根に傷などつかぬよう、美しい声で鳴き続けるよう飼われていたにすぎない。
何故なら美しい鳥には価値があるから。
父であるルーセント侯爵は王家との繋がりを持つため、第一王子の未来の妃として丁度いい年頃のわたくしを使おうと考えただけだった。王家に年齢的に釣り合う王子がいなければ、ここまで大切にされることはなかっただろう。
父の目論見は見事に当たり、わたくしは七歳で第一王子の正式な婚約者となった。幸か不幸か、この年頃の貴族令嬢ではわたくしの家が一番爵位が高かったということもあったのだろうが。
ただ王家からは内々に言われていたことがある。場合によっては側妃だと。王家の婚姻は国の為。仮に他国との結び付きなどの政治的理由によっては、わたくしは側妃となって他国の王女を正妃として迎え入れなくてはならないと。
父の目的は王家との繋がり。わたくしが正妃であろうと側妃だろうと、王家と結びつき子を生せばいいだけ。その為の道具であるわたくしには、王家へ嫁ぐということがどういうことかを十歳にも満たない内から教え込み何の疑問も持たせなければいい。教え込まれた内容がどんなに矛盾だらけでも、全てが当然だと思うようになる。
そしてそれは功を成していた。どうして過去形かというと、肝心な道具であるわたくしが気付いてしまったのだ。なんて馬鹿げたことだろうと。
切欠は王立アカデミーでの出来事。
王立アカデミーは四年制で、二つ上の婚約者であるランドルフ殿下は既に三年生。殿下がアカデミーへ通い出した頃から、それまで開かれていたお茶会も無くなり、登城してもわたくしは王子妃教育を受けるのみとなっていた。いや、お茶会が無くなった分、勉強の時間は長くなりこんなことならば、わたくしも早くアカデミーへ通いたいと心の中で不満に思っていた。でも、王家へ嫁ぐ身、国の為、民の為に努力することは光栄なこと。だから勉強時間が長くなることを喜ぶべきなのに、不満を持つだなんて…、と自分を正しながら過ごしてきたのだった。
二年間はそれまでよりも様々なことを王城でも侯爵家でも勉強し、アカデミーでお会いする殿下に少しでも認めてもらえたらと思っていたのだ。
そして迎えたアカデミー入学式。父からは式の前に殿下へ挨拶をするように言われていたが、送った手紙に返事は無かった。アカデミーでお忙しく学ばれている殿下のことだ、ついうっかり返事を誰かに託すのを忘れてしまったのだろう。この二年間、登城しても数度お姿をお見掛けするだけだったのだ、お忙しいのは良く分かっていたのでわたくしは然程気にしなかった。
それでも、式後になったとしても入学のご報告だけはしなくてはいけない。そこで、式が終わり一斉に生徒達が移動するときに殿下の姿を見つけ、はしたなくとも速足で近づいた。
「ランドルフ殿下、お久し振りです」
「ああ、アイメリアか。そうか、今年からだったな、アカデミーは。で、要件は?」
「ご挨拶をと思いまして」
「いいよ。してもしなくても未来は変わらないんだから。だから、俺の卒業まではあまり関わらないで欲しい。折角人生の中で唯一自由でいられる時間なんだ、その貴重な時間を楽しませてくれ」
殿下はそう言うと、隣にいた女性を伴って去って行った。
ありがとうございました。




