凸凹パーティー、綺麗な花には牙がある?
「このあたりに魔物がいるのかもしれない……」
「きゃっ……どこどこ?」
周囲を見回してみる。
だが、見当たらない。
しかし、たしかに瘴気を感じる。
エリーゼが羽音をたてて飛び回り、
「いんや……魔物じゃないぞ……瘴気は地面から発しているようだ」
「えっ!?」
ぼくとミュリエルは足元を見た。
たしかに嫌な気分のする邪気がたちのぼって、肌に感じられる。
「トリフィドが居座る『人食いの森』から漏れ出た邪気で土壌が汚染されはじめたんだ……」
「えっ!!」
「それだけじゃない……邪気で汚染された土壌で育った木々からも、瘴気を発しているようだな……」
周囲の木々や茂みの植物もやけに色が悪いと思ったが、注意すると、かすかに瘴気を発していた。
「ほんとなの……近くの木の幹や葉っぱからも瘴気が出ているようね……」
炎の舌のエリーゼは目をほそめ、薄暗い森の向こう側を見た。
数十メートル先の森林の枝葉の向こうに巨石の群れと奇怪な植物群の影が見える。
「あれはストーンサークル……あそこが『人食いの森』か……」
「トリフィドの邪気を、巨石の結界魔法で封じているのね……ピクシー族は人知れずこの森で、トリフィドによる世界の危機を抑え込んでいてくれていたのね……」
「ああ、まあな……」
少し得意げだ。
「あの巨石はピクシーの精霊使いたちが総勢で、土の精霊に頼んで、土を固めてつくった凝灰岩の結界装置だ」
「ピクシーの魔法は精霊魔術なのね……」
「妖精ってのは、精霊の声が聞こえやすいからな……」
人間族は体内に宿るマナや自然界にあるマナを利用して使う魔法のほうが得意な者が多い。
ぼくやミュリエルもそうだ。
ストーンサークルの中は何も見えないはずなのに、怪樹妖花が見えて天まで伸びそうに育っている。
隠蔽魔法まで呪力が使えないほどなのだろう。
「瘴気で汚染された怪植物が結界からはみださんばかりだ……」
「きゃつの邪気が強くなっているんだ……トリフィドの野郎……スットコドッコイのコンチキショー!」
小妖精が歯がみして悔しがる。
この森で生まれ育ったエリーゼには、トリフィドの土地侵略が許しがたいのだろう……
ぼくたちは先を急いだ。
途中で、鼻先にほのかに甘い香りがした。
「あら、いい匂いがするの……」
「ほんとだ……甘い蜜のような……」
「お花だわ……綺麗……」
あれ……頭に霞がかったような……
ミュリエルがとろんとした目で薄闇に怪しく咲く花に寄っていった。
大人の頭ぐらいもある花弁だ。
「その花は危険だ、ミュー坊!!!」
その時、ミュリエルの足元に長い蔦が絡みついた。
「きゃああああっ!!」
ミュリエルが逆さ吊りになって宙に浮かぶ。必死で道服のスカートを押さえてめくれるのを防いでいる。
いや、そんな場合じゃないよ、ミュリエル!
ウィリアムが必死に蔦をかじって切ろうとしているが間に合わない。
ぼくは頭を振って目をさまし、駆けだした。
怪しい花弁から放つ芳香は人間や動物、昆虫などを誘い込む罠だったんだ。
その手前にある木の葉が乱れ飛び、中からギザギザの歯のような突起がある食人植物ビーナス・フライトラップが現れた。
ミュリエルをその中に呑みこもうとしている。
「ハエジゴクの魔物か……たあああああっ!!」
ぼくは長剣を引き抜いて跳躍し、蔦を切った。
地面に落下するミュリエルを両手で抱きとめる。
そのお腹あたりに魔貂もポスンと着地。
「フィヤ!!」
ビーナス・フライトラップの口はむなしく空気を噛んだ。
「きゃ~~ん……怖かったよぉぉ……」
魔法使い見習いがぼくに抱きついてぶるぶる震える。
「大丈夫だよ、ミュリエル……そして、勇敢だったよ、ウィリアム!」
「フィヤ!!!」
「だけどまだ目的地の前なのに……」
「くそぉぉ……いつの間にか、『人食い森』の外にまで化け物植物がはびこりだしやがった……」
エリーゼが悔しげにいう。
「結界の外まで汚染どころか、植物が怪物化しはじめたのか……急がなきゃ」
吸血蔦や殺人蜂の攻撃などを回避し、なんとか『人食いの森』の巨石のそばにたどり着いた。
「ここからが本番だ……みんな、気を引き締めていくよ!」
「わかったわ!」
「おうともよ!!」
「フィヤ!」
と、気を引き締めたとき、首筋にちりちりと冷たい気配を感じた……殺気だ!
「危ない!!! みんな、茂みに隠れるんだっ!!」
「えっ!? ……なになに?」
ぼくは振り向かずにミュリエルを抱いて横に飛んだ。
エリーゼとウィリアムは素早く茂みに飛びこんでいる。
ぼくらのいた空間を灼熱の火の玉が通過し、樹木の幹に当たった。
高熱で樹木の半分が溶け、めきめきと音をたてて樹木が倒れる。
「魔法攻撃だ……いったい何者だ!?」
ぼくが茂みの中から炎弾が飛来した方向を見つめた。
ぼくたちが歩いてきた森の間隙の道に、子供くらいの小さな影が複数見えた。
醜く邪悪で緑色の肌の邪悪な小人……十数匹はいる。
「小鬼か!?」
「でも、ゴブリンは魔術を使えないはずよ……」
ゴブリンの群れの真ん中に、ローブを着て少し大きな個体が見えた。
灰色の髪とアゴヒゲを伸ばして、奇妙な形の杖を持っていた。
「ゴブルルル……ゴブリン族の仲間……殺した……人間族……制裁! 制裁!!」
「ゴブリンが人語をしゃべった!?」
「あちゃあ……あれはゴブリンの上位種、ホブゴブリンだぞ!!」
小妖精が手をひさしにして確認した。
「なるほど……だから魔法が使えたのね……」
「しかもあいつはホブゴブリンの魔道士ギリリスだ……姿が見えないから死んだと思っていたが……生きてやがった!」
邪妖精軍団が棍棒、鉈、手斧、短槍、短剣、長剣などを持ってこちらに攻めてきた。
茂みに隠れるぼくらを見つけるのも時間の問題だ。
「ホブゴブリンの御礼参りか……こいつは厄介だな……」
ぼくは鞘から長剣を出して身構える。
多勢に無勢だが、ミュリエルたちだけは助けたい。
ぼくは茂みから前に歩み出た。
三匹のゴブリンがぼくに殺意を向けて、棍棒・鉈・短槍をかざして襲いかかる。
「あぶないわよ、ハルト君!」
ぼくは両手でにぎった長剣を頭の右側に寄せ、左足を前に二歩分出し、八相に構えた。
体内に宿るマナを両手に流し、長剣に集めたのち、正面に振り下ろした。
「大気に放たれし姿なき斬撃よ……音より速く魔を切り裂かん……天ノ武技・斬空旋撃破!!」
長剣から斬撃破がはなたれ、先頭にいた棍棒をもった小鬼の頭頂から股間にかけて正中線に斬撃破が命中。
ゴブリンは真っ二つに割れ、黒煙をあげて魔石になった。
残りのゴブリンはちょっと驚いたようだが、構わず鉈と短槍をふりかぶって襲いかかる。
「なんでい……あの技は!? 間合の外からぶった切ったぞ!!」
「……長剣にマナを込めて、衝撃波をはなったのよ……ハルトくんは魔法剣士だったのね!!」
ここまで読んでくれてありがとうございます!
技とか魔法を考えるのが楽しいです。
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