ハルト、救出作戦
「そこかっ!!」
ぼくは黒く焦げた扉を蹴り破った。
轟音を立てて倒れた扉の向うに仰向けに倒れた少女を見つけた。
水の武技の水流をつかって、周囲の火災を消化して駆け寄った。
「ニーナちゃんだね。助けにきたよ」
「お兄ちゃん……だれ」
「ぼくはハルト。きみをお母さんの所へ運んであげるからね」
「うん……」
少女の命は大丈夫だが、熱傷を受けたかもしれないし、煙を吸ってしまい一酸化炭素中毒の心配もある。早く治療師に見せないと。
ぼくはニーナをおぶって階段を降りて行った。二階の踊り場でふたたび火が勢いを増した。
「水ノ武技・流水乱襲鞭!!」
音をたてて猛火が消えていく。
だが、前より流水鞭の勢いが弱い。火災で大気中の水分が少なくなったのだ。
「あっ!?」
真っ黒になった階段が揺れた。ぼくは慌てて背後に下がった。
駆け降りようとした階段が、真っ二つに折れて下へ落ちていった。
階段がやけてもろくなったのだ。
二階からなら飛び降りられるが、さすがに三階の高さは厳しい。
そう思っている間に火勢が増してきた。
この建物はもうダメかもしれない……
「早く下に降りないと危ない!! ニーナちゃん、この建物に他に階段はないのかい?」
「西側のはじっこに非常階段があるの」
「そうか……」
ぼくは再び流水乱襲鞭を出して西側の廊下を進んだ。
さらに勢いが弱まっていた。
ぼくは慌てて扉を蹴破った。
こちらも火が回っているが、さっきより火勢は低い。
ぼくは急いで階段を降りていった。
その時、轟音を立てて、階段が折れ曲がる。
「わああああっ!!」
間一髪、ぼくは咄嗟に残った梁につかまって、宙ぶらりんになる。
下を見ると、階段がすべて崩れ落ちて吹き抜けとなり、下は燃えたぎる火炎が見えた。
このままで燃え盛る火炎地獄にまっさかさまだ。
「ハルトお兄ちゃん、こわいよぉ……」
背中におぶったニーナが泣きだした。
「くっ……このままでは……」
あの巡礼者の言う通り、ぼくはただの思い上りの英雄症候群だったのだろうか……
(神様、どうか、せめてこの子だけでも助けてください)
そのとき、急に肌がひんやりした。
「えっ!?」
「お兄ちゃん、見て!!」
ニーナが指差す方が白く見えた。いや、これは氷だ。
燃えていた建物が、いつの間にか氷で覆われているのだ。
凍てつく冬のようにキーンとした空気が張りつめていた。
「これは一体……」
氷壁のあちこちに氷棚があり、ぼくは氷棚を飛び移りながら一階に向かうと、ホールも一面が氷の世界になっていた。
外に出ると、消防隊士や市民が唖然と建物を見ていた。
「ハルトくん!!!」
ミュリエルの歓喜の声が聞えた。
「ママぁぁ!!」
「ニーナぁぁ!!」
ぼくが少女を下ろし、母親は娘を抱きしめ、涙を流した。
「ニーナ、よく無事で……」
「ママ、このお兄ちゃんが助けてくれたの!」
「ありがとうございます。この御恩は決して……」
「いいんですよ……ママと会えて、良かったね。ニーナちゃん」
「うん」
良かった……母子の再会の姿を見ると、ぼくも少し泣けてくる。
「そういえば、建物が氷漬けになっていたけど、これはもしかして、ミュリエルが……」
「ちがうの……私の氷魔法じゃ、せいぜい小さな氷の弾くらいしか出せないの……」
氷魔法は攻撃性が強い魔法で、攻撃魔法全般が苦手なミュリエルは得意ではなかった。
「それじゃ、ベルヌの魔法使いがやってくれたのかな? お礼をいわなきゃ」
「それが……それらしい魔法使いは見当たらないの」
「わっちもミュリエルの消化活動の応援に夢中で、気付かなかったなあ……気が付いたら、建物の火や煙が止まってな、建物の中からみるみると氷が壁を覆っていったんだぜ」
「えっ!? じゃあ、一体誰が……市民の中に魔法使いがいたのかな?」
「氷魔法が得意な魔法使いでも、モンスター一体を凍らせるがせいぜいなの。建物全部を凍らせるなんて、王都の魔法学校の先生でも不可能なくらい凄い規模の魔法なの」
「そうかぁ……一体誰が……」
「神さまの奇蹟かもしれないの……」
「アーズガルズの……」
ぼくらはアーズガルズのある神々の山脈の方角を見た。
「神様、ありがとうございます」
ぼくらは不思議だったけど、とにかく少女が助かってなによりだ。
ぼくらは市民の歓声を受けながら、ここを去り、南区へ向かうことにした。
市民の中に忠告してくれた巡礼者の姿を捜したけど、いなかった。あの人の言うとおりだった。氷の奇跡がなければ、ぼくも少女もどうなっていたか知れない。
だから、そのことを謝りたいと思ったが、結局見つけることはできなかった。
「でも、ずいぶんと火災が広がるのが早かったね……ソール教会みたいに石造りの建物なら燃えにくかったのに」
「第一地区や第二地区などの富裕層の家や教会はレンガ造りで燃えにくいけど、第三地区の下町は燃えやすい木造住宅が多いの。それに限られた場所で建て増しを繰り返した結果、裏通りなどが狭くなっている場所があって火災が広がると大変なの」
「そうかぁ……まあ、ぼくの故郷でも木造建築が多いけど、一軒一軒が離れているからなあ……密集した町の火事は怖いね」
下町では煮炊きや暖房の燃料は石炭や薪が主で、火災の起こりやすいという。
下町街区の南区にある『マルデルの涙亭』へ急いだ。
中世の火事を調べてメモしたのですが、三割くらいしか使えませんでした(^_^;)
小説を書くのってそういうもの。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
おもしろいなぁ……と思ったら、
下にある☆☆☆☆☆を押して応援をよろしくお願いいたします。
おもしろかったら星5つ、そうでもなかったら星1つ押してみてね。
これを読んで思った感想など、気軽に書いてくれると嬉しいです。
ブックマークをしていただけると、次回の更新がすぐ分かりますよ。
なにとぞ応援よろしくお願いいたします。




