いざ行かん、危険なクエスト
ぼくらはピクシーの長老たちに案内され、中央部にある集合住宅とストーンサークルの門の中間あたりの草原に移動した。
その地には例の鹿がぐるぐる回って作らされた輪っかが見えた。
「では……最後にピクシーのお呪いをしてせんじよう……あちらの妖精の輪に入るんじゃい」
「お呪いですか?」
「ああ……クエストが無事に達成するようにという、小妖精族に伝わる儀式じゃぞい」
「おう、ありがたく長老様のマジナイを受けとけ、受けとけ……」
伝法肌の小妖精のすすめもあり、ぼくとミュリエル、ウィリアム、そしてエリーゼが輪に入った。
すると、近くの草を小妖精族の女たちが集めて草冠をつくり、ぼくらの頭につけた。
「その草冠は、クエストが終わるまでつけておくんじゃよ……」
「はい……わかりました」
「聖なる森林を救わんとする者たちに祝福あれ……一は全にして、全は一なり……森の神よ、勇敢なる者たちに御慈悲あれ……」
長老のハーラン・バンジョルさんがトネリコの杖をぐるりと回すと、光り輝く粒子がふりそそぎ、頭にのった草冠と足元の輪が同じ色に輝き、ぼくらの全身もあわい燐光に包まれた。
なんだか、ふわふわと気分が良くなる。
「これがピクシー族のお呪い……なんだか御利益がありそうだ……」
「なんだか不思議……感動しちゃったの……」
「フィヤフィヤ!!」
ぼくらはストーンサークルの出入り口で、ピクシーの衛兵から長剣とダガーを、ミュリエルも魔法の杖を返却してもらった。
「ミュリエル……やっぱり、きみはこのピクシーの里で待っていて欲しい」
「そんなのダメよ……ハルトくんだけ人食いの森へ行かせられないわ……もともと私の薬草探しを手伝ってくれる目的だったのに……」
「でも、人食いの森は危険だから、なにがあるか分からないよ……」
「大丈夫……私は魔法使いとしては見習いだけど、治療術なら上出来だってお師匠さまに言われているの……それに防御魔法もそこそこ使えるのよ……後衛に徹し、ハルトさんのバックアップに専念するわ」
「ミュリエル……」
真剣な眼差しでぼくを見るミュリエル。
見つめ合うふたりの間に、四枚翅をひらめかせてピクシーがさっと飛んできた。
「おお……よわよわのミュー坊にしては勇ましいこというじゃねえか……見直したぜ」
宙を回転して、ミュリエルの帽子の庇に着地する。
「なによぉ……からかわないで、エリーゼ!」
「そういうなって……わっちも同行してやるんだからよ」
「えっ!?」
「お前達の勇気が気に入った……わっちが長老に紹介したのもあるし……乗りかかった船だ。助太刀してやるよ」
「え……うれしいけど、危ないよ」
「わっちをなめんなよ……里でも十本の指にはいるピクシー魔法の使い手……炎の舌のエリーゼさまだ! わっちがいれば、オーガーに棍棒、ミノタウロスに戦斧だ」
「そんなに凄いの?」
「あたぼーよ」
「フィヤ!」
ミュリエルの服の中に隠れていたウィリアムが外に出てきて、彼女の肩に飛び乗った。
「ウィリーも手伝うって言っているわ」
かくしてピクシーっ子気質のエリーゼも同行することになった。
かくして『人食いの森』へのクエストに進むことになった。
森の奥を、四枚翅をはためかせて飛ぶエリーゼのあとを、ぼくとミュリエルは進んだ。
「エリーゼさん、待って……」
「遅いぞ、ミュー坊」
「さっきから、私のことをミュー坊って……じゃあ、私もあなたのことをエリエリって呼ぶわ」
「なんだそのヘンチクリンな呼び方は……背中がくすぐってえぞ」
「だって、エリーゼ・エリスンだから、頭のほうをとって略したの……こういう呼び方、都で流行っているのよ」
「なにぃぃ……都で流行ってんのか……ほうほう、エリエリかぁ……なんだかハイカラな気分がしてきたぞ」
うんうん……辺境者は、都で流行っているときくと真似したくなる……わかるよ、エリーゼ。
「そういえば、エリエリってピクシー魔法の使い手だって言ってたわねえ……幼いのに、えらいわねえ……」
「そういや、ミュー坊は何歳だ?」
「私、14歳」
「ぼくも同じ年だ」
「ふふん……わっちは137歳だ」
ぼくとミュリエルはぎょっとして小妖精を見つめた。
「年上だったの……いえ、だったのね……魔法の修行も長年にわたって極めたんですね……」
「まあ、人間族でいえば、12、3歳だ」
「えっ……私よりも年下?」
う~~ん……年上なのか、年下なのか……あつかいに困る……
「まあ、そう深く考えずに、ざっくばらんにいこうや……急に丁寧語で話されると、背筋がむずむずすんよ」
「わかった……じゃあ、今まで通りの話し方で」
やがて、苔むす原生林の奥にまた巨石が見えた。
と、いっても前よりもこぶりなものだ。
「おう……この結界の中に『妖精の泉』がある……ここで休憩しようや」
「結界魔法で隠されていたのか……どうりで見つからないはずだ……」
「ここが、『妖精の泉』……」
ミュリエルが感動もひとしおの様子だ。
なにせ彼女が探していた目的地だからね。
ぼくらが巨石の間に入ると、小川のせせらぎが聞こえた。
川音も結界でさえぎられていたらしい。
茂みをかき分けて進むと、小川が見え、その先に池が見えた。
これが水源の『妖精の泉』のようだ。
「ああ……見て、見てハルトくん……」
草丈が1メートルで、ヤマハッカよりも地味な白い小さな花がいっぱいついて、ギザギザの葉っぱの植物だ。
「おお……これがタチナオリだね……」
「ええ……よかった。本当にあったんだ……」
「おいおい……採取するのはクエストをすませてからだぞ、ミュー坊」
「わかっているわ、エリエリ……」
「おおう……ハイカラな風を感じるぞ……」
ぼくは池のきれいな水面の前にしゃがみ、ヤギの皮水筒で水をくんでおいた。
こういう場所で補給は大事だ。
ピクシーの里にあった灌漑用水も、この小川から引いていて、生命線のひとつだという。
一休みしたあと、『妖精の泉』の巨石結界から出る。
いよいよ目的の場所へ進む。
やがて森林の木々が妙に変形して、枝葉が多くて空をおおって薄暗く、空気にかすかな臭気が感じられるようになった。
「なにかしら、この匂い……」
ミュリエルが鼻をつまみ、ウィリアムが彼女の服の中にもぐりこむ。
「これは……近くに古い沼でもあるのかな……腐葉土の沼気が……いや、魔物の瘴気を感じる!」
ここまで読んでくれてありがとうございます!
これからアクションシーンになるので、更新が遅れると思います。
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