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エリーゼ、ふて腐れる

「しかし、ソール・ブレイドでミノタウロスの角を斬ったというなら、辻褄はあうんじゃがのう……お主がただの木剣で魔物の角を折ったというのは不思議じゃわい。それは、スタージョン流武術の純粋な技で斬ったということかのう?」


「ぼくの家に伝わるスタージョン流武術では、木剣で剣槍や鎧甲冑よろいかっちゅうを斬ったという話は聞いたことがありません。他の武術剣法もです。やっぱり、魔物の角といえど、ギュスターブさんの度重なる戦いでヒビが入っていたと考えるほうが道理にかなうと思います」


「ふ~~む……そうかのう?」


 アシモフさんは納得できかねる様子だった。


「実はのう……以前、遠い東域にある国で、素手で物に触れただけで壊す不思議な武術の話を聞いたことがあるんじゃい」


「えっ!? 素手で触っただけで、壊す武術ですか? ぼくは聞いたことないなあ……」


「私もさすがに知らないわぁ……」


「わっちも右に同じ。酒のみの与太話だろ」


「なんじゃと!! このちんまい妖精は、いちいちとカンにさわる奴じゃのう!!」


「なんだぁ、やんのか飲んだくれドワーフ!!」


「ちょっ……ケンカしないでくださいよぉ……」


 ぼくとミュリエルでなんとかエリーゼとアシモフさんをなだめた。


「まあ、この剣の手入れが必要なときはわしの所へこい。そこらのヘッポコ鍛冶屋では手に負える品物ではないわい。わしが格安で請け負ってやるわい」


「そうですか。よろしくおねがいします、アシモフさん!!」


 ぼくらは『幸福の星亭』をあとにした。


 ぼくは以前会った『黒い蠍』の魔道士シグマの事を思い出した。悪神ロキが召喚した別世界の技術者が作った科学兵器なるものを、アシモフさんに言おうか言うまいか悩んでいたが、結局、いいだす切っ掛けがなかった。このことはまたいずれ、折を見て彼に話して意見を聞こうかと思う。


「ねえ、ハルトくん……ここへ来て良かったわね」


「うん……ドワーフ族は神様の武器をも造る種族だ。その中でもアシモフさんは別格の腕を持っているらしい。『幸福の星亭』は、ぼくらにとっても幸福の星になりそうだ」


「くすっ……ハルトくん、うまいこと言っているの」


 無邪気にほほ笑むミュリエルはかわいかった。


「ちぇっ、お前ら、あの頑固爺いに手なづけられやがって……」


 エリーゼは両手を後頭部にまわして、ふて腐れた表情をしてフヨフヨと飛んでいた。


「でも、アシモフさんは、ソールさまに関係するドワーフ族の子孫で、優れた技能の持主の鍛冶師だよ」


「まあ、あのアシモフって爺いが、そこらの鍛冶屋が束になってかかっても敵わない、凄腕の鍛冶屋だってことは確かだろうな……けど」


「けど?」


「あの爺いは気にくわねえ!!!」


「だあぁぁ……」


 肩の力が抜ける……エリーゼとアシモフさんは犬猿の仲のようだ。

 ソールさまとロキの話じゃないが、人間の相性というものはホント分からないもんだ。


「アシモフさんに会う時は、エリーゼを連れていかないほうがいいの。トラブルの元になるわ」


「そうだね……ベルヌにいる間は、神剣の研ぎやメンテナンスなどが必要だし、仲違いはしたくない」


「いいや、わっちはついて行くぞ」


「えっ、なんで!?」


「ドワーフ族ってのはなあ、神々だろうと、魔族だろうと、巨人族だろうとお構いましに、己の利益のみで武器や防具を作る種族だ。つまりは金に汚くがめつい銭ゲバ野郎だってことだな」


「いや、アシモフさんはそんな風に見えなかったけどなあ……剣のメンテナンスも格安でしてくれるって言ってたし」


「いいや、甘い。甘すぎるぞハル坊は。お前は武術が得意で、基本的に良い子だが、辺境から出たばかりで、世間ってものを知らなくて、悪い奴の上っ面にはだまされやすいのが欠点だ」


「うっ……」


 とっさに言い返す言葉もでない。


「第一、アシモフの先祖のブロックって奴もロキの首をやたらと首を斬りたがる危ないサイコ野郎だったじゃねえか。まるで串刺しブロックみたいだな。名前にロックがつくと首を斬りたがるのかな?」


「それはただの偶然だと思うの……それに大昔は今より荒っぽい時代だったいうし」


「ミュー坊も優しくて良い子だが、親も人が良すぎて借金を抱えてしまったために政略結婚の犠牲になろうとしているんだぞ」


「それは……なの……」


 ミュリエルもシュンとしてしまった。


「世の中には薄汚い奴もいるんだ。アシモフがいい人面ひとづらして、お前達から金を高めにふんだくるかもしれねえ。目付役のわっちが見張ってやらないと大損するぞ」


「まさか、そんな……」


「実はな、わっちたち小妖精族もな、昔、人間にだまされたことがあるんだ」


「それって、ピクシー狩りのことだね」


 ぼくはエリーゼと人食いの森で初めて会ったとき、聞かされた小妖精族の悲しい歴史を思いだした。

 

 だからピクシー族は種族の防衛のため、ストーンサークルの結界魔法で隠れ里にひきこもり、人間族との交流を断ったのだ。


「そうさ、悪人は言葉たくみに森で見つけた人のいいピクシーの一人を言葉巧みに妖精の里に案内させた。だけど、そいつはピクシー狩りの悪党で、里を見つけた途端、正体を現し、仲間を呼んで、悪人どもが妖精の里を襲ったことがある」


「ひどい話なの……」


「妖精の里が悪党たちに操られた魔獣に襲われ、多くの同胞たちが捕まった。里は壊滅の危機にあった。そのとき、お忍びで旅をしていたソールさまが助けてくれたんだ」


「そんな事が……」


「優しく人情家のソールさまは悪人どもの操るミョルニルの戦鎚で魔獣をすべて倒し、悪人どもを裁きの雷撃で黒焦げにしてやった。お陰でピクシーの里は全滅はまぬがれ、ソールさまはしばらく里に滞在して、故郷の復興にも手を貸してくれた。だからソールさまはわっちらの御先祖さまの恩人でもあるんだ」


 そして、ソールさまは最初のソール・ブレイドの継承者が悪い独裁者となり、天罰の落雷で処分したのち、神剣をどうするか悩んでいたという。


「千年前にピクシー族の預言者がいて、その予言者が千年後にまた妖精郷に危機があると予言した。そして人間族の勇者がソール・ブレイドに選ばれ、妖精郷を、そしてミズガルズの危機を救ってくれると予言した。だから、ソールさまは森の守護神ドライアードさまに雷鳴神剣を封印するよう頼んだ」


 ぼくは御神木のドライアードさまの姿を思い出した。


 まさかこのぼくが神剣の第二継承者に選ばれるなんて……


「そして、ソールさまは妖精郷を去った。だけどその後も悪人は森に採取に出たピクシーを誘拐する事件がたびたびあった。同朋を誘拐したピクシー狩りの悪党どもは、わっちたちが精霊魔法で見つけだして、悪人どもを魔法で思いきり懲らしめてやって、同朋を助けだした。だけど、すっかり人間不信になったわっちら種族は、その後、妖精の里は結界魔法で人の目から消えることにしたのさ」


「……同じ人間族の悪人のせいでピクシー族に迷惑をかけたね……」


「なあに、お前が気にすることないさ。だけど、ハル坊、お前はミュー坊の借金を今年の暮れまでに返済するために冒険者になったんだろ」


「そうだけど……」


「だったら、無駄な金を使うわけにはいかねえ、わっちみたいにズケズケ言えるご意見番が必要なんだって」


「ご意見番かあ……でも、エリーゼも妖精の里にずっといて人間社会のことはよく分かってないんじゃないの?」


「確かに人間社会にはまだくわしくねえが、お前らみたいにお人好しじゃねえ。悪い奴にだまれないよう、わっちがビシビシと見張ってやるからな」


「うん……よろしく頼むよ、エリーゼ」


「私もお願いするの……」


「フィヤ」


「よーし、わかったら気持ちを引き締め、マンデルの涙亭に行くぞ。初仕事の準備や説明なんかがあるだろうが」


「そうだった……ミュリエル、急ごう!!」


「うんなの!!」


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