ハルト、今までを振り返る
ぼくは驚いてアシモフさんを注視した。この予言の一節はピクシー族の長老ハーラン・バンジョルさんから聞いたものとそっくりだ。
エリーゼも仰天して、
「それは妖精の里に伝わる予言の書の一節じゃねえか!?」
「当たり前じゃい。ソールさまが『雷鳴神剣ソール・ブレイド』を作るときに協力したのが、エイトリとブロック兄弟じゃからのう。予言のことも当然、子孫のわしに伝わっておるわい」
「そうだったんですか!?」
「しかしのう、ハルトといったか……その神剣は偉大なる力を持ち、所有者に人間以上の力を与えるがゆえに……『呪われた剣』とも言われておるのじゃぞ」
アシモフさんがぼくを値踏みするように見た。
「その事までご存じなのですか……」
「お主はもしかして……」
「はい、ソール・ブレイドの第二継承者です」
「おい、ハルト!! こんな奴に秘密をもらすんじゃねえよ!!!」
「いいんだ、エリーゼ。アシモフさんはすべてご存じのようだ」
アシモフさんはコクリとうなづく。
「やはり…な。これはドワーフ族に極秘に伝えられる神話じゃ。今から千年以上前、神代の昔――地上界にて人間族と魔族の間で戦争があり、神々の国アースガルズに住まうアース神族のソール様がこれを憂い、人間族に手を貸すべく、神の金属オルハルコンをミュルニョルの槌使って加工して、神剣を作りだした……その神剣をソール様が選んだ勇者に渡し、人魔戦争は人間族の勝利で終結した。しかし……戦後、人間の勇者は強力すぎる武器の力に溺れてしまった。独裁者となり、人間界を武力で制圧しようとした。それを知ったソール様はたいそうお怒りになり、アースガルズから神罰の雷霆を堕落した勇者に落とし、独裁者は焼け死んだ……この話は人間族には伝わっておらんじゃろ?」
「はい……人間族のなかで一般に広まっている神典や神話では、単に千年前に強大な魔剣を持つ独裁者がいたらしいという話しか残っていません」
そういえば、ドライアードさまは、この真実の話は、ピクシー族、エルフ族、ドワーフ族にしか伝えなかったと言っていたっけ。
「その後、雷鳴神剣ソール・ブレイドはウィンダム大森林の奥深くに住まう森の守護神ドライアードさまに神剣を託して、ドライアードさまは再び来たるべき脅威のために、正しき神剣の継承者が出現するまで、森の不覚に封印された。それというのも、当時、人間族のなかにはソール・ブレイドの強大な力に魅せられた悪い王や悪人が神剣を狙っておったというからの。真実の話は、長命種のピクシー族とエルフ族、ドワーフ族にのみ伝えられ、その神職の者が予言の書として言い伝えたというんじゃい。ウィンダム大森林を守る管理者として選ばれたのが、ピクシー族とエルフ族じゃい。ドワーフ族は神剣が蘇った時のメンテナンスをするためにな。やがて、短命種の人間族はこの話は忘れさられていった……」
「はい、ぼくもそう教えてもらいました」
「見たところ、お主はまだ、少年らしい純粋な正義感を持ち、奥ゆかしい謙虚さを合わせ持つ少年のようじゃのう」
「そうだ!! ハル坊はウィンダム大森林を汚染して『人食いの森』だなんて忌まわしい名前にかえた悪魔の植物トリフィドを倒したんだぞ!!」
「そうなの……ハルトくんは、他にも私をゴブリンから救ってくれたり、水牛平原で悪事を働く盗賊団『黒い蠍』をやっつけたり、雷鳴神剣を正しく使いこなしてきたの」
「いや、そんな……当たり前のことをしただけだよ」
「凄い力や技を持ちながら、おごらず、威張らないところが、ハルトくんのいいところなの!!」
「もうやめて、照れちゃうよ……」
「なるほどのう……奥ゆかしさが、お主が神剣の継承者に選ばれた由縁じゃな。しかし、じゃ……」
アシモフさんが意味ありげにぼくらを見る。
「この雷鳴神剣が『呪われた剣』といわれる由縁は、人間に強大な力を与えてしまうがゆえに、力に呑みこまれ暗黒面に染まってしまう者がおるがゆえじゃ。少年時代の今ならば純粋に正義のために神剣を振るえるじゃろう。しかし、人間はのう、大人になっていくと変わっていくものじゃ」
アシモフさんの言葉には重みを感じだ。
おそらく、長命種の彼はさまざまな人間族を見てきて、中には心変わりをしてしまった人間もたくさん見てきたのだろう。
「雷鳴神剣の第一継承者も、はじめはお主のように純粋で神剣を正義のために使っておったはずじゃ。それゆえ、ソールさまが剣を託したのじゃからな。じゃが、神のソールさまでも人間の未来の変わりようまでは分からぬものなのじゃ」
アース神族であっても未来までは見通せない。
あの神々の父であるヴォーダンさまでさえ、彷徨いし巫女のヴォルヴァに未来の脅威にどう備えるべきか助言を求めるほどなのだから。
「神剣の力に溺れ、邪悪な独裁者となれば、いずれ天界から神罰の雷霆がその身に降り注ぐぞよ。それを覚悟しておるのかい、お主は?」
ぼくはコクンとうなづいた。
「はい……この剣をにぎるとき、必ず自分に戒めています。決して雷鳴神剣を悪用せず、人のためにつかうと。それに……」
ぼくはミュリエルとエリーゼを見た。
「彼女たちが、ぼくが神剣を悪用しないか、見張っていてくれるはずです」
「おうよ、わっちはハルトが神剣を正しく使うか見極めるために妖精の里から飛び出してきたんだからな!!」
「私もハルトくんをずっと見守っていくつもりなの」
「みんな……」
心がじーんと暖かくなる。彼女たちの期待に応えていかねば。
「これから先、雷鳴神剣が、ぼくに相応しくなくなったときには、ドライアード様に神剣を返還します。たとえ、ぼくが邪悪に染まっても、彼女たちが剣を取り上げて、ドライアードさまに神剣を返納するでしょう」
そして、また人間が生き続ける限り、世界に危機が訪れた場合、ふたたび剣の持ち手に相応しい素質をもった者が選ばれ、ドライアードの森へやってくるのだろう。
「ふ~む……若いのに見上げた心持ちじゃい、呪われた神剣の悲劇を回避することができるかもしれんのう。いい仲間を持ったもんじゃのう、ハルト」
「はい、アシモフさん」
「ハルト・スタージョンよ……おぬしを『雷鳴神剣』二代目の所有者として、わしも見守っていこうぞ」
「ありがとうございます」




