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アシモフ、神々の宝物由来譚を話す

 ロキはアースガルズへまっすぐ帰るどころか、黒妖精国スヴァルトアールヴァヘイムを、さらに奥へと旅立った。


 当時、ドワーフの職人の中でも、イーヴァルティに並ぶ名工と言われた兄弟がいると聞いて、彼らの家へ向かったのだ。


「それがわしの先祖さまでもある、エイトリとブロック兄弟の家じゃい。ロキはご先祖さまたちに、イーヴァルティの息子たちが作った三つの宝物を自慢げに見せたんじゃい」


 ロキは得意げに、


「まさに神々に収めるにふさわしい宝物だろう。おれはこれを三貴神の宝と名づけようと思っているんだ。イーヴァルティの息子たちこそが、まさにドワーフ族最高の職人じゃないか!!」


 この挑発に、エイトリとブロック兄弟はまんまと引っ掛かり、イーヴァルティの息子たち兄弟への敵愾心てきがいしんを剥き出しにして、


「わしら兄弟の方がもっと素晴らしい品々を作ってみせるぞ。賭けてもいいぞ」


「大きく出たな、エイトリ。きみたちがイーヴァルティの息子たちより素晴らしい物ができなかったら、無料でその品々をもらっていくぞ」


「いいだろう。神々の色事師ロキよ。わしらの作ったものがその品々よりも出来がよかったら、貴様の頭をもらうからな!!」


 日頃からイーヴァルディ兄弟に対抗心を持っていたブロックとエイトリ兄弟は、ロキにあおられたこともあり、さっそく作業場で宝物を作り始めた。


 エイトリが炉の中に猪の皮を放り込み、鍛造をはじめた。

 やがて長い作業の最後の段階になった。エイトリはブロックに、


ふいごで風を送れ。わしが良いと言うまで炉の炎を弱めるんじゃないぞ!」


 と、ブロックに命じて外に出て行った。


 それをうかがっていたロキは魔法の変身術ではえに化けた。

 ロキは神々の中でも、もっとも変身魔法が優れていて、動物や鳥類、魚類、昆虫類などに化けることができる。


 ロキの蠅は鞴で風を送るブロックの身体にまとわりついて、作業の邪魔をした。エイトリとブロック兄弟の作る宝物に仕損じ部分を生じさせ、宝物をただでせしめるためだった。


「まったく、ロキって奴は神さまのくせにせこいもんだぜ」


 ソールさまが大好きなエリーゼはロキに否定的だ。


 ブロックは兄の言いつけ通り、蠅のわずらわしさを我慢して作業を続行した。


 やがて、創り出されたのが、『黄金の腕輪ドラウプニル』、『光り輝く猪グッリンブルスティ』を完成させていった。


『黄金の腕輪ドラウプニル』は、九夜ごとにまったく同質量の黄金の腕輪が八つにしたたり落ちるという不思議な宝物だ。


『光り輝く猪グッリンブルスティ』は、全身が発光するみごとな猪で、陸も海も空も、いかなる名馬よりも速く走りまわることができた。


 このままでは賭けに負けてしまうと、あせったロキは今度はあぶに化けた。

 そして、鞴で風を送るブロックの手を毒針でおもいきり刺した。


 虻に手を刺されたブロックは悲鳴をあげて手を休めてしまった。


 そのため、最後に創った『ミョルニルの戦槌』は柄が短くなってしまった。


 完成品を見たエイトリは、


「ミョルニルの柄が短くなってしもうたか……これでは持ちにくいわい」


「兄貴、ミョルニルのハンマーは作り直そうか?」


 ドワーフ兄弟は試しにミョルニルの戦鎚を使ってみた。

 そして、驚くべき結果がでた。


「確かに持ちにくいのは欠点じゃが、出来はわしらの今までに作った物の中で最高のものだ。なにより、強大な力が籠っておるわい。これならいける!! わしらがイールヴァルディの息子らに勝つことができるに違いないわい!!!」


 会心の作を作り上げたと判断したエイトリは、ブロックに三つの宝物を持たせ、


「ロキと一緒にアースガルズへ行って、わしらの作った品とイーヴァルディの息子たちの品、どちらが優れているか、アース神族の神々に判断を仰いでくるんじゃい!!!」




 神々がすむ神の国アースガルズはどこにあるのかというと、人間の住む世界ミズガルズ――つまり、北域の大陸のことだ。

 その中央のある神々の山の天辺に大きな囲いがあり、その中に神界アースガルズがある。


 人間界ミズガルズと神界アースガルズは隔てられていて、人間が神域に行くことはできない。

 だけど、雨あがりになると出現する七色の虹は、ミズガルズとアースガルズを結ぶ唯一の架け橋であった。


 この虹の架け橋をビヴロストという。

 このビヴロストは中に真っ赤な炎が燃えていて、生きている人間は決して橋を渡ることは不可能だった。


 例外として、渡れる人間は戦場で勇敢に戦って亡くなった戦士で、ワルキューレに選ばれた英雄の魂――神霊の戦士エインヘリャルだけだ。


 雷神であるソールさまは当然この虹の架け橋を渡れるが、ブロックもまた妖精のドワーフ族なので渡ることができた。


 神々の国アースガルズの中でもっとも高い場所に、歓喜の国グラズスヘイムがある。

 ここから全世界を見渡すことができる。

 そして主神ヴォーダンさまの住まうヴァルハラ神殿があった。


 ヴァルハラ神殿は金の盾を瓦ぶきした銀製の館で、陽光を反射してきらきらと輝く神々の住まいであった。

 そして、神殿には五百四十の扉があり、六十万人以上のエインヘリャルも住んでいた。


 ヴォーダンさまが神霊の戦士たちの訓練仕合を見ながら蜜酒を飲んでいると、従者から報せがきた。


「なに!? ロキがドワーフの作った宝物をもってきたじゃと!?」


「はい。なんでも素晴らしい宝物の審査をして欲しいとのことです」


「よし、主だった神々を呼ぶのじゃ」


 さっそくヴォーダンさまは雷神ソールさまや豊穣神フレイさまなどを呼びよせ、謁見の間にある高御座たかみくらに座って、六つの宝物を目にした。


 アースガルズの神々は、ロキとブロックの持ち帰った宝物を目の前にして、その素晴らしい品々にうっとりとする者や驚嘆する者が続出した。


 そして、主神ヴォーダンさまには、『黄金の槍グングニル』と『黄金の腕輪ドラウプニル』が献上された。


 豊穣神フレイさまには、『魔法の船スキーズブラズニル』と『光り輝く猪グッリンブルスティ』が献上された。


 そして、雷神ソールさまには、『シヴの金髪』と『ミョルニルの戦槌』が献上された。


 三人の貴神たちは、どちらが優れているか審議した。


 ソールさまはシヴさまの金髪の出来に満足した。


 そして、『ミョルニルの戦槌』を持ったソールさまは、あまりに凄まじい力を秘めたハンマーの力に耐えきれず、手から落としてしまった。


「凄い業物だ……このハンマーを持つには素手では駄目だな……」


 ソールさまは従者にヤールングレイプルという鉄でできた魔法の手袋とメギンギョルズという力のおびをもってこさせた。


 ソールさまといえども、この魔法のアイテムを使うことで、ようやく『ミョルニルの戦槌』をあつかうことができるのだ。


 やっと、『ミョルニルの戦槌』をもつことができたソールさまは、試しに家ほど巨大な岩にミョルニルの戦鎚を打ち付けた。


 巨岩はたちまち粉砕されてしまった。

 この破壊力には、アースガルズの神々も驚嘆の叫びをあげた。


『ミョルニルの戦槌』は、どんなに打ちつけても壊れることのないハンマーで、どこに投げても的を外さず、ふたたび我が手に戻ってくる力がある。

 さらに、自在に大きさを変えることが出来て、持ち運びに便利だった。


「凄い……『ミョルニルの戦槌』ならば、強大な魔族や巨人族に対抗することができるぞ!!」


 かくして、柄が短いという欠点があるが、ミョルニルの戦槌が優れた武器であることを理由に、神々はエイトリとブロック兄弟に軍配をあげた。


 実際、こののち、ソールさまは『ミョルニルの戦槌』を使って、さまざまな魔獣や巨人を倒し、この戦槌はソールハンマーと呼ばれるようになる。


 ことの発端は、ロキの意地悪なイタズラだったけど、結果的にロキはドワーフ族から素晴らしい宝物を手に入れた。

 このことで、ロキを嫌っていた神々も、しぶしぶその功績を認めざるを得なくなってしまった。


 だが、ロキは窮地に立たされていた。


 この頃になると、ブロックはロキが変身した虻に作業を邪魔されたことを知っていて、ここぞとばかりに復讐にでた。


「賭けに勝ったのは俺たち兄弟だ。貴様の頭をもらうぞ!!」


「ま、待て。頭はやれん。相応の金を払うから勘弁してくれ!」


 ロキは得意の弁舌でごまかそうとするが、怒り心頭のブロックには通用しなかった。


「いいや、貴様のいうことなど信用できん。そっこく貴様の頭をよこせ!!」


「そんなに欲しけりゃ、おれを捕まえてみな!!」


 ロキは『陸も海も走れる靴』を持っていたので、呪文を唱え、あっという間にその場から逃げ出してしまった。

 こうなるとブロックにはロキを捕まえることができない。


 そこで、ブロックはソールさまに泣きついた。

 人情に弱いソールは、山羊の車に乗り、ロキを捕まえて戻った。

 ちなみに、アース神族の中でもロキを捕えることができるのはソールさまだけだった。


 ブロックは嬉々として、ロキの首を斬り落そうとすると、


「待て、おれは確かに頭をやると賭けたが、首をやると言った覚えはない。首を斬るのは約束違反だ!!」


「へらず口を言いやがって、こうしてやる!!」


 逆上したブロックは、ロキの口をきりと皮ヒモで縫い合わせてしまった。


「これで忌々しい呪文も唱えられまい!!」


 だけどロキは隙を見て、口の皮ヒモを抜き取り、呪文を唱えた。

 こんどはたかに変身すると、まんまとブロックの前から逃げ去ってしまった。




「……と、まあ、これが一般に知られておる、わしのご先祖さまの話じゃな。なんせ神代の昔の話ゆえ、どこまで本当かは分からぬが」


「まさか、ソールさまの代名詞ともいわれる武器、『ミョルニルの戦槌』を作った方のご子孫に会うことができるなんて……感動しました!!」


「ほっほっほっ……わしこそ『ミョルニルの戦槌』で、ソールさま自らが作ったと言われている『雷鳴神剣ソール・ブレイド』を、わしの代で見ることができるとは、思いもせんかったわい」


「アシモフさん…こんな偶然って、あるんですね」


「これも運命かもしれんのう……」


 アシモフさんは遠い目をしながら、アゴひげをしごいた。


「――予言の子、世界が滅びるような危機がおとずれたとき、天が割れ、いかづちとどろき、地上に現れでる――予言の子は、伝説の救世主なり。邪悪の手が迫りりし妖精郷に助けに現れん、森の守護神ドライアードが封印せし宝剣、すなわち雷神ソールさまが造りし神剣ソール・ブレイドを継承し、世界を滅ぼしかねぬ邪悪なるものを打ち払う」


「えっ!? ……なぜその予言の言葉を知っているんですか!?」


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