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アシモフ、大いに語る

「これは伝説にある神の金属、オリハルコンで赤髭のソールさまが作ったものじゃな」 


 ぼくらはあっと驚いてアシモフさんを見た。 


 うっ……するどい。この剣はたしかにオリハルコンをソール様が神の金属オリハルコンを、ミュルニルの戦槌せんついを使って加工して作ったものだ。


「おぬし、どこでこれほどの業物わざものを手にいれたんじゃい?」


「それは……」


 ぼくは言葉につまった。この雷鳴神剣は森の守護神ドライアードさまと小妖精族ピクシーの民たちが守っていた呪われた剣でもある。

 ぼくがソール・ブレイドの継承者であることを、うかつに口外することはできない。


「ハルト、ドワーフの偏屈爺いなんかに剣のことを教えんなよ!!」


「ちょっ、だめよエリーゼ、失礼なこと言っちゃあ……」


「フィヤ!」


「くわしくは言えませんが、この剣は正義と秩序を愛する方々に託された剣です。そしてぼくは決して悪いことには使わないつもりです」


「ふぅ~~む……なるほどのぉ……」


 アシモフさんはぼくとエリーゼを交互に見た。アゴヒゲをしごきながら、


「ぐふふふふ……隠さんでもええわい。わしがソール・ブレイドと見破ったのはのう、アシモフ家と赤髭ソールさまとは浅からぬえにしがあるからじゃい」


「ええっ!?」


「びっくりなの!?」


「フィヤ!」


「どういうことだ、アシモフ爺さん!! なんで爺さんがソールさまの剣と関わりがあるんでい!!!」


 エリーゼが納得しかねる表情で問い詰めた。


「それはカンタンじゃい。アシモフ家の遠い先祖はのう、神代かみよの時代にアースガルズの神々に贈り物をしたエイトリとブロック兄弟だからじゃい」


「ええっ!? 雷神ソールさまの神話に登場する伝説のドワーフ族が、アシモフさんのご先祖さまなんですか!?」


 ぼくは驚いてミュリエルと顔を見合わせた。彼女も驚いているが、エリーゼの驚きようもない。混乱してぼくらの真上をぐるぐると回り出した。


「なんだって、よりによってこの頑固爺さんがあの伝説の鍛冶師の子孫だとは……えらいこっちゃぁ……」


 エリーゼが混乱するのも無理はない。何せ、ソールさまが持つ神々の武器『ミョルニルの戦槌』はエイトリとブロック兄弟が創り出したものだからだ。


 ぼくらはアシモフさんを驚きの目で見た。それにうながされたかのように、老鍛冶屋は口をひらいた。


「わしの先祖の話をしよう――エイトリとブロック兄弟がソールさまと関わった話じゃい」


 ぼくはごくりとツバを呑んだ。


「ところで、おぬしらはソールさまの話をどれくらい知っておるのかのう?」


「あ、ぼくは故郷のグラ村で語り部の古老や、旅の吟遊詩人からいろいろはお話を聞きました」


 三戦神として信仰されている主神ヴォーダンさまは貴族や戦士から信仰されているが、雷神ソールさまは戦士の他に農民などの一般大衆からの信仰が多いことで知られている。


 ソールさまは雷神というだけあって、田畑に恵みの雨をもたらし、五穀豊穣を司る神さまでもあるからだ。

 そして結婚や出産、葬儀などの冠婚葬祭のきよめを行う神さまでもある。


 なので、辺境の農民にとってソールさまは、豊穣神フレイさまと並んで、絶大な人気があった。


 一週間のうち、木曜日をソールデイというのは、雷神ソールさまに由来していて、村の会議などは必ず木曜日にする決まりがある。


 農家の大黒柱にソールさまの像を刻んで、木曜日の朝は、柱に向って家族で感謝のお祈りをする風習がある。


 かくいうぼくも、木曜日になると毎朝、雷鳴神剣ソール・ブレイドに向ってお祈りをしている。


 以前、グラ村の農閑期にきたおっしゃべりな吟遊詩人によると、お師匠さまに詩芸の技を伝授されるとき、スプーンとフォークの持ち方を忘れようとも、ソールさまの話だけは丸暗記をせよとしごかれるそうだ。


 どんな下手な吟遊詩人であっても、ソールさまの歌物語を田舎でドサ回りすれば、一生食いっぱぐれることはないという。

 だから、吟遊詩人は詩芸を司る神ブラギさまと共にソールさまを信仰する者が多いといわれている。 


 どこの辺境でも娯楽というものが少なく、娯楽に飢えているといわれる。

 農閑期などにくる吟遊詩人などの芸人は、どこの村でもたいがい歓待される。


 また以前、村の豊穣祭に招かれた旅芝居一座はオリジナルの演目を披露していた。


 だが、どうも村人たちに受けが悪いのを感じとったようで、途中から急に主人公がソールさまのお忍びの変装だったという、無茶苦茶な展開のお話に変った。

 だけど、村の衆は打って変わって大盛況になった。

それほど、辺境の農民においてソールさまの人気は絶大ということだ。


「わっちだって知っているぞ。ピクシーの里では赤ん坊の頃から子守唄がわりにソールさまの話を聞かされんだ」


「私は王都の劇場でソールさまのお芝居を観たことがあるわ。悪い巨人や魔族から人間を助ける正義の神さまなの」


「ぼくもソールさまの悪巨人ゲイルレズ退治の話はなんど聞いても痛快に思うなあ」


「ほっほっほっ……やはり、赤ひげのソールさまは人気があるのう。ではソールさまの奥さんの名はなんじゃい?」


「それはもちろん、女神のシヴさまです。ミュリエルのように美しい金髪をした麗貌の女神さまです」


「もお、ハルトくんったら、からっかって……」


 ミュリエルが頬を上気させてぼくをとがめるような顔でこちらを向いた。いや、本当のことを言ったんだけどなぁ……


「ほっほっほっ……きっとそこのお嬢さんのような蜂蜜色の黄金の毛髪をしとったんじゃろおのう。シヴさまは美髪の女神という別名もあるからの……美人とはいっても、女神フレイヤさまにはおとってしまう。だが、髪にかけては彼女より美しい女神はいなかったからの。シヴさまはそれを自慢しておった。じゃがのう、人が自慢するのを気にくわない、ひねくれた神さまがおってのう……」


「そいつはロキだ!!」


 エリーゼがぴょんと兜の上から飛び上がった。


「あの憎たらしいロキの悪戯いたずらで、シヴさまの美しい金髪を剃り落としやがったからなあ!」


 エリーゼが噴飯やるかたないようすで口を出した。


「女性の命よりも大事といわれる髪の毛を切るなんて、イタズラにもほどがあるの!!」


 ミュリエルが両手で自分の髪の毛をおさえて同意した。

 女性陣には許せないエピソードだ。


 ロキは主神ヴォーダンさまの義弟で、ヴォーダンさまの補佐をしている。美しい顔をした神さまで、数多くの女神と浮名を流した、女たらしの快楽主義者プレイボーイであった。

 その性格は狡猾で邪悪で、ウソつきで、悪戯の神さまで、北域神話最大のトリックスターでもある。


 と、悪い面が目立つのだけど、ヴォーダンさまは重用した。

 ヴァーダンさまは三戦神のひとりであるが、雷神ソールさまや軍神ティールさまのような正々堂々とした戦士タイプとはちがい、魔術と策略をもって戦場を勝利に導く軍師タイプだからだ。


 なので、同じく悪巧みと魔法に長けたロキは、ヴォーダンさまの副軍師、知恵袋として重宝される存在であった。


 アース神族の神々は、イタズラ好きで、女たらしで、トラブルメーカーで、悪知恵に長けたロキを嫌悪し、一族の恥とさげすんでいた。


 だけど、人間の相性というものは不思議なもので、ロキがアース神族の中で最も仲が良いとされているのは雷神ソールさまであった。


「ソールさまとロキは、性格がまったく違うのに、なぜか仲が良いのは不思議ですよね」


「神学者の間でも、ソールさまとロキの関係は謎とされているの」


「まったく、ソールさまも物好きだぜ。あんな裏切者の悪神と仲良しだなんてさぁ……」


 ぼくらは日頃、ソールさまの武勇譚に多く出てくる、ソールさまとロキとの不思議な間柄を口に出した。


「ほっほっほっ……お主たちや世の人々がそう思うのも無理なからぬ話よのう――しかし、人間というものは己にない物を持つ者をうらやむという心もある。赤ひげソールさまとロキは、そういった間柄であったのかもしれんて」


 ソールさまはヴォーダンさまの息子であり、ロキは義理の叔父であるが、年齢が近く、気の合う仲間であった。


 なので、ソールさまとロキは一緒に旅をした幾つかの冒険譚がある。

 人のいいソールさまが魔族や巨人の奸計にはまって窮地に立つと、ロキが得意の悪知恵をはたらかせて、何度もソールの危機を救った。


 いわば、ロキはソールさまの友人であり、命の恩人でもあるわけだ。


「ふだんはロキと仲良しのソールさまじゃが、愛妻シヴさまの髪の毛を丸刈りにされるという悪戯には、さすがのソールさまも堪忍袋の緒が切れてしもうた。烈火のごとく怒ったソールさまはロキを神の国中追い回し、体中の骨をばらばらにすると息巻いた。さしもの悪神ロキもこれには恐れおののいてしまい、ソールさまに謝りに謝りまくり、ドワーフ族に前よりもいい金髪を作らせて弁償するといって、ようやく許してもらったんじゃい。もしも、ヴォーダンさまの奥さまが同じ目にあったら、ヴォーダンさまはロキを決してゆるさんじゃろうな」


「その話は有名ですね。ソールさまは勇敢で正義感があるけど、神さまの中でも一番の人情家で有名ですからね」


「ほっほっほっ……そうじゃい。なにごとにも大らかで寛容なる戦士。そこが赤ひげソールさまのいいところじゃい」


 ロキはいやいやながら、ソールとの約束を果たすため、ドワーフ族の職人が住む国へ向かった。


 ドワーフ族は、大地の底にある黒妖精の国スヴァルトアールヴァヘイムというところに住んでいる。

 ドワーフ族は偏屈な種族で有名だが、冶金術や魔法の道具を作るのが得意な種族だ。


 そしてドワーフの職人の中でも腕利きと評判の、イーヴァルディの息子たちというドワーフ兄弟に会いに行った。


 本来ならば、ロキはドワーフの職人にお金を払って金髪を作ってもらうようお願いするのが筋なのだが、悪知恵に長けたロキは違った。


 ドワーフの職人たちの中でも特に優れた腕を持つというイーヴァルディ兄弟に、神へ進呈する献上品を作る権利が選ばれたと言い出したのだ。

 アース神族の威光を笠に、口八丁手八丁で相手を丸め込むのはロキの得意とする技だ。


 イーヴァルディ兄弟たちはロキの話を聞くと、


「アース神族のためならば腕をふるって作りましょう!」


 と、感激し、腕によりをかけて、金髪のカツラを作りはじめた。

 このカツラは黄金でできていて、頭に乗せるとくっついて、自然に伸びるという不思議な品だった。


 ドワーフ兄弟たちは、


「アース神族に奉納する品がこれだけでは物足りない」


 と、主神ヴォーダンさまには『黄金の槍グングニル』を、豊穣神フレイさまに『魔法の船スキーズブラズニル』を作りあげた。


『黄金の槍グングニル』は、投槍にすると、決して的に外れることがない力をもつ。

 そして敵に当れば自動的に戻ってくる機能もあった。


『魔法の船スキーズブラズニル』は、折り畳んで小さくして、持ち運べる船だ。

 広げれば、アースガルズの神々全員と武器を乗せられるほど大きくなる。

 そして、帆をあげれば、どこへ向かうにも追い風になるという魔法がかけられていた。


「そしてロキは、イーヴァルディ兄弟の作った宝物を袋につめ、アースガルズへ意気揚々と帰った。めでたし、めでたし……と、終わらんところが、悪戯の神ロキの、ロキたる由縁ゆえんかもしれんのう……」



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