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ハルト、鍛冶屋のアシモフに驚嘆す

「いや、ぼくはただの武闘士ですよ。ギュスターブさんはランクBの冒険者ですから、いままでの戦いの中で、兜甲冑かぶとかっちゅうに負荷がかかり、角飾りにも経年劣化けいねんれっかのヒビが入っていて、ぼくが打った木剣の打撃がたまたまヒビを大きくして折れてしまったんじゃないでしょうか」


「確かに奴はどうしようもない馬鹿者じゃが、戦士としては並ぶ者がいない男よ。おぬしのいう通り経年劣化もあろう。しかしな……これを見ろい」


 アシモフさんが角飾りの折れた断面を見せた。鏡のようになめらかに折れていた。


「折れるとしたら、兜と角の接着面が弱いものじゃが、この角は根元の角部分が折れておる。これがどういうことか分かるか?」


「えっと……そういえば、牛の角って、中身は空洞ですよね。角笛にも加工できる。でも、このミノタウロスの角は空洞が無く、つまっていますね」


「そうじゃい。ミノタウロスは野性の動物などとは基本構造から違う生き物じゃい。ミノタウロスの角は鋼の棒よりも硬いんじゃ。げんにギュスターブは迷宮島でのミノタウロスのボス戦で、怪物の角に腹部の甲冑を刺し貫かれて大怪我をしおった」


「そんな事が!?」


 あのとても強くて、防御魔法も仕えるバイキングの戦士のバリヤや装甲を破るとは、やはりことわざにもなるくらい有名なモンスターであるミノタウロスの強さは半端ではない。


「ギュスターブは半死半生になりながらも、パーティーメンバーの助力を得て、なんとか迷宮島のボスであるミノタウロスを倒した。その苦闘の記念にミノタウロスの角を素材に兜を作ってくれと頼まれたんじゃい」


「なるほど……」


 機会があれば、その迷宮島でのクエストを聞いてみたいものだ。


「ところでお前さんがたは冒険者のようじゃのう……」


 アシモフさんがぼくらをしげしけと観察した。


「あっ、紹介が遅れましたが、ぼくはハルトといいます。武闘士をやっています。今日から冒険者ギルド『黄昏の画廊』に加入したんです」


「ほお……よく一発で入れたもんじゃな。あそこの試験は厳しいぞい。特に『銀雪の豹』が有名になってからは、応募する冒険者が増えて、自然と粒よりの冒険者しか入れなくなったんじゃい」


「やっぱり、そうなんですか……」


 ギュスターブさんの試験は特別難しかったけど、コンラードさんの試験もけっこう難しかったんだ……ミュリエルとエリーゼも相当凄いというか。


「わたしはミュリエルなの。魔法使い見習いをやっています。この子は使い魔のウィリーです」


「フィヤ!」


 ぼくらは緊張しつつも、アシモフさんに自己紹介した。


「ほら、エリーゼも自己紹介するの」


「ふん!!」


 エリーゼは近くにある甲冑の兜の上に座ってそっぽを向いた。うわぁぁ……エリーゼとアシモフさんの相性は最悪っぽいなあ……


「あっ、そうだ。コンラードさんから、アシモフさんに贈り物があるそうで、これを預かってきました……」


 ぼくは旅行ザックを開けて、酒瓶さけびんを出した。透明な液体だが、中に唐辛子やサソリの抜け殻が入っているのが見えた。


「ほお……南域地方の火酒かしゅ、テキーラじゃな。コンラードめ、珍しい物を探しだしおったな」


 アシモフさんが眼の色を変え、うって変って上機嫌になった。


 コンラードさんが言っていたけど、ドワーフの機嫌を取るには酒に限ると。アシモフさんは外国の珍しいお酒のコレクターでテキーラを見せただけで目の色が変わるといっていた。


「そんなに珍しいお酒なんですか?」


「おうよ。この火酒は南域特有のリュウゼツランを原料とした特産蒸留酒で、北域ではめったに手に入らない高級酒じゃい!!」


「そうなんだ……」


「ぐふふふ……今夜はマルガリータにして飲むか……いや、テキーラ・サンライズもええのう。レモンかオレンジを買ってこんといかんわい♪」


「けっ、昼間っから酒の話で浮かれやがって。そういうのを典型的な駄目人間って……むぐぐっ」


 いちゃもんをつけるエリーゼの口を、ミュリエルが慌ててふさいだ。


「もう、エリーゼったら、ここで波風たてちゃダメなの!」


 アシモフさんを見ると、酒瓶をもってほくほくして、聞いてはいなかったようだ。……ほっ。


「まあ、とにかく修理をおねがいします」


「おう、わかったわい。今回はコンラードの顔を立ててやる。まかせておけい!!」」


 よかった……ともかく、これでギュスターブさんのお使いミッションは成功だ。


「ところでな……お主が背中にしょっておる剣じゃがのう……そいつをわしに見せてくれんかい?」


「えっ……これですか?」


「そうじゃい。実はお主が店に入ったときから気になっておったんじゃい。ただならぬ金気かなけがするとな」


「金気、ですか?」


 はじめて聞く言葉であった。


「そうじゃい。人間には生気せいきという生命力があり、これが元気や活力の元じゃ。また、マナという魔法の源になる生命エネルギーがあるな」


「はい。スタージョン流武術は人間の体内にある生気やマナの力を武具に込めて打ち出す技能です。生気やマナなどは初歩の段階で学びます。それは魔法使い見習いのミュリエルや精霊使いのエリーゼも同様だよね?」


 ミュリエルはこくんとうなづいた。


「生気は人間の生きて行くうえで必要不可欠な生命エネルギーで、これが極度に減ると死んでしまうの」


「人間には根源的に必要な要素だよね。これは魔法で増やすことでできて、元気にもなれるよね」


「うん。回復魔法や治療魔法で一時的に怪我や病気で失われた生気を回復させて生命力をアップさせることもできるの。他にも、日常生活を豊かにする『生活魔法』や、人のやる気を引き出す『魔法の言葉』で、精神的な充実感をもたらすことで生気をアップできるわ」 


 さすがにミュリエルは生気に関する魔法にくわしいなあ。


「鉱物にも生気やマナのようなものがある。それが金気じゃい」


「へえ……鉱物の生気のことを金気というんですか」


「そうじゃい。金気はドワーフ族にしかよく分からんもんじゃ。ドワーフ族は金気を頼りに鉱山を見付けたり、冶金魔法をつかったりできるんじゃい」


 なるほど……人間族の鍛冶師には到達できない高度な製鉄技術や冶金魔法をドワーフ族がつかえるのは、金気を感じる能力があるのも理由のひとつなのかもしれない。


 ぼくは剣をおろし、鞘から雷鳴神剣ソール・ブレイドを引き抜いた。


 ただの鉄剣とは一味ちがう鋼の光沢に、アシモフさんは目を奪われたように凝視する。


「ほう……実によい鋼じゃのう……やはりこれは、ただのはがねではないのう。金気がまったく違うわい。まるで赤髭あかひげのソールさまが鍛えたという伝説の剣、雷鳴神剣ソール・ブレイドのようじゃのう」


「ええっ!!!」


 ぼくは心臓が飛び出るほど驚いた。

 ぼくらのパーティーしか知らない大秘密である雷鳴神剣ソール・ブレイドを一目で言い当てられたのだ!!



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