ハルト、伝説の鍛冶屋に会う
ぼくらは冒険者ギルド『黄昏の画廊』を出て、ギュスターブさんが描いてくれた地図を頼りに、アシモフさんの店へ向かった。
南区と東区をつなぐ大通り、通称メイプル通りをまっすぐ行って、火の見塔があるところで右に曲ると鍛冶屋小路だ。鍛冶屋小路に入って右側、三軒目の店が『幸福の星亭』だと書いてあるけど……あった!
金敷と鞴が描かれた看板に、ルーン文字で『幸福の星亭』と書かれていた。
これがボリス・アシモフさんの店だ。
扉を開けると、店内の棚の四方に剣、槍、弓矢、盾、鎧、兜、籠手などの武具や防具が所せましと並べてあった。
「おじゃまします!」
店内には誰もいないようだ。右壁面にある住居への入口らしき所に声をかけてみる。
「誰かいませんかぁ!!」
「お~~い、鍛冶屋の爺さんいるか~い!」
すると、ガサゴソと音がして奥から灰色の服を着た人影が現れた。
「客かい?」
アシモフさんは背が低く、がっちりした身体に長いアゴヒゲを生やしたドワーフ族だった。
ドワーフ族は地中を好み、岩穴で暮らすことが多いとされる。屈強な戦士であり、鉱脈を掘る鉱夫であり、手先が器用で、高度な鍛冶や石工技術、工芸細工などの技能をもつ種族でもある。
ぼくが住んでいたグリ高原ちかくにある白い牙山脈の鉱床にもドワーフ族の集落がある。
農閑期になると、ドワーフの行商人がグラ村まで来て農具や武具、鍋やフライパンなどの金具を売ったり、修理したりしにやって来る。そして、彼らは麦や農作物などを買ったり、交換したりするといった交流があった。
「お客だよ。待たせるなよ、ドワーフの爺さん」
アシモフさんはいぶかしげにエリーゼをしげしげと見つめた。
「なんじゃい、このチンマイのは? しゃべる虫か?」
「誰が虫だ!! よく見ろ、小妖精族だぞ!!」
「わあ!! エリーゼったら何て失礼なことをいうの!!」
ミュリエルが慌ててエリーゼを両手でつかんで口をふさぐ。
「むがぁぁ~~!!」
「ほお……ピクシー族かい。久しぶりに見たわい。ところで、お前さんがたは?」
「あっ、実はぼくはギュスターブさんに頼まれて、これの修理をお願いに来たんですよ」
「ギュスターブじゃと? あのトウヘンボクがまた何かしでかしおったか!?」
あっ、やっぱりギュスターブさんとアシモフさんの間には何かトラブルがあったようだなぁ。
とても事情を聞ける雰囲気じゃないけど。
「いえ、ちがいますよ……実はぼくが彼の大事にしいている兜の角飾りを折ってしまいまして……」
「なんじゃと!? わしの作った兜の角がそうかんたんに壊れるはずはないわい!!」
アシモフさんは口をへの字に曲げた。
ドワーフ族は金属が好きで、鍛冶技能や冶金技術に秀でている。
そして製鉄に関する魔法、火と雷を操る魔法に長じていた。
その反面、偏屈で頑固なのは有名だ。
北域神話にもドワーフ族の話は多く登場する。
神々に魔力のある武器や宝物をつくって贈る話が有名だ。
雷神ソール様の代名詞ともいえるミュルニルのハンマーもドワーフ族のブロックとエイトリ兄弟がつくった。
ブロックとエイトリ兄弟は他にも、女神フレイ様の乗り物である猪グリンブルスティや、主神ヴォーダン様が持つ黄金の腕輪ドラウプニルも一緒に創り出したといわれている。
つまりドワーフ族の創り出すものは神様の持ち物になるくらい優れているということだ。
「まずはこれを見てください……」
ぼくは木箱を開けて、こわれた兜を見せた。
「う、む~~ん……」
アシモフさんは驚いた面持で、兜と角の断面を凝視した。そして、ぼくをギロリと見上げた。うわっ……なんだかすごく怖い……
「これをお主がのう……一体どうやって?」
「実は冒険者ギルドで技能試験を受けまして……」
ぼくはその時の様子をアシモフさんに語った。
「ふ~~む……しかも剣ではなく、ただの木剣でじゃと……信じらん」
アシモフさんはぼくを頭のてっぺんから、足先までしげしげと見つめてくる。
うっ、なんだか恥ずかしい……
「わしの加工した兜のミノタウロスの角をへし折るとは……おぬし、ただ者ではないな」
アシモフさんはギロリと鋭い眼差しでぼくを見た。




