ミュリエル、魔法アイテム換金所へ行く
「すごいの、ハルトくんランクDなの!! ランクアップおめでとう!!」
「はぁ~~…ランクFから、ランクEを飛び越え、二階級昇進でランクFかよ。やるなぁ、ハル坊は!!」
「フィヤ、フィヤ!!」
「みんなありがとう……でも、これって具体的にはどう変わるんですか?」
フレデリカさんは、
「そうですねえ……冒険者ギルドでは、ランク別に仕事の依頼内容が変わります。ランクFは初心者なので、あまり危険な仕事やクエストはさせられません。薬草集めや農場に出没するスライム退治なんかの仕事ね。かんたんな仕事だけど、報酬は低いの」
「なるほど……」
「だけど、ランクが上がるごとに高ランクの仕事も引き受けることができるのよ。その分、難度や危険度があがるけど、ランクの実力相応の仕事ができて、報酬額もあがるわ」
「おおっ!! それは助かります!!!」
ぼくはミュリエルを見た。そう、ぼくは彼女の実家が多くの借金をかかえているので、それを返済するのを助けるために冒険者になったのだ。
スタージョン家の家訓で『行き先に二つの分かれ道があるとする。楽な道と険しい道があるなら、険しい道を進め』とある……高額依頼の仕事なら険しい道になりそうだが、大いに修行になる。
「おめでとう、ハルトくん。だけど、私は……」
「そうか……ミュリエルはランクFだったね……」
それはつまり、ぼくと同じランクFでの仕事はできないということだ。
「一緒の仕事はできないけど、私もがんばってレベルアップを試みてみるの」
「ミュリエル……」
お互いにさびしげな顔をしていたと思う。
「ちょっと、待ってください。ミュリエルさんは魔法使いとしては、攻撃魔法は低いけど、他の補助魔法などはとても優秀です。特に治療師としてなら、ランクEに推薦してもいいわよ」
「え、じゃあ、フレデリカさんはランクC以上の魔法使いなんですか?」
「まあね……でも、魔法使いの資格があるだけで、本業は受付嬢よ」
なんだか謎のある人だなあ。
「ともかく、ミュリエル、フレデリカさんが推薦してくれるってさ!」
「えっ!! でもぉ……」
ミュリエルは困り顔でもじもじしていた。
「ミュリエル……」
ミュリエルは治療魔法が得意だけど、魔法使いという事にこだわりがある。治療師への職業チェンジは抵抗があるんだ……
「魔法使いの職業とは別に、治療師の職業も並立できるわよ」
「そうなんですか!!」
フレデリカさんの提案で、ミュリエルは魔法使いとしてはランクFだけど、治療師としてはランクEとなった。
「これで、ハルトくんとランクEまでの仕事ならできるわ!!」
「やったね、ミュリエル」
「ちぇえ……わっちはランクFのままだから、留守番かぁ……」
「エリーゼ……」
すねた顔の小妖精にさびしさを感じる。
「エリーゼさんも、精霊使いとしランクEに推薦できるわよ」
「本当か!! ……こほん、それを先にいけよ、フレデリカぁ~~…」
ともかくこれでぼくらはランクEまでの仕事はできることになった。
「仕事依頼はどうやって探すんですか」
「あっちの掲示板に仕事の依頼書があるわよ」
フレデリカさんが左側の壁面を指さすと、巨大なボードに色々な紙が貼ってあった。
あれが仕事の依頼書か。数人の冒険者が仕事を物色していた。
「仕事はあとで探しましょう、ハルトくん。今はとにかく今夜の宿屋に泊まるためにも、今まで手に入れたアイテムを魔法道具店などで換金してもらうの!」
「おお、そうだね」
「あら、アイテムを換金するなら、冒険者ギルドにも換金所があるわよ」
「本当なの、フレデリカさん!!」
「ええ、受付を出て、左側の建物が魔法アイテム換金所よ。『黄昏の画廊』と直に取引している錬金術師や魔法使いを通すから、市場に出すより手数料が引かれない分、多く収入になると思うわ」
「ありがとうなの、フレデリカさん!!」
「うふふふ……冒険者って、荒っぽい男やむさくるしい男が多くてねえ……それが、こんな初々しい少年少女の冒険者たちに感謝されて、役得だわぁ……お姉さん、キュン死しそうよ」
「やっぱり、変な奴だな、こいつ……」
エリーゼがジト目で受付嬢さんを見た。
「あっ、そうだ。フレデリカさん、この書状をギルドマスターのサーリング卿に渡したいんですが……」
ぼくは背おった旅行ザックから、ウェイン砦のブリトルズ司令官の書かれた書状を取り出した。
「まあ、そうなの。でも、ギルドマスターはお忙しい人だから、冒険者たちに直接会うことは少ないの……でも、ちゃんと渡しておくわ」
「お願いします」
ともかくギルド併設の魔法アイテム換金所へ行くことした。
庭木の生えた小路をぼくらは歩く。
「魔法のアイテムって、そんなに高く売れるのかい、ミュリエル?」
「ええ、野性のモンスターから取れる素材や、魔物を倒して得られる魔石は、魔法や錬金術の関係者には高値で売れるけど、一般の人には加工細工の素材にしかならないわ。たとえば、ハルトくんが履いている靴、岩風蜥蜴の皮製よね」
「うん。今回の旅のために家族が新品を用意してくれたんだ」
岩風蜥蜴の皮は、丈夫で靴やカバンやベルト、甲冑や盾にも使われる。魔力耐性もあって、モンスターの炎のブレスや毒のブレスにも耐えうるという。
「一般の皮職人でも加工できる素材ならまだ一般市場でも売れるけど、モンスターの素材には、毒を盛った組織や、固くて加工の難しいもの、特殊な工程を必要するものがあって、コスト面から一般市場では敬遠されがちなの」
「ああ、そうなんだ……手間ひまかけて加工するだけの利益が得られないと商売にならないものね」
ギルドに魔法アイテム換金所があってよかった。
「岩風蜥蜴の皮は、手に入れるのが難しいと聞いたことがあるわ。よく手に入ったわね」
「ああ……これはぼくの姉が旅の餞別にと、白い牙山脈にある渓谷へ行って、岩風蜥蜴を一匹取ってきてくれて、村の皮細工職人に頼んでつくってもらったんだ」
「えっ!? ハルトくんのお姉さんが?」
「うん」
ミュリエルとエリーゼがぎょっとしてぼくの方を見た。
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