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ハルト、猛腕のギュスターブと戦う

 ギュスターブさんは相変わらず不動の姿勢で木斧を下に下ろして不動の構えだ。


 どうすれば……どうやれば試験に合格できるんだ。くっ……このままでは冒険者になれない。


 ふと、姉の顔が浮かんだ。




 ぼくは幼少の頃は泣き虫で、村の年上の意地悪な子にいじめられて泣いて帰ったこともある。


 そんなとき、男勝りの姉は、


「みっともないぞ、ハルト。男の子が女々しく泣いて帰ってくるんじゃない!! 負けてもいいからやり返してこい。それでもスタージョン流道場の跡継ぎか!!」


 と、一喝され、わけも聞かずに家の裏にある訓練場に連れていかれて武技の訓練をさせられたっけ。


 姉は母親似の整った顔立ちで、優しげな顔立ちだけど、鬼のように強く、悪魔のように厳しかった。

 秋の麦穂のような黄金の髪をなびかせ、ぼくを厳しく稽古をつけた。 

 あまりの厳しさに恨みに思ったものだが、今では感謝している。


 そうだ……姉さんならどう戦っただろう。


 ふっと、思い出したことがあった。


 そうだ、姉さんに聞いたことがあるぞ。

 

 あれは、昨年の秋ごろの訓練の時だったか……あの時も姉さんは秋風に長い髪の毛を麦穂のように揺らめかせて、ギュスターブさんのように木剣を大地についてそそり立っていた。


 あれは一年前、秋の収穫期になり、グリ高原の闘技場で薄がなびく野天の訓練場で、姉のエルマリアと木剣の闘技訓練をしていたときだ。


 ぼくは父にもらった魔剣に魔力を流し、長剣を頭の右側に寄せ、左足を前に二歩分出し、八相はっそうに構えた。体内に宿るマナを両手に流し、長剣に集めたのち、正面に振り下ろした。 


「大気に放たれし姿なき斬撃よ……音より速く魔を切り裂かん……てんノ武技・斬空旋撃破ソニック・スラッシュ!!」


 長剣から音速の斬撃破がはなたれ、的となる丸太に命中し、真っ二つに割れ、左右に倒れた。


「やった!! ついに天ノ武技・斬空旋撃破ソニック・スラッシュを使えるようになったぞ!!」


 ぼくは嬉しくて、小躍りして喜んだ。いつも口をへの字に曲げ、仏頂面の姉がこのときは口元をやわらげ、


「ハルト、だいぶマナを練る力が上達してきたようだな」


「ほんとうかい、姉さん!!」


「ああ、だが、まだまだだ」


 マナとは、自然界のどこにでも満ち、万物に宿る根源の力だ。 


 魔法使いや魔道士は体内に宿るマナや周囲の自然物に宿るマナを操って、魔法を使うことができる。魔法で炎を生み出し、水を操り、風を起こし、土に穴を掘ることもできる。


「マナ力を使えば、地水火風あらゆる魔法を剣にチャージして攻撃魔法を撃つことができる。だが、これを防御に応用することも可能だ」


「防御に?」


「そうだ。いわばマナを練って見えない盾を造り出し、術者の前面に展開することによって、敵の攻撃を防衛することができる」


「マナを見えない盾にって……そんな馬鹿な……姉さんはできるのかい?」


「あいにく私にはできない」


「なんだぁ……それじゃあ、父さんならできるんじゃ」


 ぼくは期待を込めて姉を見た。


「父もできない。魔法の相性というものがあるのだ」


「なんだぁ……それじゃ本当にあるかどうかも疑わしいよ」


「ある――世の中は広いぞ、ハルト。防御のマナという見えない盾をつかう武闘士や戦士もいるということは覚えておくがよい。己より強い敵には、じっと相手を監察して、弱点はないか探るのだ」


「ふ~~ん……」


 ぼくは実際に見ることのできない技よりも、できる事になった天ノ武技の技に有頂天になって、さらに斬空旋撃破の特訓を続けていた。


 当時のぼくは実際に見たものしか信用できない、狭量な心の持ち主だったと思う。


 うぅぅ……あの時は防御のマナななんて、あまり興味がなかったけど、もっと姉さんに聞いて、防御魔法の攻略法でも聞いておけばよかった……


「ギュスターブさん、あなたは防御魔法による見えない盾をつかっているのですね」


 ヴァイキングの戦士はにやりと人の悪い笑みを浮かべた。


「ほう、知っていたか……さて、次はどうでる、ハルト?」


 いかつい顔をしたギュスターブさんがイタズラ小僧のようにぼくを見た。


「うぐぅぅ…………」




 ぼくは彼が酔っぱらっていると思って、慢心していた。

 絵とはいえ三戦神の前で失礼なことだった。

 ここは闘技場であり、常に真摯に全力で戦わねばいけない。


 砂時計を見ると、あと4分しかない……


 焦ってしまい、精神がパニックになりそうだ。このままではミュリエルたちと冒険者になれない。


 どうすれば……


「みっともないぞ、ハルト!!」


 ひっ……ぼくを叱りとばす幻聴が聞えた。


 そうだ……姉さんなら、「あと三分もある」あの女傑な姉ならそう言うだろう。


「あなたは強いですね――負けても悔いにはならない。全力で戦わせて貰います」


「おう、その意気じゃい!」


 攻めあぐねて不動の姿勢を続けるギュスターブさんをじっと見た。


 姉さんが常々いっていた――「己より強い敵には、じっと相手を監察して、弱点はないか探るのだ」


 いくら見ても防御魔法の盾は見えない。そこで疑問が生じた。


 盾はギュスターブさんの身体をどんな風に覆っているのだろう?


 盾というからには、さっき見た円形盾のようなものがギュスターブさんの前面に存在しているのだろうか。


 さっき、上段からも下段からの攻撃もはね返された。肌感覚の経験で、何か見えないけど壁のように頑丈な物がギュスターブさんの前面に存在するのは分かる。


 では、見えない盾は横や背後にも張り巡らせられているのだろうか? 姉さんの言ったように前面だけならば、横や背後からの攻撃ならば、相手に攻撃を加えることができるに違いない。


 さっそく試してみる価値はある。

 ぼくは木剣を横水平に構えた。


「たあああああっ!!」


 ぼくは横水平の構えからギュスターブさんの前面に駆けていった。木剣を横薙ぎに叩きつけると見せて、直前でステップを切り、右方向へ回り込んで、脇腹めがけて木剣の力を加減して叩きつけた。


 やはり跳ねかえされた。左側もそうだろう。ぼくはそのまま背後へ回って距離を置いた。


 ギュスターブさんは後ろを向くだろうか様子をうかがう。


「ハルト、少しは考えたようだな。だが、わしは約束通り一歩も動かんわい」


 ヴァイキングの戦士は後ろ向きのまま自信たっぷりに言った。おそらく背後にも見えない防御魔法の盾があるのだろう。


 どうやら、審議官の前後左右にも円筒状の見えない盾が張り巡らされていることが肌感覚でわかった。姉さんのウソつき、何が見えない盾は前面だけだ。いや、もしかしたらギュスターブさんが凄い防御魔法の使い手なのかもしれない。


 なら、あの防御魔法の盾を壊して破るしかないのか。魔法剣の武技ならばバリヤを破壊することができるかもしれない。

 しかし、ぼくが持っているのはただの木剣だ。魔法剣でなければ魔法を剣に乗せてスタージョン流の魔法武技を使うことはできない。


 ダメだ――もう打つ手はない。


 砂時計を見るとあと2分ほど。


 さすが英雄の「銀雪の豹」パーティーが所属するだけのことはある冒険者ギルドだ。そこは、ぼくには越えられない高い高い壁のようなギルドだったんだ。


 ぼくは絶望にさいなまされる。


 いや、まだ手はある!



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