ハルト、パーティーネームに悩む
「いやあ……なんていうか、『銀雪の豹』みたいなカッコいいのがいいかなあ……」
ぼくはなんとかパーティーネームのあるべき方向性を示してみた。
「おう、豹なら強そうだな!」
「銀雪って表現は詩的でいいと思うわぁ……『銀雪の豹』みたいなパーティーネームにしましょうね!」
「うん……でも、なんだかハードルが上がってしまったような……」
そんなやり取りを受付嬢のお姉さんは微笑ましくながめていた。
「ほほほほ……パーティーネームは後でもいいわよ。まずは書類に記名してね」
ぼくらは設置された机で書類に記入する。エリーゼが自分の身長くらいの羽根ペンを持って書類に書こうとしている。可愛い姿だけど、20センチの身長で人間用の筆記具は大変そうだ。
「エリーゼは書くのが大変だろ。ぼくがあとで代筆してあげるよ」
「いんや、わっちが精霊使いなのを忘れたかい」
「えっ?」
「風の精霊よ……シルフィードよ……願いたてまつる……」
エリーゼが両手を前に出すと、書類机の上に小さなつむじ風が巻き起こり、長い髪で、トンボのような半透明の翅を背中に生やした女性の姿が見えた。
「麗しき記録者の腕となりて……わが詠唱を紙に刻み付けたまえ!!」
半透明の風霊シルフィードがふたたびつむじ風となり、羽根ペンが宙を浮いて、書類にエリーゼが話す言葉を自動書記のように書いていった。
「すっ、すごい……でも、風の精霊をこんなことに使っていいのかなあ……」
「いいじゃないか。こまかいことは気にすんなって、ハル坊!」
エリーゼがニヘッと邪気のない笑顔で応えた。
できあがった書類を受付嬢のお姉さんに渡した。彼女は書類を一枚一枚調べて読みはじめた。
あ……誤字脱字があったら直さないといけない、もっとよく確かめて出すんだった。
「ふ~~ん……武闘士のハルト・スタージョンくんに、魔法使い見習いのミュリエル・ボーモントちゃん、そっちの子は魔法動物のウィリアムくんね……使い魔の魔貂とは珍しいわね」
「フィヤ!!」
「あら、お返事できるのね……賢いし、可愛いわぁ……そして、もうひとりは精霊使いのエリーゼ・エリスン……小妖精族とはまた希少な種族が仲間なのねえ……ピクシー族って、初めて見たわぁ……可愛いなあ、もう」
「そうなの! エリーゼは口が悪いけど、見た目はかわいいの」
「一緒のパーティーだなんて、うらやましいわぁ……」
妖精好きのミュリエルと、可愛いもの好きらしい受付のお姉さんが同調していた。ふたりは似たタイプなのかな。
「おう、眼鏡、わっちには『炎の舌のエリーゼ』ってえ通り名があるんだ。わっちを見てくれだけで舐めてかかると痛い目にあうぜ!」
エリーゼが四枚翅をはためかせ、受付嬢の顔面にきてメンチを切った。
「ちょっ……エリーゼ、受付のお姉さんになんて事を!!」
「あらぁぁ……可愛い容姿だけど、毒舌キャラなのねえ……そこがスパイスとなっていいわあ……お姉さん、キュンキュンしちゃう!」
「なんなんだ、この眼鏡女……」
あきれるエリーゼは肩がくずれる。ミュリエルはうんうんとうなずき、
「受付のお姉さんは上級者なの」
「上級者って、何の!?」
受付のお姉さんは眼鏡のつるをスチャッとただして、
「いい遅れましたが、私は当ギルドの受付嬢を勤めるフレデリカ・ブラウニーです。書類を精査した結果、書類審査は通りました」
「えっ……もう、いいんですか?」
「つまり、受付のお姉さんが書類審査官でもあるのね」
ここの冒険者ギルドは少数精鋭なのかな。
「次に実技による資格試験を行います。武闘士のハルトくんは裏にある実技訓練所で審査官のコンラードさんに武技を見てもらいます。これが地図ですよぉ」
「はい!」
ぼくはフレデリカさんに小さな紙片を受けとった。
「そして、魔法使いのミュリエルちゃんと精霊使いのエリーゼちゃんは第二ホールへ来てくださいねえ」
「おい、炎の舌のエリーゼの二つ名を持つわっちに、ちゃん付けするなってんだ、コンコンチキめ!!」
「あら、ごめんなさい。ちゃんは無しね。気を付けるから、私を嫌わないでねえ……さあ、第二ホールはこっちですよぉ。魔法の実技を私が審査しますよ」
フレデリカさんは魔法実技の試験官でもあるんだ……
「おい、軽くいなすな。まだ言いたいことがあるぞ!」
「もお……エリーゼ、そんなに突っかからないでなの。さあ、行くわよ、試験所に……」
ミュリエルがわめいているエリーゼの服のすそをつかんで、空中にホバリングする彼女を引っ張る。
そして、フレデリカさんの後から第二ホールへ向かった。なんだか子供がトンボで遊んでいるような……
さて、ぼくも実技訓練所へいかなきゃ。いよいよ実技試験か……緊張するなあ。




