ハルト、冒険者ギルドを訪ねる
ぼくらは下町街区の南区へ向かって歩く。
黄昏の画廊がどんな所か話していると、ミュリエルが、
「『黄昏の画廊』の看板冒険者の名前を聞いたら、ハルトくんだって驚くの」
「えっ!? 僕でも知っている冒険者かな?」
「もちろんなの」
ミュリエルがイタズラっぽく微笑を浮かべた。う~~ん……誰だろう?
「あっ!! わっちにもピーンときたぜ!!」
「エリーゼにも分かるって……もしかして……もしかすると……『銀雪の豹』がメンバーにいるギルドかい!?」
「ご名答なの!!」
「すっ……凄い……昨年、魔王軍の指揮官、牙王イノグラディスを倒した勇者パーティーじゃないか!!」
「さっきの城壁をぶっ壊したカイザーオーク。そいつを倒した奴らだな。大したもんだぜ!」
旅人が都の土産話に語り、吟遊詩人が謳い、旅芸人が武勇譚を演劇にしている伝説の英雄が所属する冒険者ギルドか。
もしかしたら、彼らに直に会えるかもしれない。ぼくは興奮で体が打ち震えるようだ。
「あっ……でも、そんな有名人のいる冒険者ギルドだったら資格試験とかも難関なんじゃないかな……ぼくたちみたいな初心者が入れるかなあ……」
「うっ……それを言われると自信ないの……」
「フィヤァ……」
魔貂のウィルアムも御主人の意気消沈ぶりが伝わり首をかしげる。エリーゼがあきれたように、
「お前ら、自己評価が異様に低いなあ……いままで経験してきた冒険の活躍を忘れたのか!! まずは当ってくだけろだ!!」
「う、うん……エリーゼの言う通りだ。まずは『黄昏の画廊』に行ってみよう!」
「そうなの!!」
「フィヤ!!」
通りの人に道を教えてもらいながら、ぼくらは『黄昏の画廊』と看板が書かれた三階建ての建物に到着した。
よく見ると、なんというか……思っていたより壁がくすんで古びている。
「ここが噂の冒険者ギルドかぁ……なんだか、歴史と趣きがあるようだね」
「なんだか、ぼろっちい建物だなあ……」
「ぶっ!! ストレートに言うなあ、エリーゼは……」
「ちょっ……エリーゼ……そんな事をここでいわないの!!」
ミュリエルが慌ててエリーゼをたしなめる。
「あはっ♪ ごめん、ごめん」
とにかくぼくらは扉を開けて建物に入った。
なんだか緊張するなぁ……
中は数人の冒険者らしき人がいて、備え付けの机に何か書類を書いているようだ。まるで村役場みたいだけど……
正面にカウンターがあり、眼鏡をかけた二十代半ばくらいのお姉さんが座っていた。きっとこのギルドの受付嬢だ。
「あら、ぼくたち……ギルドに見学にきたの? それとも、知り合いからの言付けがあるのかしら?」
「あ、いえ……ぼくらは冒険者を目指してベルヌの町に来たんです。もしよければ、名高い冒険者ギルド『黄昏の画廊』に入りたくて……その、あの……」
しまった! 緊張して、言うべきセリフをど忘れしてしまった。しかもミュリエルの前で。我ながらかっこ悪いなぁ……もう。
「あの……私たち、冒険者ギルドの資格試験を受けたいんです」
ミュリエルがフォローしてくれた……ありがたや。
「まあ、そうだったの……なんて、可愛い少年少女でしょ……お姉さん、キュンキュンしちゃう!」
受付嬢のお姉さんは両手を組み合わせて、身震いしていた。変わった人に見えるけど……都会では普通なのかな?
「あっ、でも待って……うちのギルドは年齢制限があって、え~~っと……そうそう14歳からでないと入れないのよ」
「ぼくら、ちょうど14歳です!」
「そうなの!」
「わっちは137歳だ」
エリーゼが空中で胸をはっていう。受付嬢のお姉さんがびっくりした顔になる。
「えっ!? 137歳? あらまあ……可愛い妖精さんだけど、私よりも年上だったのね……」
ん? そういえばピクシー族は長命で、たしかエリーゼは人間族でいえば、12、3歳だったような……ま、まあ……来年になれば適正年齢だし、ギリギリ大丈夫かな。
「あら、そうだったの……みんな童顔だからつい……いえ、コホン……ではまず書類に名前と簡単な経歴を書いてね。書類審査をします……それから資格試験を行って、適正をみます。冒険者は危ない仕事だからね……一定の実力がないと、残念ながら入ることはできないのよ。ごめんねえ……」
「あっ、いえ……試験に受かればいいんですよね」
「もちろんそうよ……お姉さんとしては、あなた達みたいな可愛い子が入るのは大歓迎なんだけど、さっき言ったように色々あるからねえ……そうそう、あなた達って、チームみたいだけど、パーティーネームがあるならこの欄に記入してね」
「あっ、特にないです。どうしよう、今考えようか」
ぼくはミュリエルとエリーゼを見た。
「そう言われても急には思いつかないの……」
「じゃあ、『鋼鉄のイボイノシシ団』にすっか。どうだい、強そうだろ」
エリーゼが提案してきたけど、よりによって……
「ぜったいに却下なのぉ!!」
「なんでだよ。強そうでいいじゃないか?」
「全然かわいくないの!!」
ミュリエルが悲鳴をあげて断り、エリーゼは笑い転げる。いたずらと冗談が大好きな妖精だなあ……
「さすがにその名前はちょっと……さて、パーティーネームをどうしようか?」
「じゃあ、『ふわふわたんぽぽの綿毛クラブ』はどうかしら。可愛いでしょ?」
「ぶ~~~! そんなメルヘンチックな名前つけたら他の冒険者になめられるぞ! 却下だ、却下!!」
「なによぉ……ハルトくんはどっちがいいと思う?」
ミュリエルとエリーゼが、真剣な表情でぼくをに迫ってくる。
「えっ!? その二択なの?」
うっ……どうしようか……