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ハルト、露天商通りで活躍す

 見れば、金物の露天商のおじさんが道に投げ出され、鍋やフライパンなどの金具類が散乱している。


「おらぁぁ!! 金を出さないか!!」


「このあたりは物騒だから、俺たちトンプソン一家が店を守ってやろうというんじゃないか!」


 アゴの先が二つに割れた大男が叫んでいる。 


「そうさ、おとなしくミカジメ料を払えば痛い目に合わなくてすむんだぜ!!」


 近くにリンゴ売りのおばさんがいたので聞いてみた。


「なんですか、あの乱暴な男たちは?」


「ありゃ、トンプソン一家のギャングどもさ」


「ギャング? なんですかそれは?」


「ギャングってのは、下町俗語スラングで不良青年や暴力団のことさね。トンプソン一家は、表向きは人夫を斡旋する商会だけど、裏では下町の店々にこうやって難くせをつけるんだよ。露天商通りを縄張りだと勝手にいって、ミカジメ料と称して、商人から金をまきあげているんだよ」


「なんて奴等だ!」


 さっきのリンゴ売りのおばさんが、くやしそうに教えてくれた。


「思い知ったか商人ども!!」


「ビッグ・ジョーダンの兄貴はな、腕っぷしにかけちゃ、右に出る者がいないんだぜ!!」


 両隣の弟分と思われる不良青年たちがせせら笑っている。 


 金物屋のおじさんに怪我はないかと駆け寄る人はいても、露天商の人も客たちも黙って見ているだけで、何も言えないようだ。


「何をいうか……ここは天下の大通り。私たちは自由に商売をしていい許可を得ているぞ!!」


 おじさんは気丈に答え、彼を介抱する友人らしき商人も、


「そうだ、ベルヌには王国から派遣された治安騎士も、ベルヌ伯爵の私設警備兵もいるんだ。ギャングたちにミカジメなんか払う義理はないぞ!」


 ゴスッ!!


 その友人も大男に殴られて地面に倒れた。露天通りであちこちと悲鳴があがる。


「ハルト君……」


 ミュリエルが心配そうにぼくの袖をつかみ、ぼくは彼女にうなずく。


「ハルトぉ!! ソール様の剣の所有者として、やることは分かっているな!!」


 エリーゼがぼくの肩に飛んできてはっぱをかけた。


「ああ……ほうっておけないね……」


「はん! 治安騎士だの警備兵だのは貴族や大商人の住む地区に常駐しているがな、貧乏人の住む下町なんぞには常駐しちゃいねえ。月に数回見廻りにくるだけだ。仮にお前らが商人区の警備兵に駆け込んでもこっちに来るまでに俺達はここにいやしねえよ!」


 なんて悪知恵の働く奴等だ。商人たちが悔しそうな顔をする。どうも下町の治安はあまりよくないようだ。


「昨年の魔族との戦争で、兵士が大勢亡くなってねえ……下町まで警備の手が回らないから、トンプソン一家がのさばりだしたんだよ」


 リンゴ売りのおばさんが事情を教えてくれた。


「わかったら、さっさとミカジメ料を出しやがれ!!」


 弟分らしき男がさらに商人の腹を蹴ろうとした。


 もう我慢が出来ない。


 ぼくは自然と身体が動いていた。 


 蹴ろうとしたギャングが盛大にひっくり返った。


「ほぎゃあぁっ!?」


 ぼくが青年の軸足を引っ掛けて転ばせたのだ。 


「これ以上、乱暴なことはよした方がいいよ」


 彼等の無法ぶりに思わず手が……いや、足が出てしまった。


「なんだぁ、てめえはっ!?」


 大型な男が怒りで吠えた。 


「通りすがりの武闘士さ」


「このガキッ!! よくもマーキスを……おれたちの邪魔をすると容赦しねえぞっ!!」


 もう一人の弟分がぼくに殴りかかったが、半身でさけて、右手を逆捩じにひねりあげた。


「いてててて……骨が折れるぅ!!」


「おおげさだな……人に乱暴するなら、その逆のことも考えておかないとね!」


「そこまでにしな、小僧……トリーから手を離しやがれ!」


 不良青年を放し、ビッグ・ジョーダンという男に対峙する。ミュリエルやエリーゼ、露天商の人々が固唾を呑んでこちらを見守っていた。


「こんなところで無法なことは感心しないな」


「ほお……この俺様に大層な口をききやがるな……その度胸だけはほめてやろう。だが、商売の邪魔してもらっちゃ困るぜ!!」


 ビッグ・ジョーダンが丸太のように太い腕でぼくの顔面めがけてストレート・パンチをお見舞いしてきた。


 ぼくは膝を曲げて下に避けた。男のパンチが空振りして、がら空きになった胴へこぶしを叩きつけた。


「ぎゃふっ!!」


 大男は足元をよろめかせ、酩酊したように地面に転がった。


 このゴロツキは力はありそうだけど、前に戦った盗賊剣士のグロックと比べればハエが止まったような動きだ。


「兄貴、だいじょうぶかよ!!」


 助けおこそうとする弟分たちを邪険に手で押しのけるビッグ・ジョーダン。


「や……やりやがったな!!」


 起き上がった巨漢が革ベルトに挟んだ鞘から、ナイフを抜いた。露天商通りに悲鳴があがる。


「こんな昼日中からナイフを抜くなんて!」


「うるせえっ!! 俺に恥をかかせた奴にゃ、後悔させてやる!!」


 ナイフを持ったビッグ・ジョーダンの突きを、半身となってよけた。そして、ぼくは飛びあがり、がら空きの背中に渾身の肘鉄を喰らわせた。


「ぐはあぁぁ!!」


 盛大に地面に叩きつけられたビッグ・ジョーダン。

それを見て商人や客たちが静まり返り、やがて歓声があがる。


「おおおおおおおおっ!!」


「凄いぞ、坊や!!」


「あの乱暴者を倒しやがった!!」


 露天商の人やお客たちが歓声をあげた。


 取り巻きの二人がビッグ・ジョーダンを支えて起こすのが見えた。


「まずいですよ、兄貴。あのチビ、尋常じゃねえ強さだ!!」


「相手が悪いや……ここはひとまず退散したほうがいいですぜ!!」


「くそぉ……覚えてやがれ!!」


 捨て台詞を残してトンプソン一味の下っ端たちが露天商通りを逃げ去った。露天商の人達がわっとぼくに駆け寄って賞賛する。


「すごいぞ、坊や!!」


「武闘士って言ってたけど、かなりの腕だね!」


「トンプソン一家の奴等もたじたじだぁ!!」


 うわっ、大勢に注目されて恥ずかしい……


 目の隅っこで、殴られた商人に治療魔法をかけているミュリエルが見えた。


「大丈夫ですか、おじさん。今、治療魔法をかけるの」


 ミュリエルは商人のおじさんの殴られた箇所に、杖をかざした。そして神聖ルーン語で呪文を唱えた。


「万物に宿りしマナよ……いやしの光となって安らぎを与えん……回復治療ヒーリング・キュア!!」


 杖先から淡い光がはなたれ、商人の全身に温かいマナが流れていった。内出血した患部は、自然と治っていった。


「おお……治ったぁ!! お嬢ちゃんは治療師ヒーラーなのかい?」


「いえ……魔法使いの見習いなの」


 照れているミュリエルも可愛い。優しいなぁ……彼女は。


 ミュリエルは攻撃魔法が不得手だけど、治療魔法は一流だ。魔法はその人の人間性が大きく関与するという。彼女の優しさが治療魔法を得意とさせているのかもしれない。


「ありがとう、坊や!! お陰で助かったよ!!」


 リンゴを売ってくれたオバサンが声をかけてきた。


「いえ……どうにも見過ごせなくて」


 ぼくは思わずはにかんでしまった。エリーゼがぼくの傍らに飛んできて肩にとまった。


「胸がスカッとしたぜ、ハル坊!! 見ろよ、あの暴力をふるって威張ってやがったチンピラどもを。ぶざまな体たらくじゃねえか!!」


 ピクシーが愉快に笑い転げた。




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