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ハルト、下町を歩く

 貿易の馬車隊は城門の前へ行き、詰所でコグスウェルさんが手形を見せて受付をしていた。その間にぼくは城壁を間近で見上げた。


 十数メートルはある掘の向う側にある城塞都市の城壁。その上には一定間隔で望楼が設置されているのが見えた。城壁のあちこちに穴が見えるが、矢を撃ちだす狭間だろう。城塞都市を襲ってきた外敵や魔王軍などを矢で撃つためのものだ。 


 コグスウェルさんの手続きが終わり、無事、ベルヌの街に入ることが出来た。 


 堀にかかっている跳ね橋を渡り、薄暗い城門の天井の下を通ると真っ暗になり、すこし不安になるが、やがて陽光が見えた。


「うわぁぁ……見渡すかぎり人ばかりだ……ぼくの村とは大違いだよ」


 城壁の外にも家並みはあったが、こちらはさらに密集した街が広がっていて、通行する人々の数もけた違いだ。


「この町には人間がいっぱいいるなあ……妖精の里の何十倍、いや何千倍も人間族がいるぞ!!!」


 ぼくとエリーゼは初めてなので興奮やるかたない。

 ぼくたちは城門に入ってから東区と呼ばれる下町で馬車を下ろしてもらった。 


 そして、今回の護衛の仕事の報酬を受け取った。


「えっ!? こんなにいいんですか!!」


「もちろんですじゃ……オークに襲われた所を助けてもらい、さらに盗賊団『黒い蠍』に捕えられた危機をも救ってもらい、ハルト殿たちには感謝しても、感謝したりませんぞ! 我等の命の大恩人です。何か困ったことがあったら、コグスウェル商会を尋ねてくだされ、必ず相談にのりますぞ!」


「ありがとうございます。助かります。感謝いたします、コグスウェルさん!!」


「ここまで馬車に乗せてもらって、ありがとうごとうなの、コグスウェルさん!!」


「フィヤ!」


「わっちも楽させて貰ったぜ、商人のおっちゃん!」


 護衛戦士の皆さんにも別れのあいさつをした。


 斧使いのマクラグレンさんが小首をかしげて言う。


「そういや、お前達は冒険者になるためにベルヌの町に来たんだったなぁ……俺も冒険者に鞍替えしたら、ミュリエルちゃんみたいな可愛い子とパーティーを組めるかな?」


「おっ、グレン、冒険者稼業に興味があるのか?」


「お前はまだ若い……護衛戦士から冒険者に鞍替えしてみるのもいい経験になると思うぞ」


 女護衛戦士のタイニーさんと髭面のホックバウアーさんが茶化した。


「まあ……おいおい考えてみるけど、今は取りあえずまだ、次の護衛の仕事の約束があるんでね」


 コグスウェルさん達はこの先にある商人の住む街区に店舗兼住居があるのだ。 


 彼らに別れを告げ、ぼくらは下町の通りを歩く。


 ベルヌの城塞都市は巨大な円形であり、直径は10kmに及ぶ巨大なものだ。その中にも円形の城壁が二つあり、合計三つの円形の城壁が同心円状に囲んでいる。これは元々中心の小さな城壁が最初の城の塀であり、年月が経つにつれて、外側に建て増しをしていったそうだ。


 中央に丘陵地帯があり、その一番高い土地にベルヌの町の領主であるベルヌ伯爵が住まう城館があった。


 その周囲には家臣団や護衛の騎士や警備隊の住宅街が円形に取り囲む。これを取り巻くのが最初の塀である『第一の城壁』だ。


 ここがベルヌ中央区であり、行政区で最初の町であった。


 その周囲を取り巻くのが大商人などの富裕層が住む街区であり、それを取り巻く塀は『第二の城壁』という。


 さらにその周囲を取り巻くのは、漁業や人夫などの家族が住む一般庶民の住まう地帯であり、下町と呼ばれる街区で東西南北の四区の名称で分けられている。


 冒険者ギルドは南街区の下町にあるという。辺境でも身分や貧富の差はあるけど、この城塞都市では明確に街区ごとに分けられているようだ……


「そういえば、冒険者ギルドはこの町にいくつかあるのかな?」


「え~~っと、大きな冒険者ギルドが下町に三つあるわ。ブリトルズ司令が書状を書いてくれたサーリング卿は、これから行く『黄昏たそがれ画廊がろう』のギルドマスターなの」


「『黄昏の画廊』!? ……それって、名前だけ聞くと夕焼けの絵を展示したり、売ったりいる施設に聞こえるけど……」


「れっきとした冒険者ギルドなの。ギルド名が『黄昏の画廊』っていうのよ」


「ふ~~ん……絵画の好きなギルドマスターなのかな?」


「まったく、冒険者ギルドってんだから、もっと勇ましい名前をつけりゃいいのにな!」


「うん、ぼくもエリーゼと同意見だなあ」


「うふふっ……たしかに変わっているかもなの」


 ぼくらはさまざまな食べ物や品物を売る露店が左右にならぶ通りを通った。この街区に住む人々は貧しい身装をしているが、にぎやかで活気がある。人間らしい生命いのちの輝きがあるようで、素敵に思えた。


「どうだい、お嬢ちゃんに坊ちゃん、リンゴはいらんかね!」


「わっ!!」


 急に声をかけられてびっくりした。


 露天にいろいろな果物や野菜をならべている恰幅の良いおばさんが、真っ赤なリンゴを見せた。


「へえ……色のよいリンゴですね」


「ああ、女神フリッガ様の『子宝を授けるリンゴ』にゃ、およばないが、果蜜もたっぷり、歯ごたえシャキシャキの美味しいリンゴだよ!」


 ぼくらは護衛料を貰って懐が温かいこともあって、リンゴを四つ買った。そして近くにあった噴水のある公園のベンチに座り、リンゴを食べることにした。


「フィヤ!」


 ウィリアムはさっそくリンゴをかじり始めた。


「うふふ……美味しい、ウィリアム?」


「フィヤ!!」


「おお、こいつはうめえ!! 森にある野イチゴや山ブドウよりうまいかもしんねえな」


 エリーゼがあっというまにリンゴを食べ尽くした。小さな体のどこへいった?


 ドシャアァ!!


 そのとき、通りの方で大きな物音と悲鳴がした。

 

 いったい、どうしたんだろう!! 



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